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ガイが帰らなくなって一月が経った、さすがに私も諦めて10日前に引っ越ししている。
彼の荷物は纏めて、騎士団へ預けたが受け取るかどうか。
一応まだ騎士は続けてるのね
ふと思い出して凹むこともあるけど、少しづつ前を見るようになった。
パン屋の女将さん親子は「悪縁が切れて良かったんだよ」とそう言って慰めてくれた。
失恋から立ち直ってきた雨の日だった、湿気で曇った店のガラスを磨いていたら長身の青年が向こう側から手を振っている。
常連のグランプさんだ。
準備中の札が下げてあるので遠慮しているのだろう。
私が店内へどうぞとジェスチャーすると嬉しそうに微笑んで入って来る。
「やぁ、ありがとう。今日は雨が酷くて寒いよ」
「手先が青くなってるわ、2階でお茶でもいかが?いま休憩するところなんです」
それは有難いと冷え切った体を擦って、私の後を付いてくる。
いつも通りパンを3個貰って2階へあがった。
「女将さん、常連さんが長雨に凍えていて気の毒なのお茶をだしていいかしら?」
「まぁ、大変!あらグランプじゃないの!遠慮なく通して、隣の部屋を使っていいわ。タオルも貸してあげる」
「ありがとうございます」
こっちですと手招きすると鼻を赤くしたグランプさんが「助かったよ」とニッコリ笑う。
彼は女将さんに挨拶して私と移動する。
隣室に入ると彼は雨に濡れた外套を脱ぎ、髪の毛をタオルでガシガシと荒っぽく拭っている。
なんだか犬みたいだ。
「ふふっ」
「ん、なにか?」
「なんか店内で見る姿と部屋で見る姿が違って見えて、不思議だなぁって」
「そうかな、キミはいつも通り綺麗だね」
いきなり世辞を言われてちょっと吃驚した。あ、いけないお茶を貰ってこなきゃ。
泥炭ストーブに火を入れて、待っててねと声をかけて隣へ戻る。
ダイニングキッチンでは女将さんが機嫌良さそうにしている、どうしたのかしら?
「季節は梅雨だけど春ねぇ……」とよくわからないことを呟いてニコニコしている。
「お茶を頂いていきますね」
「はいはーい、グランプにこれ食べてもらって、雨で客も来ないしゆっくりしていいよ」
女将さんがサンドウィッチが盛られた皿を差し出してきた。
お礼を言って再び隣室へ行く。
それから二人で遅めの昼ご飯を食べる、優しい時間が流れているなんだか擽ったい。
「お茶が染みるねぇ、え……ックシュ!」
「だいじょうぶですか?」
クシャミをしたグランプさんはかなり鼻が赤い、風邪気味なのかも。
彼は平気だと言ってまたクシャミをする。
しかし、山盛のサンドウィッチをペロリと平らげたから元気なようだ。
パンを食べながら私達は他愛ない話をした。
グランプは姓で”ディーン”という名ということ、彼が毎朝買うパンは実はオヤツだということ、彼も騎士団に所属していて役職に就いていること。
そういえば彼は軍服を着ている、いつも外套に隠れていて気が付かなかった。
「やっぱりね~足りないと思ってました、大柄なのに2,3個しか買わないから」
「はは、まぁね騎士団の食事は量もあって美味いけど。鍛錬後は腹が空いてね辛いんだよ」
購買にはクッキーくらいしか置いていなく、それも争奪戦らしい。
「菓子類はがっつきの若手に譲るためにパンは欠かせないんだよ」
「そうだったのですね、調理パンは私の担当なんです。卵サンド美味しいですか?」
とても美味しいと言って「休みの日も食べられたら幸せなのに」と零す。
褒め過ぎでは?
