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戦火の先に(覚醒)篇
閑話 謀りの舞台と道化師
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「慰問客が見目麗しい女性でなくて申し訳ない」と巫山戯た口調の男の笑い声はヴェラアズの神経を逆なでた。
国の頂点から一気に戦犯囚人にまで落ちた彼にとって追い打ちとなる。
「笑い者にするため来たのなら去れ!話すことなどない!」
「おやおや……つれないですねェ、せっかく土産を持参しましたのに。これを見たら暇な牢獄生活に刺激が加わるかと思いますよ?」
勿体ぶった言い草にほんの少しだけ興味を惹かれたヴェラアズは、被りかけた毛布を除けて聞く体制になる。
その様子を確認した珍客は名乗り、妹のミューズが世話になったと慇懃無礼に述べた。
小馬鹿にされたヴェラアズは怒ったが、兄であるモルティガの有能さは耳にしていたので一縷の望みに賭けたくなった。
「……貴様のことは報告で聞いたことがある、ミューズとはまた違う異能を持つとか。わざわざ接触してきたのは召し抱えられにきたのか?それなりの態度を示せば一考してもよいぞ」
失脚したことを頭から抜け落ちたのか、はたまた野望の火はいまだ燻ぶっていたのか莫迦な男は宣う。だがそんな筈があるものかと蝙蝠男は嘲嗤う。
「いやいや、とんだ勘違いをする御仁だ。クフフッ違う意味で面白い。私がここへ来たのは主から届け物をせよとの命で参ったのですゥ、どうぞお受け取りください。」
不快な物言いをしながら彼がマント裏から取り出したのはズタズタの物体だった。
ズタ袋のようなものから、綿と麦藁が好き勝手に突き出ていた。一体なんの意味があって届けられたのかヴェラアズは頭を傾げた。
「あぁ、失礼。原型を留めてませんからねェ。復元する価値はないので似たものを見せましょう」
モルティガは咳払いしてその変幻自在の身体をグニグニと変形させた。真っ黒だった姿が白銀に変わると少し体躯を縮ませ銀髪を揺らす女性の姿になってみせた。
「な!?その姿はまさか!」
「はい、如何ですか?良く似ているでしょう、私は見た物触れた物ならどんな形にもなれるのですよ」
ヴェラアズの目の前に立っていた姿は絶命したはずの妹ティリルだった、信じられないものがそこにいて彼は顎が外れるほど口を開いた。モルティガが擬態しているだけなのだが理解が追い付かないようだ。
十数秒後、我に返ったヴェラアズは不快なものを見せられたと唸る。
「ふぬ、己が屠った相手の姿ですが、さほど後悔の色は見せませんねェ。図太い神経の持ち主のようだ、どうですかお兄様ァそっくりでしょう?クフフフッ、妹を殺すような悪趣味には悪趣味で返しますよ」
ティリルの姿をした蝙蝠男はクルクルと踊るように回転しておどけてみせた。その仕草までも優雅に振る舞う元王女そのものだったので余計にヴェラアズの気に障る。
「い、いったい何がしたいのだ!とても不愉快だ!」
「えぇ~?どうせ暇でしょう、悪ふざけに付き合ってくださいよォ」
すっかり立腹したヴェラアズは鉄格子をガタガタ揺らし、地団駄を踏み意味のない抵抗を見せた。悪戯が成功したモルティガは上機嫌に笑い悦にいるのだった。
「妹殺しの戦犯皇帝~♪己が野望の為には家族の死体を踏みつける~はてさてその身勝手に生きた今は楽しいですか、未来は明るいですか?クフフッ莫迦ですねェ~駆け引きに持ち出した妹君は私が用意した傀儡だったのにィ~それそれそれですよ、足元に転がる襤褸のことですゥ」
モルティガは女性の姿のまま揶揄うとボロボロの傀儡を拾いあげて続ける。
「ほらほら、お兄様ここを見てください。真っ赤な塊が見えるでしょう?ここをね、こう突き刺すと」
持参した短剣でもってそこへ突き刺すとブシャリと赤黒い液体が迸った。
飛び散った血糊は美しく化けた顔を汚す、ティリルの顔のままの蝙蝠男は怪しい笑みを浮かべた。ヴェラアズは薄気味悪いと言って後ろに退った。
「あ、……あぁぁ……偽物……そんなバカな!傀儡が自力で動くなど!捕らえた時に面会したがちゃんと愚妹のように振る舞っていたのだぞ!処刑の時だって……」
「うん、そうですね。面会した時は化けた私でしたからァ、見間違えて当然でしょうねェ。」
「んな!?しかし処刑の時はたしかに人間のそれだったぞ!」
「実は私の知り合いに優れた魔道具を造る者がおりましてね、土傀儡がいかにも人間かのような動きを付けさせることが出来るのですよ。あぁ、詳細は期待しないでください、私には仕組みのことはさっぱりなのですゥ」
「な、な……さ、最初から仕組まれていたというのか!?この皇帝を……大帝国フェインゼロスを謀っていたと……踊らされていたと、ミューズお前も最初から……」
