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閑話 脱走したロクデナシ2
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まんまと学園に侵入したルーファだったが行く当てもないし、腹も減って動けなくなる。
数人の警備員くらいしかいなくなった学園内をトボトボ歩き回った。
うろ覚えだがなんとか食堂に辿り着き、貯蔵庫を漁って生で食べられそうなものを物色して食らいつく。
果実や干物で腹が満たされた彼は再び徘徊する、寝床を求めて講堂の方へ向かった。
そこで危うく警備員と鉢合わせしそうになったが黒いローブが役にたって物陰に座り込んだルーファはゴミ袋と間違われて難を逃れる。
用具室には古びて廃棄されたカーテンや衣装等が木箱に詰め込まれていた、それをベッド代わりにしてルーファは眠りについた。こうして学祭当日まで学園内に寄生していた彼はあの事件を起こすのだ。
狂っているのに奸智と悪運が良い。
いつものように講堂の隅で寝泊まりしていたルーファは普段と違う様子に慄いた。
たくさんの学生が講堂へ集まって舞台を見つめている。
「な、なんらぁ?……なにがろうしたのらぁ?」
用具室から這い出た彼は舞台袖に紛れ込んだ。
騎士に扮した学生たちを見て恐ろしくなって震える、壁際にへたり込んでいたら木箱の中に短剣をみつけた。
不出来過ぎて使われなかったエリアナの塗った木剣だった。
「ひひ、良いものがあった……護身用に貰っておくどぉ」
触れれば模造品とわかりそうなものだが、アレな状態のルーファには判別できはしなかった。
そして、舞台袖から演劇の様子を覗う。
見覚え有る髪色の女性が美しい男と抱き合っていた。彼の顔は見る見る不機嫌に歪む。
「エリー!なんらソイツわぁ!?」
ジュリアの背格好が似ていた為エリアナと見間違ったルーファは勝手に激高する。
散々浮気していた己の過去は、スッキリサッパリ忘れた都合の良い脳みそを沸騰させた。
「こっっちへ来いエリー」
彼が手を伸ばすほどジュリアは後退して離れていく、そこへ妖精の恰好をした本物のエリアナがやって来た。
だが髪色が違うためにルーファには解らない、新たに邪魔が来たと勘違いする。
木剣とわかっているエリアナは果敢に挑む、不審者を容赦せず槍で突いて撃退した。
「いぎゃあ!いだいいだいぞ!うああああ!血が噴き出るちぬぅ!だじげで!」
肩、足、臀部へ攻撃されて痛みで混乱するルーファ、もとからチキンだったが出てもいない血に怯えて泣いた。
呆気なく捕縛されて退場する不審者に観客は大笑いした。
劇は大失敗に終わり午前の部は終了した。
「エリアナ様、なんて無茶をなさるの?」
まだ青褪めて震えるジュリアにエリアナは事情を説明した。
ルーファの狙いはエリアナだったこと、ジュリアを自分の為に巻き込んだことを謝罪した。
「元婚約者とはいえ原因は私です、劇を潰してごめんなさい!」
「エリアナ様、あなただって被害者ですよ。悪いのはあの不審者です」
頭を下げて謝り倒すエリアナを宥めるジュリアとアンジェリカである。
「それにしても果敢で勇ましい、私より王子らしいよ」
アンジェリカは肩を竦めて、見た目だけど紛い物の自分は勝てないと言った。
***
「まさかイカレた頭で脱走するなんて……」
捕縛されて戻って来たルーファは独房で昏倒している。
「所長、精神鑑定をさせましょう。正気な部分が残っているのなら保護ではなく労働奴隷にすべきです」
「うむ、無駄飯を食わせて保護する意味はないな手配しよう」
犯罪者病院に留置して貰えるのは自力で活動が無理な者や重病人の者だけだ、今回の脱走劇により健康体で行動力もあると判断されたルーファは、監視付で荒野などに派遣される開拓民として過酷な労働を強いられる。
多少言動に異常さは見られたが十分に労働が可能だと判断された。
「なんれ、俺がこんなことを……」
グータラ生活からいきなり荒野に連れ出された彼はツルハシを揮いながら愚痴る。
数日前まで清潔なベッドの上でダラダラと食事を待っていれば良かったのにと……。
そう、ルーファは精神が安定してきていたのである。
隔週で行われていた回診にくる医者の相手がただ面倒で壁を見つめ流していただけなのだった。
「チクショーチクショー!こんらことなら脱走しなきゃ良かっだらぁ!」
言語障害が残るものの日に日に元気になっていく囚人ルーファ、性根に問題があるため依然としてその身は監視生活のままである。ある意味終身刑だ。
