上 下
17 / 24

閑話 脱走したロクデナシ2

しおりを挟む
まんまと学園に侵入したルーファだったが行く当てもないし、腹も減って動けなくなる。
数人の警備員くらいしかいなくなった学園内をトボトボ歩き回った。
うろ覚えだがなんとか食堂に辿り着き、貯蔵庫を漁って生で食べられそうなものを物色して食らいつく。

果実や干物で腹が満たされた彼は再び徘徊する、寝床を求めて講堂の方へ向かった。
そこで危うく警備員と鉢合わせしそうになったが黒いローブが役にたって物陰に座り込んだルーファはゴミ袋と間違われて難を逃れる。

用具室には古びて廃棄されたカーテンや衣装等が木箱に詰め込まれていた、それをベッド代わりにしてルーファは眠りについた。こうして学祭当日まで学園内に寄生していた彼はあの事件を起こすのだ。

狂っているのに奸智と悪運が良い。



いつものように講堂の隅で寝泊まりしていたルーファは普段と違う様子に慄いた。
たくさんの学生が講堂へ集まって舞台を見つめている。
「な、なんらぁ?……なにがろうしたのらぁ?」

用具室から這い出た彼は舞台袖に紛れ込んだ。
騎士に扮した学生たちを見て恐ろしくなって震える、壁際にへたり込んでいたら木箱の中に短剣をみつけた。
不出来過ぎて使われなかったエリアナの塗った木剣だった。

「ひひ、良いものがあった……護身用に貰っておくどぉ」
触れれば模造品とわかりそうなものだが、アレな状態のルーファには判別できはしなかった。

そして、舞台袖から演劇の様子を覗う。
見覚え有る髪色の女性が美しい男と抱き合っていた。彼の顔は見る見る不機嫌に歪む。
「エリー!なんらソイツわぁ!?」

ジュリアの背格好が似ていた為エリアナと見間違ったルーファは勝手に激高する。
散々浮気していた己の過去は、スッキリサッパリ忘れた都合の良い脳みそを沸騰させた。

「こっっちへ来いエリー」
彼が手を伸ばすほどジュリアは後退して離れていく、そこへ妖精の恰好をした本物のエリアナがやって来た。
だが髪色が違うためにルーファには解らない、新たに邪魔が来たと勘違いする。


木剣とわかっているエリアナは果敢に挑む、不審者を容赦せず槍で突いて撃退した。
「いぎゃあ!いだいいだいぞ!うああああ!血が噴き出るちぬぅ!だじげで!」
肩、足、臀部へ攻撃されて痛みで混乱するルーファ、もとからチキンだったが出てもいない血に怯えて泣いた。

呆気なく捕縛されて退場する不審者に観客は大笑いした。
劇は大失敗に終わり午前の部は終了した。



「エリアナ様、なんて無茶をなさるの?」
まだ青褪めて震えるジュリアにエリアナは事情を説明した。

ルーファの狙いはエリアナだったこと、ジュリアを自分の為に巻き込んだことを謝罪した。
「元婚約者とはいえ原因は私です、劇を潰してごめんなさい!」
「エリアナ様、あなただって被害者ですよ。悪いのはあの不審者です」
頭を下げて謝り倒すエリアナを宥めるジュリアとアンジェリカである。

「それにしても果敢で勇ましい、私より王子らしいよ」
アンジェリカは肩を竦めて、見た目だけど紛い物の自分は勝てないと言った。

***

「まさかイカレた頭で脱走するなんて……」
捕縛されて戻って来たルーファは独房で昏倒している。

「所長、精神鑑定をさせましょう。正気な部分が残っているのなら保護ではなく労働奴隷にすべきです」
「うむ、無駄飯を食わせて保護する意味はないな手配しよう」



犯罪者病院に留置して貰えるのは自力で活動が無理な者や重病人の者だけだ、今回の脱走劇により健康体で行動力もあると判断されたルーファは、監視付で荒野などに派遣される開拓民として過酷な労働を強いられる。

多少言動に異常さは見られたが十分に労働が可能だと判断された。
「なんれ、俺がこんなことを……」

グータラ生活からいきなり荒野に連れ出された彼はツルハシを揮いながら愚痴る。
数日前まで清潔なベッドの上でダラダラと食事を待っていれば良かったのにと……。

そう、ルーファは精神が安定してきていたのである。
隔週で行われていた回診にくる医者の相手がただ面倒で壁を見つめ流していただけなのだった。

「チクショーチクショー!こんらことなら脱走しなきゃ良かっだらぁ!」
言語障害が残るものの日に日に元気になっていく囚人ルーファ、性根に問題があるため依然としてその身は監視生活のままである。ある意味終身刑だ。

首輪には鎖が繋がれており、手足には枷がついている。
彼の自由は本当に無くなった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】さよなら、婚約者様

mokumoku
恋愛
婚約者ディオス様は私といるのが嫌な様子。いつもしかめっ面をしています。 ある時気付いてしまったの…私ってもしかして嫌われてる!? それなのに会いに行ったりして…私ってなんてキモいのでしょう…! もう自分から会いに行くのはやめよう…! そんなこんなで悩んでいたら職場の先輩にディオス様が美しい女性兵士と恋人同士なのでは?と笑われちゃった! なんだ!私は隠れ蓑なのね! このなんだか身に覚えも、釣り合いも取れていない婚約は隠れ蓑に使われてるからだったんだ!と盛大に勘違いした主人公ハルヴァとディオスのすれ違いラブコメディです。 ハッピーエンド♡

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。 各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。 第?章は前知識不要。 基本的にエロエロ。 本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。 一旦中断!詳細は近況を!

【R18】ショタが無表情オートマタに結婚強要逆レイプされてお婿さんになっちゃう話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

モブだった私、今日からヒロインです!

まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。 このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。 そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。 だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン…… モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして? ※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。 ※印はR部分になります。

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~

雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。 元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。 ※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。

処理中です...