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その後、不気味なほどに鳴りを潜めて大人しくなったアリソンはこちらを見向きもせず、どこかの貴婦人と談笑していた。やっと諦めてくれたかとロザリーは内心ほっとした。
「まだ油断するなよ、何を企んでいるかわからない」
「そんな兄様、あまり人を疑うのは良くないと思うわ」
「しかしだな……」
不服そうなクレマンはチラチラとアリソンの動向を警戒しては苛立っていた。
何かあるはずと渋面なクレマンとは対照的に朗らかなロザリーは「気にしても仕方ない」と呑気だ。彼女にとっての今世は穏やかに過ごせている、杞憂していた母アリーヌの様子は健康そのものになっていたし、何よりシャルルが生まれたことが大きい。
「いまはシャルルが健やかに成長していて、お父様もお母様もご健在、私はそれだけで幸せだわ」
「ふうん?随分と殊勝なことを言うんだな」
前回の人生のことを知らない様子のクレマンは妙なことを言う物だと肩を竦める。
彼女はにっこりと微笑みこう言った。
「クレマン兄様が曲がらずにいてくれた事が一番嬉しいの!これは本当よ」
「う~ん……良く分からないなぁ」
生き戻した彼女は意味深に微笑み「いいの」と言った、冷水を浴びせられ襤褸雑巾にのように扱われたことは悔しいが、今世の彼は真っ直ぐて一番に頼りがいがある。それは揺るぎない事実なのだから。
「失礼、お嬢さん。踊っていただけませんか?」
「え、あの……」
長身の男性が穏やかな笑みを称えてそこにいた、彼は以前にも幾度か踊ったことがある人物で名を”アルファノ・ロドニクス”という子爵令息だ。
断わる理由がみつからずロザリーはこっそり嘆息してから同意した。
「覚えていて下さったのですね、とても喜ばしいことだ」
「ええ、とても長身で穏やかな方だと」
ロザリーは当たり障りのない返答をしてやり過ごそうとした、だが、彼は少し違って大袈裟に驚き印象に残ったことを酷く歓迎する。
「嬉しいなぁロザリー様のような美しい女性に認めていただけて!実に光栄だ」
「え、いえ、そんな事は……」
妙にグイグイくる彼に及び腰になるロザリーは、早くダンス音楽が切り替わることを望んだ。そして、漸く切り替わる頃合いで離れようとしたのだが、ガッチリとホールドされていて上手くいかない。
「あの、離してくださらない?」
「いいえ、このまま二曲目を是非!宜しいでしょう?」
「そんな!困ります」
そのまま立ち往生してしまった彼らはダンスホールで悪目立ちしてしまう、ギチギチと強張る体制になり彼女は涙目になった。
そこへとある人物が割って入る。
「そこまで、パートナー交代だよ。ロドニクス君、キミは了承も取らずにロザリー嬢の名を呼んだね。失礼じゃないか」
「あ」
その人物はセレスタン・オリオール公爵令息だった、毅然とした態度でそう臨むとクルリと身を翻してロザリーをひっぺ返した。
「何かいう事は?」
威厳たっぷりに言い募るセレスタンは怒気を孕んでいてとても恐ろしい。
「……も、申し訳ありません、オリオール様。親しくなりたいという願望が出てしまいました」
「謝る相手が違うようだが?そんな事も出来ないのか、呆れたよロドニクス子爵家も落ちたものだ」
「ぐ、申し訳ありませんでした、バイヤール伯爵令嬢」
彼は深くお辞儀をしてそそくさと踵を返していった。
「ありがとうございます、セレスタン様!とても助かりましたわ」
「ふふ、良いんだよ。それより大丈夫かい?怪我とかしていないかな」
「え、ええ……あ、痣が出来ています」
きっと強く握りしめられたであろう右腕にくっきりと手形がついていた、それを見たロザリーは身震いした。
「これは抗議する案件だな、私の名で通しておくよ」
「そ、そんなご迷惑になるのでは?」
