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学園祭にむけて2

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天使の歌声と評判が広まり、エリアナは居たたまれない。

とうとう演劇部の部長にまで呼び出されて歌う羽目になった。
緊張に震える声が余計に儚げな印象を与えて「天使が降臨した!」と大袈裟に評価を受けた。
当人は青褪めていまにも倒れそうだというのに周囲は勝手に盛り上がっている。

「きみ演劇部に入るべきだよ!」
やたら押しの強い部長がアイリスに迫る、精悍な顔なのに中性的な魅力を放つ美形である。
たじたじのエリアナはウッカリ頬を染めてしまう。

しかしそれを押しのけて迫る人がもう一人、「キミは合唱部へ入るべきだ!」
今度は合唱部から勧誘されるあり様だ。
「自分の声など平凡なのに」そうエリアナは困惑するばかりである。

それを聞いたラウラが言う。
「自分に聞こえる声と他人が聞く声は違うらしいわよ」
「ええ!?そうなの?私はいったいどんな風に聞こえてるのかしら」

声を残し聞く事ができる録音機器はあるそうだが高価すぎて手がでないとラウラが言う。
「王族でも入手は難しいらしいわ、普及すればそのうち手に入るでしょ」
「そうなの、ん~残念だわ」

普及するのに一体何年待てばよいのかとエリアナは遠い目になる。
「それにしてもさすが演劇部長ね、すごい美形の男性で吃驚しちゃったわ」
「あらやだ、あの方は女性よ?」
「ふえ!?」


男装の麗人「アンジェリカ・グリエド伯爵令嬢」は有名でいつも男性役を演じるのだと聞いてアイリスは更に驚いた。
世間では女性だけで構成された歌劇団があるのだとラウラが言う。
アンジェリカは卒業後は入団が決まっている将来有望な演者らしい。

「世の中はいろんな方がいらっしゃるのね」世間知らずな自分に酷く落ち込むのだった。
「まぁまぁ歌劇に興味がなければ知る機会もないでしょうね、それに去年はエリアナはいなかったのだし仕方ないわよ」
ラウラは気にするなと彼女を宥める。


***

色々と面倒は起きたが入部をお断りしたエリアナは裏方に徹した。
真夏にドレスの仕上げをするのは大変だった、テーラーの御針子は苦行に耐えてるのだと知って彼女は感謝する。
「お仕事ってたいへんなのね」

これまで嫁にいくことしか未来を見ていなかったエリアナにとっては目から鱗だ。
自分にできることはなんだろうと述懐するも何も浮かばない。
いま作っているドレスだって職人にはほど遠い出来だったし、戯曲だって下手だ。

「まだまだ学ぶことが多すぎるわ」
悩むことに疲れたエリアナは小説の世界へ逃げた。



「はぁ~素敵な話だったわ、また買いに行かなくちゃ」
全て読み終えたエリアナは少し温くなったアイスティーを飲み干してじっと考えた。
「読むだけじゃなく、書くという選択もあるわよね」

こんな話を読みたいと思いめぐらせた事を雑記帳に書き連ねてみた。
思っていたより楽しい作業だったがこれといって斬新なものでもない、凡才だと苦笑して手帳を閉じた。



いよいよ猛暑を迎え夏季休暇にはいった、だがこんな日でも演劇部は練習しているそうだ。
それを聞いたエリアナは従者を連れて労いにやってきた。
氷たっぷりのジュースと蜂蜜付けのレモンなどを提供した、それから盥に氷柱を立てたものを設置する。

部員たちは有難いと歓喜して氷へ集まる。
「やぁエリアナ嬢ありがとう、見学していくかい?」男装の麗人アンジェリカが声をかけてきた。
「良ろしいのですか?お邪魔でなければ隅のほうで見せていただきます」

礼をのべてエリアナと従者達と壁へ寄った。
「お嬢様、氷をどうぞ」
「ありがとう、氷柱が溶けるまで見学しましょう」


舞台稽古は思ったより白熱していた、衣装を纏っていないだけで俳優たちは本番さながらの演技だった。
雰囲気に飲まれたエリアナ達はすっかり劇にのめり込んだ。

やがてヒロインの独唱が始まる。
無意識にエリアナは小声で歌いだした、叶わぬ恋の切なさを紡ぐ女優と一体化したかのようだった。
ただそれは従者の耳にしか届かないか細い独唱だった。

歌が終わり氷が融ける音にエリアナは我に返った。
「……あらやだ、つい長居したわね。帰りましょうか」
返事する従者達はなぜか涙目で主をみつめていた、天使の歌声だと誰かが呟いた。

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