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懺悔なき告白

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ポリーの身体を検査した女医が彼女の足に切り傷を発見した。生々しい傷痕は自傷したものだった。

傷を検査するとなんと血液から薬物反応が出た、本人自体に中毒症状が出ていなかった為に発見が遅れた。
憲兵隊と調査団は捜査のぬかりを責められた。

ポリーの特異体質を誰が見破れるだろうか、結果、調査団たちに大きな咎はなくなった。
検体調査に携わった医者が言った。

「まさかポリー夫人の身体そのものが薬物だなんて、誰がわかるものか!」
毒婦ポリー、まさに毒女ぶすめであった。


ポリーの生家の家系図にそれを確定する証拠があった、古来より自ら毒を食し耐性を付けた一族の末裔。
毒殺を生業にしていた暗殺一家がポリーの先祖だった。

あらゆる毒の耐性を受け継いで生まれたポリーは、脳神経を冒す毒草を常食していた。
それは一家にとっては野菜の感覚で食卓にのぼっていたのだ。

なかでもポリーはその毒草を好んで食べていた。
常人には毒であろうが本人には少し癖のある野菜でしかなかった。毒を含む美味しい野菜だ。
大量に食べなければ神経毒は作用しない、だが臓腑に毒は蓄積され血中にも残る。

子爵家へ嫁いだポリーは時々自分で調理して食べていた。
癖があって苦いそれは家人のだれも食べない、それゆえに毒草食いとは発覚しなかった。
「味音痴の変な奥方」と見られていただけで済んでいた。

ただ閨を共にした夫は、彼女を抱いた翌日に酷い倦怠感と眩暈の症状に襲われた。
それでも毒のせいとは気が付かない、ポリーの体液が毒だなんて知る由もないのだから。
しかし自分を抱くと変調をきたす夫にポリーは毒の作用に気が付いた。
実家の書庫を探ると、食べていた毒草の効果を知りほくそ笑んだ。今回の事件の発端である。


やがて次男のルーファが誕生する。
ポリーによく似た男児、だが不幸なことに体質は受け継げなかった。

歪んだ母ポリーが授かった子を傀儡に育てる日々が始まる……そして。

***

検察官と医者によると母の逮捕を耳にしてもルーファは特に反応は見せなかったという。
母に薬物で傀儡にされて数々の暴挙を働いた彼であるが、罪が消えるわけではない。
だが精神が病んでしまった彼に囚人の生活は無理である。

結局は、罪人が病傷を患った際に収容される厳重な監視の刑務病院で軟禁生活を送ることになった。
院内は鉄格子で囲われた施設なので囚人の扱いと同等である、ただ懲役労働がさせられない。
ルーファの人格は崩壊しており生涯保護下におかれる。生きて施設から出ることはないだろう。


その後、母ポリーの裁判が開かれた。
罪状は公爵家の簒奪、その計略に実子を巻き込み廃人にした罪が問われた。
淡々と罪を語る彼女には、常に表情はなく。まるで他人事のように罪の告白をした。

すべての悪事は吐いたが最後まで懺悔の言葉はなかった。

閉廷後連行されて行くポリーを公爵夫人リーナはかつての親友を無言で見送った。
その目には悲しみはなく、ただ虚無が浮かんでいた。

愛娘を傷つけたポリーには嫌悪の感情しか残らない、友情は最初から存在しなかったのだとリーナは気持ちを整理する。

後味の悪い裁判を終え、公爵家は平常の日々を取り戻した。
しかし加害者側の子爵家はそうはいかない、公爵家への賠償金、婚約破棄の慰謝料の支払いに追われた。
家督としての責務を放棄していたとしてアーリン・スコット子爵は当主を降ろされた。

爵位も落とされ男爵になった、継いだのは長男バートだ。
取り潰しまでに及ばなかったのは、罪の償いに奔走したバートの誠意ある姿勢に公爵が許したからだ。
これまで謝罪文などを代筆していたのはバートであると公爵は気づいていた。

「キミの親が犯した罪は許せない、だが嫡男のキミまでが被るのはおかしかろう」
「公爵の寛大さに感謝いたします、我が家の名は穢れましたが名誉挽回に勤めます」

裁判後に公爵家へ謝罪に現れたバートは真っすぐな心根の好青年だった。
公爵は青年を気に入り、賠償金の半額を彼へ返還した。
有事の際は支援しようと言った公爵の言葉にバートは涙して感謝した。

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