上 下
115 / 172
トラブルプランツ スタンピード篇

スプーンドーナツと珍客

しおりを挟む
内乱騒動の渦中に関わることなく、レオ達は郊外へ退避していた。
今回の件は内外関係なく、王直属の配下のみ参戦という御触れが出ていたからだ。
ギルドも兵を招集することがなかった、スタンピードの直後とあり冒険者も疲弊しているからだと当初は思っていた。


外国人であるレオは当然関わるわけにもいかないが、なんとも腑に落ちないとフラウットは思った。
いつになく深刻な顔のフラに皆は気を遣う。



退避していた場所は小さな田舎町で、僅かにあった宿は王都から逃げていた人々であっという間に埋まってしまった。
なのでまたも馬車暮らしに戻ったところだ。

なんとなく気分が沈んでしまう一行、そこで気晴らしにとレオはオヤツを作ることにした。

「キャンプでも作れるお手軽お菓子といくか」

ボウルに適当に小麦粉を入れ、卵と砂糖、ベーキングパウダーを混ぜる。
ボッタリとした生地ができたらスプーンを用意。


石を詰んだだけの竈に小さな鍋を置いて油を満たす。
竈に火をつけて油に気泡がでるのをしばし待った。

チョッピリ垂らした生地がジュワッと泡を立てて転がる。

「うん、良い頃合いだ」
レオはそういうと楽しそうにスプーンで掬った生地を躊躇いなくどんどん落としていった。


「わぁ、ちょっぴりの量なのに随分膨れるのですね」
いつの間にか側に来ていたティルが、揚がっていく白い生地を面白そうに見物していた。

「うん、我が家自慢のスプーンドーナツだよ。簡単にできてお腹いっぱいになるオヤツさ」
きつね色になったそれをひょいひょい掬い上げて油切りをする。

そこへ濃い目のメープルシロップと粉砂糖で作ったアイシングを適度にかけた。

「カリカリサクサクのドーナツの出来上がり!」

レオの声に不機嫌そうだったフラも笑みを浮かべて飛びついた。


大皿に山盛りした小さく不格好なドーナツから、甘く香ばしい匂いがたち食欲を刺激してくる。
「このオマケについたシッポみたいのがカリカリで美味しいんだぞ!」

まるでネズミの尻尾のようだと言いながら皆はホフホフと食らいつく。

「この蜜が良い香りでたまんない!」
「やばーい!止まんない!太っちゃうよ!でも食べる!」

バリラとジェイラが競うように頬張って、顔をアイシングでベタベタに汚していた。
フラはマイペースにサクサクと食んで顔を綻ばせる。


「フラ、美味しいかい?」
「うん、美味しいよォ、クフフフッ」


やけにハスキーな声を出すフラにびっくりしたレオ。
それ以上に驚いていたのはフラの方だった。

「え?なに、フラのかわりに返事したの誰?」


見回すと見知らぬ細身の男が黒い皮膜を広げて浮遊し、ドーナツを勝手に食べていた。

「クフ、さすが獅子王が認めた男の料理だねェ。気に入ったよ」
「は……い?」


パサリと被膜の翼を閉じて真っ黒な人物が下りてきて名乗った。

「初めましてェ、諜報活動を生業にしておりますモルティガと申しますゥ。お見知りおきを~」
間延びした言動の珍客に一同は瞠目した。


紅い瞳を細くしてモルティガなる人物はレオに詰め寄るとガバッと手を握った。
レオは悲鳴を上げて彼から飛び退いた。


「えぇ~酷いなァ親しくなりたいだけですよ?」
「得体の知れない男と仲良くする趣味はない!」

警戒されて嫌悪を見せられても男は飄々と気にする様子もない。

「ちょっと聞いてる?」
「ふむ、ドーナツとやらは美味しいですが、やはりフルーツが一番美味しいですねェ、たまに樹液や血も飲みますが」

「……」



レオの様子をガン無視した男は翼をマントに変化させてパサリと翻す。その様は……

「吸血鬼……」思わず口に出したレオ。

「おやァ、その名で呼ばれるのは久しぶりです。ですが、正確には蝙蝠男ですよォ♪」
「あ、そう……あの離れてくれません?」

距離感がおかしい蝙蝠男は油断するとすぐに側にやってくる、レオは気味悪がって逃げ回った。

「はぁ……ところでなんの御用で?」
「あ、ウッカリウッカリ!王命でやってきたのでしたァ!レオニード・ルヴェフル侯爵、すぐに王城へ参じるようお願いいたします。はい、これ召喚状で~す」

紅い印璽が押された手紙を渡されたレオは目を白黒させた。

「へ?内乱はどうなったのさ」
「それも戻ってからの話で」

仲間も一緒ならと了承したレオは馬車に乗り込み、城を目指した。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)

ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。 流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定! 剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。 せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!? オマケに最後の最後にまたもや神様がミス! 世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に なっちゃって!? 規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。 ……路上生活、そろそろやめたいと思います。 異世界転生わくわくしてたけど ちょっとだけ神様恨みそう。 脱路上生活!がしたかっただけなのに なんで無双してるんだ私???

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

貴方の隣で私は異世界を謳歌する

紅子
ファンタジー
あれ?わたし、こんなに小さかった?ここどこ?わたしは誰? あああああ、どうやらわたしはトラックに跳ねられて異世界に来てしまったみたい。なんて、テンプレ。なんで森の中なのよ。せめて、街の近くに送ってよ!こんな幼女じゃ、すぐ死んじゃうよ。言わんこっちゃない。 わたし、どうなるの? 不定期更新 00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

処理中です...