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恋心爆発
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エリアナは羞恥と、メイドが淹れた茶の甘い香りが充満する応接室にクラクラする。
金木犀の香が好きな彼女だったが、いまはそれどころではない。
二度と会うことはあるまいと思っていたカーティスがいるのだ、混乱するなというほうが無理だった。
「はは、意外とお転婆なのですね」
「……お見苦しいところを」
向かい合うソファでエリアナは縮こまる、自宅だというのに身の置き場がない様子だ。
恥を誤魔化すように訪問の要件を問うが、どういうわけか今度は彼の頬が赤くなった。
「御気分でも悪くなりましたか?違う茶を淹れさせましょう」
「い、いや!この茶で良いですよ。とても良い香りだから」
男性はハーブや花の香を苦手なタイプが多いので、エリアナは気を回したのだが杞憂のようだ。
「良かったです、秋に咲くこの花が大好きで良く飲みますの」
「街角を歩くとこの香が漂いますね、秋が来たのだと知らせてくれる良い匂いです」
緊張が解れた二人は微笑み合い自然と目が合った。
「……実は今日覗った件は……その、エリアナ様に婚約を結んでいただきたくて参りました」
「へぁ!?」
想定外の言葉にエリアナは声が裏返ってしまい、再び顔が熟れたトマトのように赤に染まった。
「夕暮れに歌う貴女の声と空を見上げる優しい顔に見惚れていました、私の心は去年の夏からずっとエリアナ様に捕らわれております」
彼の甘い告白にエリアナは心臓がバクバクと鳴り益々顔を赤くした。
封じ込めた淡い恋心が突然芽吹いて、一気に大輪の花を咲かせたのだから冷静に対応など出来ない。
「……あわ!……私でよろしいの……でしょうか!?す、素敵な騎士様に見初めていただけたなんて!?」
思わず立ち上がり返事をするエリアナにカーティスが狼狽える。
「えっと、落ち着いてください、座って……ね?」
「は、ひゃい!」
ドスンとソファに落ちたエリアナは気絶寸前だった。
恋という初めての感情を自覚した瞬間に成就したのだから当たり前である。
その後、父バルドが合流して本格的な婚約の話し合いとなった。しかし、エリアナの耳には縁遠いおとぎ話のように聞こえていた。
自分の身に起きた真実だと自覚するのは婚約式のドレスの採寸がはじまった時だった。
「ほんとだった……ほんとに私は望まれて結婚するのね」
カーティスの瞳色の青紫のドレスデザインが決定してからも彼女はやや疑心暗鬼だ。
ルーファとの婚約期間が最悪だったために素直に受け止めきれないエリアナだ。
事情を知っているカーティスは「ゆっくり心を開いてください」という。
その優しさにエリアナは安堵しつつ、申し訳ない気持ちになる。
婚約式までの半年間、カーティスは足げく公爵邸へ訪れてはエリアナに愛を囁いた。
いつも紳士に接してくる彼にすっかり気を許すようになった。
冬のある日、クリスマスローズをたくさん抱えたカーティスが訪問してきた。優しい相貌にウットリして迎えたエリアナは感想をのべた。
「男性がこんなに優しいだなんて知りませんでした」
「……うーん、貴女は随分と冷遇に慣れているようですね。」
茶会の度に贈り物をする彼は婚約者として当然の行為だと言う。
「そうでしたの、いつもこちらが要求されるばかりでしたので……あ、申しわけありません。つい過去と比較してしまいました!」
「いいえ、彼がクズだったからこそこうして出会えました。私にとっては僥倖ですよ、あなたの我儘を叶えるのは婚約者としての役得です。たくさん甘えて下さい」
「ふふ、では遠慮なく甘えさせていただきますね」
カーティスはエリアナの手を取り、微かに触れる程度の口づけをした。
婚約者とはこんなにも甘く蕩ける幸せをくれるものなのかと、日々驚きが増えるエリアナである。
「あぁ……私は幸せすぎて死にそうです」
「それは困るな、まだ二人の人生は始まる前だというのに」
再びエリアナの手を取る彼は今度は強めの長い口づけをした。手の甲から伝わる熱に彼女は全身を朱に染めて失神しかけた。