それから小雨になったタイミングでグランプさんは帰り仕度をする。
去り際に「今日のお礼をしたいから、週末は開けておいて」と言い残していく。
気にしなくて良いと断ったが、悲しい顔でどうしてもと押されやむなく了承した。
「捨てられた犬みたいな顔はずるいわよ」
私はシトシト降る雨を見つめて「ふふふっ」と笑う。
彼の荷物は纏めて、騎士団へ預けたが受け取るかどうか。
一応まだ騎士は続けてるのね
ふと思い出して凹むこともあるけど、少しづつ前を見るようになった。
パン屋の女将さん親子は「悪縁が切れて良かったんだよ」とそう言って慰めてくれた。
失恋から立ち直ってきた雨の日だった、湿気で曇った店のガラスを磨いていたら長身の青年が向こう側から手を振っている。
常連のグランプさんだ。
準備中の札が下げてあるので遠慮しているのだろう。
私が店内へどうぞとジェスチャーすると嬉しそうに微笑んで入って来る。
「やぁ、ありがとう。今日は雨が酷くて寒いよ」
「手先が青くなってるわ、2階でお茶でもいかが?いま休憩するところなんです」
それは有難いと冷え切った体を擦って、私の後を付いてくる。
いつも通りパンを3個貰って2階へあがった。
「女将さん、常連さんが長雨に凍えていて気の毒なのお茶をだしていいかしら?」
「まぁ、大変!あらグランプじゃないの!遠慮なく通して、隣の部屋を使っていいわ。タオルも貸してあげる」
「ありがとうございます」
こっちですと手招きすると鼻を赤くしたグランプさんが「助かったよ」とニッコリ笑う。
彼は女将さんに挨拶して私と移動する。
隣室に入ると彼は雨に濡れた外套を脱ぎ、髪の毛をタオルでガシガシと荒っぽく拭っている。
なんだか犬みたいだ。
「ふふっ」
「ん、なにか?」
「なんか店内で見る姿と部屋で見る姿が違って見えて、不思議だなぁって」
「そうかな、キミはいつも通り綺麗だね」
いきなり世辞を言われてちょっと吃驚した。あ、いけないお茶を貰ってこなきゃ。
泥炭ストーブに火を入れて、待っててねと声をかけて隣へ戻る。
ダイニングキッチンでは女将さんが機嫌良さそうにしている、どうしたのかしら?
「季節は梅雨だけど春ねぇ……」とよくわからないことを呟いてニコニコしている。
「お茶を頂いていきますね」
「はいはーい、グランプにこれ食べてもらって、雨で客も来ないしゆっくりしていいよ」
女将さんがサンドウィッチが盛られた皿を差し出してきた。
お礼を言って再び隣室へ行く。
それから二人で遅めの昼ご飯を食べる、優しい時間が流れているなんだか擽ったい。
「お茶が染みるねぇ、え……ックシュ!」
「だいじょうぶですか?」
クシャミをしたグランプさんはかなり鼻が赤い、風邪気味なのかも。
彼は平気だと言ってまたクシャミをする。
しかし、山盛のサンドウィッチをペロリと平らげたから元気なようだ。
パンを食べながら私達は他愛ない話をした。
グランプは姓で”ディーン”という名ということ、彼が毎朝買うパンは実はオヤツだということ、彼も騎士団に所属していて役職に就いていること。
そういえば彼は軍服を着ている、いつも外套に隠れていて気が付かなかった。
「やっぱりね~足りないと思ってました、大柄なのに2,3個しか買わないから」
「はは、まぁね騎士団の食事は量もあって美味いけど。鍛錬後は腹が空いてね辛いんだよ」
購買にはクッキーくらいしか置いていなく、それも争奪戦らしい。
「菓子類はがっつきの若手に譲るためにパンは欠かせないんだよ」
「そうだったのですね、調理パンは私の担当なんです。卵サンド美味しいですか?」
とても美味しいと言って「休みの日も食べられたら幸せなのに」と零す。
褒め過ぎでは?
それから小雨になったタイミングでグランプさんは帰り仕度をする。
去り際に「今日のお礼をしたいから、週末は開けておいて」と言い残していく。
気にしなくて良いと断ったが、悲しい顔でどうしてもと押されやむなく了承した。
「捨てられた犬みたいな顔はずるいわよ」
私はシトシト降る雨を見つめて「ふふふっ」と笑う。
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