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戦火の先に(覚醒)篇
穏やかな日
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「いつ食べても美味いな~」
誰かの手料理を食べたのは久しぶりだと言って、レオニードは3倍増しの食欲を発揮した。カリーセットとドリアをペロリ平らげて、次はなにを注文しようかメニューを開いている。
「季節のシチューはキノコとチキンか、猪豚のローストも捨てがたいな」
「レオ~、その調子じゃデザートが入らないよ?アップルパイのマロンアイス添えは絶対たべるべきだもん!」
「ぐぬ!?秋の限定メニューか……くぅ!」
「ご主人様、また来れば良いじゃない?どれもこれも季節限定メニューが多すぎるよ」
ジェイラの提案にそれもそうかとレオニードは考え直して新作デザートに絞ることにした。その右前に座るバリラは黙々と皿を空にしてバゲットのおかわりをしていた。
「あら、皆さんすごい食欲ね。でも当然よね、成長期なんだもの」
給仕していたメリアが嬉しそうに微笑みながらレモン水を注いでまわった、レオもバリラも大分背が伸びていると言った。
「え、俺は成長してたんだ?……うーん、そっか最近やたら腹が減るもんな食べても追いつかないし寝てると節々が痛いんだよ」
そうぼやくレオニードをマジマジ観察してフラウットが15cmは伸びたんじゃないかと言う。装備品を新調するべきだとバリラも同意する。
「私もなんか衣服が縮んだとは思ってたんだ、食べ過ぎて太ったのかと思ってた。もぐもぐ」
「本人は気が付かないものかもね、私は成長止まってるし」
19歳になって成人間近のジェイラは少し羨ましそうにバリラを見つめた、そして恋がしたいなぁと溜息をつく。
みんなの様子を見守っていたフラウットは思案顔になり、ゆっくりのんびり年を重ねる獣人の彼女は「100年後くらいには伸びてるかなぁ?」と己の頭をポンポン叩く。
たらふく食べた彼らは眠い目を擦る、動くのが辛いと言うのを聞いたメリアは休憩室を使って良いと笑った。
***
長テーブルに臥せったり、カウチに延びて惰眠を貪る一行。1時間ほどした頃レオニードは誰かのクシャミ音で目を覚ました。大鼾をかいていたバリラが少し寒そうに縮こまっている。
「たく……しょうがないな」
カウチにあったブランケットをそっとかけてやり、時計を確認してからキッチンへと向かう。午後3時過ぎは仕込みの最中だと知っていたレオニードは手伝いでもしようと思ったのだ。
「グーズリーさん、休憩室を占拠しちゃってごめん。ちゃんと休んだ?何か手伝いできないかな」
大きな背中に向かって声をかけると巨大鍋と格闘していたシェフ兼店主のグーズリーが振り向いた。
「おお!師匠、気を使わせてすまんな。ふぅイテテテ……」
ベシャメルソースを作り終えた彼は、巨体を揺らして鍋を作業台へ移して椅子に腰かけた。ティリルがいたら癒し魔法をかけていただろう。そう思ってしまったレオニードは胸の奥がチクリとする。
ほんの少し歓談したふたりは次は玉葱を炒める作業をしようと張り切る。そして山と積み上げった玉葱を剥きまくり、ザクザクと切り進めた。美味しいものを作るには手がかかるのだ。ふたつの鍋に山盛りほおりこまれた白い玉葱はみるみると嵩が減っていく、だが飴色になるのは大分先である。
「戦場に行ったんだってな帝国軍はどうだった?」大陸の覇者フェインゼロスはさぞ恐ろしかっただろうとグーズリーは肩を震わせた。
「んーん、噂ほどではなかった。というか3万の兵と聞いてたけど2千も居なかったよ」
たった一人の魔導士に蹂躙されて白旗寸前に追い込まれていたことをレオニードは見たまま聞いたままを話してきかせた。
「なんだって!?たった一人の魔導士に殲滅されたってか……えぇ信じられねぇ」
「いやいや、殲滅ではないけどさ。とにかくすごい人だってさ、俺達が現場についたのは収束寸前だった、攻撃していた場面を見てみたかったな」
