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婚約式
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穏やかな春のある日、ふたりは正式な婚約者となった。
「夫婦になる日が街待ち遠しい、どうしてこう期間が長いんだろう」
役所からの帰り路、馬車内でカーティスは嘆く。
「カーティス様6月の花嫁は幸せになれると聞きます、数カ月などあっという間よ」
「あぁ、誰よりも幸せにしてあげる、ただ会えない時間がもどかしくてね」
いつものように甘言を吐く彼にエリアナは呆れつつも嬉しく微笑む。
馬車は婚約パーティが行われるカーティスの侯爵邸へと向かう。彼は片時も離さないとばかりにエリアナの両手を掴んで離さなかった。時折、同乗した従者から咳払いが聞こえたが無視を決め込んでいる。
パーティは夜会となるためエリアナは何か手伝いをと気合を入れるもカーティスが邪魔をした。
「主役が働いてどうするの?」
「え、だからこそ率先して動くべきでは?」
メイドの仕事をとりあげようとするエリアナを窘めて「邪魔になるから」と庭園で休憩しようと連れて行く。
カーティスの甘やかしぶりに侍従達は生温かい視線を送る。
四阿へと着いたふたりは人目がないのを理由に距離が近くなる。エリアナは恥ずかしがって距離をとろうとするがカーティスはそれを許さない。
「私達は最終仕上げをチェックするだけで良いんだよ」
「でも……なんだか落ち着かなくて。じっとしてられないの」
私の為にじっとしていてとカーティスが言い、彼女を抱きしめて頬を摺り寄せた。
長身で鍛えた体にガッチリとホールドされて小柄なエリアナは成す術もない。
温かい陽光と彼の体温に顔が火照る、いつしか瞼が重くなって凭れかかる彼女に「やっと懐いた」とカーティスは顔を綻ばせる。
お互いに体を凭れ合わせ、そよぐ春風に吹かれて微睡はじめる。そこへ芝を踏む音が近づいてきて、二人を現実へ引き戻した。
「あらあら、見苦しい。他家の庭園で昼寝だなんて、強いメンタルをお持ちなのね」
黒と赤のドレスに真っ赤な扇を広げた少女がエリアナへ不躾な言葉を浴びせてきた、やや寝ぼけ気味なエリアナはきょとんとする。
「アディ……なんのつもりだ?」
カーティスがエリアナを庇うように抱きしめた、それを見咎めるアディと呼ばれた少女。
「カーティス!離れなさい、そんな地味な女と婚約なんて認めないから!」
「彼女を悪く言うな、いくらイトコでも許さないぞ。それに何故キミの許可が要る?」
「その女を庇うの!?」
公爵令嬢のエリアナに対して不敬だとカーティスが怒気を孕んだ声でアディを叱咤した。
「キミは子爵家の身分でありながら弁えないのか?お叱りを受けるのは父親なんだぞ」
「まぁ怖い身分を笠に私を苛めるの?」
「話にならないな、さきに喧嘩腰でやってきたのはアディだろう?それになんだその恰好は」
ド派手な装いを注意されると居丈高な態度から儚げな少女へと変貌するアディ。
「ひどいわ!ひどいわ!ドレスを貶すなんて……うぅ特別に誂えた逸品なのよ」
「は、またいつもの演技かい。見飽きたよ、だいだいキミは―」
ふたりのやり取りを傍観していたエリアナはアディに対して違和感を覚えた。
ふつうに美少女なのだがどこかチグハグな印象を拭えない。
キャンキャンと子犬が叫ぶように騒ぎ立てたアディは、言いたい放題して満足したのか足早に去っていった。
「変わった方ね」
「夫婦になる日が街待ち遠しい、どうしてこう期間が長いんだろう」
役所からの帰り路、馬車内でカーティスは嘆く。
「カーティス様6月の花嫁は幸せになれると聞きます、数カ月などあっという間よ」
「あぁ、誰よりも幸せにしてあげる、ただ会えない時間がもどかしくてね」
いつものように甘言を吐く彼にエリアナは呆れつつも嬉しく微笑む。
馬車は婚約パーティが行われるカーティスの侯爵邸へと向かう。彼は片時も離さないとばかりにエリアナの両手を掴んで離さなかった。時折、同乗した従者から咳払いが聞こえたが無視を決め込んでいる。
パーティは夜会となるためエリアナは何か手伝いをと気合を入れるもカーティスが邪魔をした。
「主役が働いてどうするの?」
「え、だからこそ率先して動くべきでは?」
メイドの仕事をとりあげようとするエリアナを窘めて「邪魔になるから」と庭園で休憩しようと連れて行く。
カーティスの甘やかしぶりに侍従達は生温かい視線を送る。
四阿へと着いたふたりは人目がないのを理由に距離が近くなる。エリアナは恥ずかしがって距離をとろうとするがカーティスはそれを許さない。
「私達は最終仕上げをチェックするだけで良いんだよ」
「でも……なんだか落ち着かなくて。じっとしてられないの」
私の為にじっとしていてとカーティスが言い、彼女を抱きしめて頬を摺り寄せた。
長身で鍛えた体にガッチリとホールドされて小柄なエリアナは成す術もない。
温かい陽光と彼の体温に顔が火照る、いつしか瞼が重くなって凭れかかる彼女に「やっと懐いた」とカーティスは顔を綻ばせる。
お互いに体を凭れ合わせ、そよぐ春風に吹かれて微睡はじめる。そこへ芝を踏む音が近づいてきて、二人を現実へ引き戻した。
「あらあら、見苦しい。他家の庭園で昼寝だなんて、強いメンタルをお持ちなのね」
黒と赤のドレスに真っ赤な扇を広げた少女がエリアナへ不躾な言葉を浴びせてきた、やや寝ぼけ気味なエリアナはきょとんとする。
「アディ……なんのつもりだ?」
カーティスがエリアナを庇うように抱きしめた、それを見咎めるアディと呼ばれた少女。
「カーティス!離れなさい、そんな地味な女と婚約なんて認めないから!」
「彼女を悪く言うな、いくらイトコでも許さないぞ。それに何故キミの許可が要る?」
「その女を庇うの!?」
公爵令嬢のエリアナに対して不敬だとカーティスが怒気を孕んだ声でアディを叱咤した。
「キミは子爵家の身分でありながら弁えないのか?お叱りを受けるのは父親なんだぞ」
「まぁ怖い身分を笠に私を苛めるの?」
「話にならないな、さきに喧嘩腰でやってきたのはアディだろう?それになんだその恰好は」
ド派手な装いを注意されると居丈高な態度から儚げな少女へと変貌するアディ。
「ひどいわ!ひどいわ!ドレスを貶すなんて……うぅ特別に誂えた逸品なのよ」
「は、またいつもの演技かい。見飽きたよ、だいだいキミは―」
ふたりのやり取りを傍観していたエリアナはアディに対して違和感を覚えた。
ふつうに美少女なのだがどこかチグハグな印象を拭えない。
キャンキャンと子犬が叫ぶように騒ぎ立てたアディは、言いたい放題して満足したのか足早に去っていった。
「変わった方ね」
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