「砂糖菓子より甘いとは……こういうことなのね」
かつて読み耽った恋物語の一節を思い出して、エリアナは呟いた。
金木犀の香が好きな彼女だったが、いまはそれどころではない。
二度と会うことはあるまいと思っていたカーティスがいるのだ、混乱するなというほうが無理だった。
「はは、意外とお転婆なのですね」
「……お見苦しいところを」
向かい合うソファでエリアナは縮こまる、自宅だというのに身の置き場がない様子だ。
恥を誤魔化すように訪問の要件を問うが、どういうわけか今度は彼の頬が赤くなった。
「御気分でも悪くなりましたか?違う茶を淹れさせましょう」
「い、いや!この茶で良いですよ。とても良い香りだから」
男性はハーブや花の香を苦手なタイプが多いので、エリアナは気を回したのだが杞憂のようだ。
「良かったです、秋に咲くこの花が大好きで良く飲みますの」
「街角を歩くとこの香が漂いますね、秋が来たのだと知らせてくれる良い匂いです」
緊張が解れた二人は微笑み合い自然と目が合った。
「……実は今日覗った件は……その、エリアナ様に婚約を結んでいただきたくて参りました」
「へぁ!?」
想定外の言葉にエリアナは声が裏返ってしまい、再び顔が熟れたトマトのように赤に染まった。
「夕暮れに歌う貴女の声と空を見上げる優しい顔に見惚れていました、私の心は去年の夏からずっとエリアナ様に捕らわれております」
彼の甘い告白にエリアナは心臓がバクバクと鳴り益々顔を赤くした。
封じ込めた淡い恋心が突然芽吹いて、一気に大輪の花を咲かせたのだから冷静に対応など出来ない。
「……あわ!……私でよろしいの……でしょうか!?す、素敵な騎士様に見初めていただけたなんて!?」
思わず立ち上がり返事をするエリアナにカーティスが狼狽える。
「えっと、落ち着いてください、座って……ね?」
「は、ひゃい!」
ドスンとソファに落ちたエリアナは気絶寸前だった。
恋という初めての感情を自覚した瞬間に成就したのだから当たり前である。
その後、父バルドが合流して本格的な婚約の話し合いとなった。しかし、エリアナの耳には縁遠いおとぎ話のように聞こえていた。
自分の身に起きた真実だと自覚するのは婚約式のドレスの採寸がはじまった時だった。
「ほんとだった……ほんとに私は望まれて結婚するのね」
カーティスの瞳色の青紫のドレスデザインが決定してからも彼女はやや疑心暗鬼だ。
ルーファとの婚約期間が最悪だったために素直に受け止めきれないエリアナだ。
事情を知っているカーティスは「ゆっくり心を開いてください」という。
その優しさにエリアナは安堵しつつ、申し訳ない気持ちになる。
婚約式までの半年間、カーティスは足げく公爵邸へ訪れてはエリアナに愛を囁いた。
いつも紳士に接してくる彼にすっかり気を許すようになった。
冬のある日、クリスマスローズをたくさん抱えたカーティスが訪問してきた。優しい相貌にウットリして迎えたエリアナは感想をのべた。
「男性がこんなに優しいだなんて知りませんでした」
「……うーん、貴女は随分と冷遇に慣れているようですね。」
茶会の度に贈り物をする彼は婚約者として当然の行為だと言う。
「そうでしたの、いつもこちらが要求されるばかりでしたので……あ、申しわけありません。つい過去と比較してしまいました!」
「いいえ、彼がクズだったからこそこうして出会えました。私にとっては僥倖ですよ、あなたの我儘を叶えるのは婚約者としての役得です。たくさん甘えて下さい」
「ふふ、では遠慮なく甘えさせていただきますね」
カーティスはエリアナの手を取り、微かに触れる程度の口づけをした。
婚約者とはこんなにも甘く蕩ける幸せをくれるものなのかと、日々驚きが増えるエリアナである。
「あぁ……私は幸せすぎて死にそうです」
「それは困るな、まだ二人の人生は始まる前だというのに」
再びエリアナの手を取る彼は今度は強めの長い口づけをした。手の甲から伝わる熱に彼女は全身を朱に染めて失神しかけた。
「砂糖菓子より甘いとは……こういうことなのね」
かつて読み耽った恋物語の一節を思い出して、エリアナは呟いた。
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