一冒険者としてそう感想を述べるレオニードに、グーズリーは木ベラを回しつつ「うぬー」と唸って思案顔である。
そして、なにかを思い出したのか小さく「うん、あの方ならばやりかねん」とひとりで納得しているようだった。
そんな彼に質問したくなったレオニードだったが、そこへ買い出しから戻ったメリア夫妻がキッチンへドタドタ入ってきた。
話題が食材の話にかわった為、それ以上問うことは出来なかった。
「みてみて~まだ新鮮なマスカットが売っていたのよ!でも量はないからみんなで食べちゃいましょう、それから面白い豆が安く売ってたの!なにかしらこれ?」
「おいおい、調べもせずに買い込んだのかよ。持て余したらどうすんだ?」
兄のグーズリーが呆れて軽率な妹を窘める、傍らに申し訳なさそうに佇むメリアの夫が「制止できませんでした」と悄気た。
だがメリアは反省の色を見せずにふんぞり返って宣う。
「持て余すわけがないわ!ねぇ?レオ?」
「え」
麻袋10kgほど買い込んだそれは濃い赤紫の豆だった、レオニードはなるほどと頷くと早速に「洗いましょう」と言ってニッコリ笑う。
「テトラでこの豆を買うのは俺くらいかと思ってましたよ。ツヤツヤで粒も大きい良い小豆だよ、餡子炊きを頑張ろうか」
「やっぱりレオなら知ってると思ってた!でもあんこ?聞き慣れない料理だわね」メリアは小さな豆を指先で弄ぶ。
「本当は一晩水に浸すんだけど。綺麗に洗ってアク抜きして圧力鍋で煮てしまえば問題ないよ」
それを聞いたメリアは子供のようにはしゃぐ、炊きあがった餡子はすぐに食べることが出来ると聞いて興奮するのだった。
「レシピはいろいろありすぎて俺でも迷うくらいだよ、春先には草餅を食べたし。秋のいまなら羊羹、栗どら焼き、団子、ど定番のおはぎ。朝食に餡バタートースト、寒い冬ならお汁粉!これがまた美味いんだ~!あとね保存食として甘納豆がお茶請けに合ってさケーキ生地に混ぜても良い。実はお赤飯が俺の大好物なんだ!豆が潰れちゃうから祝い事に使われないけど」
レシピを言いまくるレオニードにメリアはもっと詳しくと迫るのだった。
すっかり蚊帳の外にされたグーズリーとメリアの夫カールは玉葱を炒めるのに集中した。
誰かの手料理を食べたのは久しぶりだと言って、レオニードは3倍増しの食欲を発揮した。カリーセットとドリアをペロリ平らげて、次はなにを注文しようかメニューを開いている。
「季節のシチューはキノコとチキンか、猪豚のローストも捨てがたいな」
「レオ~、その調子じゃデザートが入らないよ?アップルパイのマロンアイス添えは絶対たべるべきだもん!」
「ぐぬ!?秋の限定メニューか……くぅ!」
「ご主人様、また来れば良いじゃない?どれもこれも季節限定メニューが多すぎるよ」
ジェイラの提案にそれもそうかとレオニードは考え直して新作デザートに絞ることにした。その右前に座るバリラは黙々と皿を空にしてバゲットのおかわりをしていた。
「あら、皆さんすごい食欲ね。でも当然よね、成長期なんだもの」
給仕していたメリアが嬉しそうに微笑みながらレモン水を注いでまわった、レオもバリラも大分背が伸びていると言った。
「え、俺は成長してたんだ?……うーん、そっか最近やたら腹が減るもんな食べても追いつかないし寝てると節々が痛いんだよ」
そうぼやくレオニードをマジマジ観察してフラウットが15cmは伸びたんじゃないかと言う。装備品を新調するべきだとバリラも同意する。
「私もなんか衣服が縮んだとは思ってたんだ、食べ過ぎて太ったのかと思ってた。もぐもぐ」
「本人は気が付かないものかもね、私は成長止まってるし」
19歳になって成人間近のジェイラは少し羨ましそうにバリラを見つめた、そして恋がしたいなぁと溜息をつく。
みんなの様子を見守っていたフラウットは思案顔になり、ゆっくりのんびり年を重ねる獣人の彼女は「100年後くらいには伸びてるかなぁ?」と己の頭をポンポン叩く。
たらふく食べた彼らは眠い目を擦る、動くのが辛いと言うのを聞いたメリアは休憩室を使って良いと笑った。
***
長テーブルに臥せったり、カウチに延びて惰眠を貪る一行。1時間ほどした頃レオニードは誰かのクシャミ音で目を覚ました。大鼾をかいていたバリラが少し寒そうに縮こまっている。