ティリルの姿をしたモルティガは恭しくお辞儀すると、「演者は貴方、私たち蝙蝠族は舞台を用意する裏方なのです」と言った。
国の頂点から一気に戦犯囚人にまで落ちた彼にとって追い打ちとなる。
「笑い者にするため来たのなら去れ!話すことなどない!」
「おやおや……つれないですねェ、せっかく土産を持参しましたのに。これを見たら暇な牢獄生活に刺激が加わるかと思いますよ?」
勿体ぶった言い草にほんの少しだけ興味を惹かれたヴェラアズは、被りかけた毛布を除けて聞く体制になる。
その様子を確認した珍客は名乗り、妹のミューズが世話になったと慇懃無礼に述べた。
小馬鹿にされたヴェラアズは怒ったが、兄であるモルティガの有能さは耳にしていたので一縷の望みに賭けたくなった。
「……貴様のことは報告で聞いたことがある、ミューズとはまた違う異能を持つとか。わざわざ接触してきたのは召し抱えられにきたのか?それなりの態度を示せば一考してもよいぞ」
失脚したことを頭から抜け落ちたのか、はたまた野望の火はいまだ燻ぶっていたのか莫迦な男は宣う。だがそんな筈があるものかと蝙蝠男は嘲嗤う。
「いやいや、とんだ勘違いをする御仁だ。クフフッ違う意味で面白い。私がここへ来たのは主から届け物をせよとの命で参ったのですゥ、どうぞお受け取りください。」
不快な物言いをしながら彼がマント裏から取り出したのはズタズタの物体だった。
ズタ袋のようなものから、綿と麦藁が好き勝手に突き出ていた。一体なんの意味があって届けられたのかヴェラアズは頭を傾げた。
「あぁ、失礼。原型を留めてませんからねェ。復元する価値はないので似たものを見せましょう」
モルティガは咳払いしてその変幻自在の身体をグニグニと変形させた。真っ黒だった姿が白銀に変わると少し体躯を縮ませ銀髪を揺らす女性の姿になってみせた。
「な!?その姿はまさか!」
「はい、如何ですか?良く似ているでしょう、私は見た物触れた物ならどんな形にもなれるのですよ」
ヴェラアズの目の前に立っていた姿は絶命したはずの妹ティリルだった、信じられないものがそこにいて彼は顎が外れるほど口を開いた。モルティガが擬態しているだけなのだが理解が追い付かないようだ。
十数秒後、我に返ったヴェラアズは不快なものを見せられたと唸る。
「ふぬ、己が屠った相手の姿ですが、さほど後悔の色は見せませんねェ。図太い神経の持ち主のようだ、どうですかお兄様ァそっくりでしょう?クフフフッ、妹を殺すような悪趣味には悪趣味で返しますよ」
ティリルの姿をした蝙蝠男はクルクルと踊るように回転しておどけてみせた。その仕草までも優雅に振る舞う元王女そのものだったので余計にヴェラアズの気に障る。
「い、いったい何がしたいのだ!とても不愉快だ!」
「えぇ~?どうせ暇でしょう、悪ふざけに付き合ってくださいよォ」
すっかり立腹したヴェラアズは鉄格子をガタガタ揺らし、地団駄を踏み意味のない抵抗を見せた。悪戯が成功したモルティガは上機嫌に笑い悦にいるのだった。
「妹殺しの戦犯皇帝~♪己が野望の為には家族の死体を踏みつける~はてさてその身勝手に生きた今は楽しいですか、未来は明るいですか?クフフッ莫迦ですねェ~駆け引きに持ち出した妹君は私が用意した傀儡だったのにィ~それそれそれですよ、足元に転がる襤褸のことですゥ」
モルティガは女性の姿のまま揶揄うとボロボロの傀儡を拾いあげて続ける。
「ほらほら、お兄様ここを見てください。真っ赤な塊が見えるでしょう?ここをね、こう突き刺すと」
持参した短剣でもってそこへ突き刺すとブシャリと赤黒い液体が迸った。
飛び散った血糊は美しく化けた顔を汚す、ティリルの顔のままの蝙蝠男は怪しい笑みを浮かべた。ヴェラアズは薄気味悪いと言って後ろに退った。
「あ、……あぁぁ……偽物……そんなバカな!傀儡が自力で動くなど!捕らえた時に面会したがちゃんと愚妹のように振る舞っていたのだぞ!処刑の時だって……」
「うん、そうですね。面会した時は化けた私でしたからァ、見間違えて当然でしょうねェ。」
「んな!?しかし処刑の時はたしかに人間のそれだったぞ!」
「実は私の知り合いに優れた魔道具を造る者がおりましてね、土傀儡がいかにも人間かのような動きを付けさせることが出来るのですよ。あぁ、詳細は期待しないでください、私には仕組みのことはさっぱりなのですゥ」
「な、な……さ、最初から仕組まれていたというのか!?この皇帝を……大帝国フェインゼロスを謀っていたと……踊らされていたと、ミューズお前も最初から……」
ティリルの姿をしたモルティガは恭しくお辞儀すると、「演者は貴方、私たち蝙蝠族は舞台を用意する裏方なのです」と言った。
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