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戦火の先に(覚醒)篇

帝都へお忍び

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午後2時過ぎ、少し地味めの馬車がティルベル城の裏門から出立した。
乗車したのはレオニード達4人だ、ガルディも同行したいと騒いだが護衛と侍女を含めると定員オーバーだ。さらに帝国の大臣らとの会談があったため王妃ジュリアに「お立場がおありでしょう」ときつめの雷が落とされた。さすがのガルディも王妃には頭が上がらず一国の王として外交を蔑ろに出来ず泣く泣く引いた。

「はぁ、ガルディのヤツは学生気分が抜けないままなんだな俺は今年卒業だけど」
「アハハハ、面白い王様だよねぇ。嫌いじゃないよ」左の窓際に座るフラウットが足をブラブラさせて愉快に笑った。視察とは言ってもほぼ観光である、ガルディが遊びたがる気持ちは良く分かる。

どこのカフェでお茶をしようかと女子たちは車窓を眺めつつデザートの話題に花を咲かせ、レオニードは面白い食材が売ってそうな商店を探したくてウズウズしている。

「帝国の郷土料理はなんだろうな?」レオニードは腕組して商店街の食べ歩きを提案する。それを聞いたバリラは今更かよと声をかけた。

「城の料理人と話題にのぼらなかったのか?特別変わったもんはないけど炙り肉は有名かな」
鳥、牛、豚の肉をミックスしてギュウギュウに一塊にして炙って食べる料理が名物なのだと彼女は教える。

「へぇ、そうなんだ。……仕事の話以外で城の料理人とは口を利いてないんだよ。他所から来た若造が宮廷料理に口を挟んだわけだから歓迎されなかった」
「あーまあ、帝国の人間はプライドが高いからな……”帝国人、陽の山を高く越える”と例えるくらいには」
バリラはそう言って車窓から覗ける高い山を指差した。

「陽の山ってのは帝国で一番高くて朝陽が真っ先に当たる場所でさ。それに負けじと矜持を持てって言われてんの」
「なるほどね、まるで元皇帝ヴェラアズみたいだな……」
彼らが妙な感心をしていると右端に座っていた侍女が「その通りですわ」と悪戯な笑みを浮かべて同意する。

「いまの声……ま、まさか!?」
思わず立ち上がったレオニードは馬車の天井に思い切り頭を強打して悶絶した。

「クスクス、早速ばれちゃったですわ。声色を変えたつもりでしたのに」
侍女に扮した彼女は悪戯を成功させたと満足そうに笑って伊達眼鏡を外し、メイド帽に隠した銀髪をサラリと流す。
「……ティル!就任早々なにをやってんだ!おまっ!バレたら大事だぞ!」
「ティル!?うっそー大胆だなお前ギャハハハッ流石わたしの親友だぜ」
「うふふふ。でしょ?」

バリラは愉快に大笑いして親友の闖入を歓迎したが、レオニードは青褪めて震えフラウットは「やれやれ」と肩を竦めた。でもどうしてこんなことにとレオニードは疑問に思った。

「うふ、ジェイラが手引きしてくれましたの。お忍びで遊んじゃおうとね」
「な……なんで!?ジェイラ?お前……」

「えへ、ハミコにされたらティルが可哀そうだと思ってさ。だって仲間じゃない?」
そういうことじゃないだろうとレオニードは手で顔を覆い「なんてことを」と嘆いた。下手をすれば誘拐と騒がれても仕方がない、外交問題で済まないと顔色を悪くする。

「ごめんなさいレオ、迷惑をかけないように細心の注意を心がけますわ。それに本日分の執務は済ませてきましたわ」
「てぃーりーるー、もし不測の事態が城で起きたら……」
「あら、なんの為に宰相がいると思ってますの?それに皇帝には影武者が常に5人控えてますわ、問題ありません」
「問題だらけだよ!」

何度も問答し怒るレオニードに「酷い、レオはわたくしが嫌いになったの」とティリルは泣き真似をして困らせた。
そして援護参戦した女子たちに孤軍のレオニードが勝てるわけもなく……。

***

「いいか。くれぐれもハメを外さない様に!俺達からぜーーーったい離れない様に!」
「わかっておりますわ、だって私は侍女ですもの、つかず離れずついて参ります!」
侍女に扮したティリルはお任せあれとばかりに踏ん反って言い返す。

「さぁルヴェフル侯爵様、貴族御用達のカフェに参りましょう。以前もバリラと一緒によく来たものですわ」
「あーはいはい、案内ご苦労」

レオニードはどうにでもなれとやけ気味そう返すと、急に腕に重みがかかった。ティリルが巫山戯て腕を回してきたのだ。驚くレオニードに彼女は彼の顔を見上げて微笑む。

「いつの間か私より背が高くなりましたのね。出会った頃の目線は下でしたわ」
「あ、あぁ……14歳だったし……育ちざかりだからね」
「もう3年も一緒にいますのね年月は早いですわ」
「そ、そうだね、あ、あは……は」

恋人同士というより弟の成長を喜ばしく思う姉という図であったが、レオニードとてお年頃である若干挙動不審になっている。もっとも精神年齢はアラサーのオッサンなのであるが。やはり美女には弱いものなのだ。

「ほら、そこですわ紫と白い屋根のお店。オススメはフルーツケーキですの」
「へぇ、それは楽しみだな」

女帝自らお勧めするそこは落ち着いた雰囲気のカフェであった。
調度品がダークブラウンで統一されて、ゆったりとした配置の各テーブルにはふかふかのソファが設置されていた。

「うわーお上品……ほんとにバリラも来てたのぉ?」
「な!わたしだってこれでも伯爵家の娘なんだからな!」
揶揄うフラウットにバリラは憤慨してギャーギャーと騒ぎ立てる、ほら見たことかと更に揶揄うフラウット。

「ちぇ!なんだい男勝りで悪かったな……って。ジェイラ?どうしたんだ?おい?」
店に到着してから一言も発しないジェイラにバリラは不審そうに見つめた。
どうにも視点が合わず何もない空間をボンヤリと眺めている、渡されたメニューすら開こうとしない。

「ジェイラ?」
「……だいじょうぶ、私は平気よ……ちゃんと……やってみせ……る」





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