「たく……しょうがないな」
カウチにあったブランケットをそっとかけてやり、時計を確認してからキッチンへと向かう。午後3時過ぎは仕込みの最中だと知っていたレオニードは手伝いでもしようと思ったのだ。
「グーズリーさん、休憩室を占拠しちゃってごめん。ちゃんと休んだ?何か手伝いできないかな」
大きな背中に向かって声をかけると巨大鍋と格闘していたシェフ兼店主のグーズリーが振り向いた。
「おお!師匠、気を使わせてすまんな。ふぅイテテテ……」
ベシャメルソースを作り終えた彼は、巨体を揺らして鍋を作業台へ移して椅子に腰かけた。ティリルがいたら癒し魔法をかけていただろう。そう思ってしまったレオニードは胸の奥がチクリとする。
ほんの少し歓談したふたりは次は玉葱を炒める作業をしようと張り切る。そして山と積み上げった玉葱を剥きまくり、ザクザクと切り進めた。美味しいものを作るには手がかかるのだ。ふたつの鍋に山盛りほおりこまれた白い玉葱はみるみると嵩が減っていく、だが飴色になるのは大分先である。
「戦場に行ったんだってな帝国軍はどうだった?」大陸の覇者フェインゼロスはさぞ恐ろしかっただろうとグーズリーは肩を震わせた。
「んーん、噂ほどではなかった。というか3万の兵と聞いてたけど2千も居なかったよ」
たった一人の魔導士に蹂躙されて白旗寸前に追い込まれていたことをレオニードは見たまま聞いたままを話してきかせた。
「なんだって!?たった一人の魔導士に殲滅されたってか……えぇ信じられねぇ」
「いやいや、殲滅ではないけどさ。とにかくすごい人だってさ、俺達が現場についたのは収束寸前だった、攻撃していた場面を見てみたかったな」
一冒険者としてそう感想を述べるレオニードに、グーズリーは木ベラを回しつつ「うぬー」と唸って思案顔である。
そして、なにかを思い出したのか小さく「うん、あの方ならばやりかねん」とひとりで納得しているようだった。
そんな彼に質問したくなったレオニードだったが、そこへ買い出しから戻ったメリア夫妻がキッチンへドタドタ入ってきた。
話題が食材の話にかわった為、それ以上問うことは出来なかった。
「みてみて~まだ新鮮なマスカットが売っていたのよ!でも量はないからみんなで食べちゃいましょう、それから面白い豆が安く売ってたの!なにかしらこれ?」
「おいおい、調べもせずに買い込んだのかよ。持て余したらどうすんだ?」
兄のグーズリーが呆れて軽率な妹を窘める、傍らに申し訳なさそうに佇むメリアの夫が「制止できませんでした」と悄気た。
だがメリアは反省の色を見せずにふんぞり返って宣う。
「持て余すわけがないわ!ねぇ?レオ?」
「え」
麻袋10kgほど買い込んだそれは濃い赤紫の豆だった、レオニードはなるほどと頷くと早速に「洗いましょう」と言ってニッコリ笑う。
「テトラでこの豆を買うのは俺くらいかと思ってましたよ。ツヤツヤで粒も大きい良い小豆だよ、餡子炊きを頑張ろうか」
「やっぱりレオなら知ってると思ってた!でもあんこ?聞き慣れない料理だわね」メリアは小さな豆を指先で弄ぶ。
「本当は一晩水に浸すんだけど。綺麗に洗ってアク抜きして圧力鍋で煮てしまえば問題ないよ」
それを聞いたメリアは子供のようにはしゃぐ、炊きあがった餡子はすぐに食べることが出来ると聞いて興奮するのだった。
「レシピはいろいろありすぎて俺でも迷うくらいだよ、春先には草餅を食べたし。秋のいまなら羊羹、栗どら焼き、団子、ど定番のおはぎ。朝食に餡バタートースト、寒い冬ならお汁粉!これがまた美味いんだ~!あとね保存食として甘納豆がお茶請けに合ってさケーキ生地に混ぜても良い。実はお赤飯が俺の大好物なんだ!豆が潰れちゃうから祝い事に使われないけど」
レシピを言いまくるレオニードにメリアはもっと詳しくと迫るのだった。
すっかり蚊帳の外にされたグーズリーとメリアの夫カールは玉葱を炒めるのに集中した。
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