首輪には鎖が繋がれており、手足には枷がついている。
彼の自由は本当に無くなった。
数人の警備員くらいしかいなくなった学園内をトボトボ歩き回った。
うろ覚えだがなんとか食堂に辿り着き、貯蔵庫を漁って生で食べられそうなものを物色して食らいつく。
果実や干物で腹が満たされた彼は再び徘徊する、寝床を求めて講堂の方へ向かった。
そこで危うく警備員と鉢合わせしそうになったが黒いローブが役にたって物陰に座り込んだルーファはゴミ袋と間違われて難を逃れる。
用具室には古びて廃棄されたカーテンや衣装等が木箱に詰め込まれていた、それをベッド代わりにしてルーファは眠りについた。こうして学祭当日まで学園内に寄生していた彼はあの事件を起こすのだ。
狂っているのに奸智と悪運が良い。
いつものように講堂の隅で寝泊まりしていたルーファは普段と違う様子に慄いた。
たくさんの学生が講堂へ集まって舞台を見つめている。
「な、なんらぁ?……なにがろうしたのらぁ?」
用具室から這い出た彼は舞台袖に紛れ込んだ。
騎士に扮した学生たちを見て恐ろしくなって震える、壁際にへたり込んでいたら木箱の中に短剣をみつけた。
不出来過ぎて使われなかったエリアナの塗った木剣だった。
「ひひ、良いものがあった……護身用に貰っておくどぉ」
触れれば模造品とわかりそうなものだが、アレな状態のルーファには判別できはしなかった。
そして、舞台袖から演劇の様子を覗う。
見覚え有る髪色の女性が美しい男と抱き合っていた。彼の顔は見る見る不機嫌に歪む。
「エリー!なんらソイツわぁ!?」
ジュリアの背格好が似ていた為エリアナと見間違ったルーファは勝手に激高する。
散々浮気していた己の過去は、スッキリサッパリ忘れた都合の良い脳みそを沸騰させた。
「こっっちへ来いエリー」
彼が手を伸ばすほどジュリアは後退して離れていく、そこへ妖精の恰好をした本物のエリアナがやって来た。
だが髪色が違うためにルーファには解らない、新たに邪魔が来たと勘違いする。
木剣とわかっているエリアナは果敢に挑む、不審者を容赦せず槍で突いて撃退した。
「いぎゃあ!いだいいだいぞ!うああああ!血が噴き出るちぬぅ!だじげで!」
肩、足、臀部へ攻撃されて痛みで混乱するルーファ、もとからチキンだったが出てもいない血に怯えて泣いた。
呆気なく捕縛されて退場する不審者に観客は大笑いした。
劇は大失敗に終わり午前の部は終了した。
「エリアナ様、なんて無茶をなさるの?」
まだ青褪めて震えるジュリアにエリアナは事情を説明した。
ルーファの狙いはエリアナだったこと、ジュリアを自分の為に巻き込んだことを謝罪した。
「元婚約者とはいえ原因は私です、劇を潰してごめんなさい!」
「エリアナ様、あなただって被害者ですよ。悪いのはあの不審者です」
頭を下げて謝り倒すエリアナを宥めるジュリアとアンジェリカである。
「それにしても果敢で勇ましい、私より王子らしいよ」
アンジェリカは肩を竦めて、見た目だけど紛い物の自分は勝てないと言った。
***
「まさかイカレた頭で脱走するなんて……」
捕縛されて戻って来たルーファは独房で昏倒している。
「所長、精神鑑定をさせましょう。正気な部分が残っているのなら保護ではなく労働奴隷にすべきです」
「うむ、無駄飯を食わせて保護する意味はないな手配しよう」
犯罪者病院に留置して貰えるのは自力で活動が無理な者や重病人の者だけだ、今回の脱走劇により健康体で行動力もあると判断されたルーファは、監視付で荒野などに派遣される開拓民として過酷な労働を強いられる。
多少言動に異常さは見られたが十分に労働が可能だと判断された。
「なんれ、俺がこんなことを……」
グータラ生活からいきなり荒野に連れ出された彼はツルハシを揮いながら愚痴る。
数日前まで清潔なベッドの上でダラダラと食事を待っていれば良かったのにと……。
そう、ルーファは精神が安定してきていたのである。
隔週で行われていた回診にくる医者の相手がただ面倒で壁を見つめ流していただけなのだった。
「チクショーチクショー!こんらことなら脱走しなきゃ良かっだらぁ!」
言語障害が残るものの日に日に元気になっていく囚人ルーファ、性根に問題があるため依然としてその身は監視生活のままである。ある意味終身刑だ。
首輪には鎖が繋がれており、手足には枷がついている。
彼の自由は本当に無くなった。
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