「平気さ、それに私はとても不愉快な気分なんだ。なんたって愛しいロザリーの細腕に痣を作ったのだからね」
「まあ!」
それを聞いたロザリーの顔は茹蛸のようになって、湯気でもでそうな勢いだ。
そして、掴まれた腕を消毒しようと彼は救護室へ彼女を誘うのだった。
ある日の事だ、その日の夜会も恙なく盛り上がりロザリーが一人で壁際に控えているととある人物がやってきた。
アリソン伯爵令嬢だった。思わず身を固くして退いたロザリーは震える体を自身で抑え込み身構えた。
だが、アリソンは思いがけず柔らかな口調で話しかけてきた。
「ごきげんよう、バイヤール様。私のことを許して欲しいの」
「え?」
「まだ油断するなよ、何を企んでいるかわからない」
「そんな兄様、あまり人を疑うのは良くないと思うわ」
「しかしだな……」
不服そうなクレマンはチラチラとアリソンの動向を警戒しては苛立っていた。
何かあるはずと渋面なクレマンとは対照的に朗らかなロザリーは「気にしても仕方ない」と呑気だ。彼女にとっての今世は穏やかに過ごせている、杞憂していた母アリーヌの様子は健康そのものになっていたし、何よりシャルルが生まれたことが大きい。
「いまはシャルルが健やかに成長していて、お父様もお母様もご健在、私はそれだけで幸せだわ」
「ふうん?随分と殊勝なことを言うんだな」
前回の人生のことを知らない様子のクレマンは妙なことを言う物だと肩を竦める。
彼女はにっこりと微笑みこう言った。
「クレマン兄様が曲がらずにいてくれた事が一番嬉しいの!これは本当よ」
「う~ん……良く分からないなぁ」
生き戻した彼女は意味深に微笑み「いいの」と言った、冷水を浴びせられ襤褸雑巾にのように扱われたことは悔しいが、今世の彼は真っ直ぐて一番に頼りがいがある。それは揺るぎない事実なのだから。
「失礼、お嬢さん。踊っていただけませんか?」
「え、あの……」
長身の男性が穏やかな笑みを称えてそこにいた、彼は以前にも幾度か踊ったことがある人物で名を”アルファノ・ロドニクス”という子爵令息だ。
断わる理由がみつからずロザリーはこっそり嘆息してから同意した。
「覚えていて下さったのですね、とても喜ばしいことだ」
「ええ、とても長身で穏やかな方だと」
ロザリーは当たり障りのない返答をしてやり過ごそうとした、だが、彼は少し違って大袈裟に驚き印象に残ったことを酷く歓迎する。
「嬉しいなぁロザリー様のような美しい女性に認めていただけて!実に光栄だ」
「え、いえ、そんな事は……」
妙にグイグイくる彼に及び腰になるロザリーは、早くダンス音楽が切り替わることを望んだ。そして、漸く切り替わる頃合いで離れようとしたのだが、ガッチリとホールドされていて上手くいかない。
「あの、離してくださらない?」
「いいえ、このまま二曲目を是非!宜しいでしょう?」
「そんな!困ります」
そのまま立ち往生してしまった彼らはダンスホールで悪目立ちしてしまう、ギチギチと強張る体制になり彼女は涙目になった。
そこへとある人物が割って入る。
「そこまで、パートナー交代だよ。ロドニクス君、キミは了承も取らずにロザリー嬢の名を呼んだね。失礼じゃないか」
「あ」
その人物はセレスタン・オリオール公爵令息だった、毅然とした態度でそう臨むとクルリと身を翻してロザリーをひっぺ返した。
「何かいう事は?」
威厳たっぷりに言い募るセレスタンは怒気を孕んでいてとても恐ろしい。
「……も、申し訳ありません、オリオール様。親しくなりたいという願望が出てしまいました」
「謝る相手が違うようだが?そんな事も出来ないのか、呆れたよロドニクス子爵家も落ちたものだ」
「ぐ、申し訳ありませんでした、バイヤール伯爵令嬢」
彼は深くお辞儀をしてそそくさと踵を返していった。
「ありがとうございます、セレスタン様!とても助かりましたわ」
「ふふ、良いんだよ。それより大丈夫かい?怪我とかしていないかな」
「え、ええ……あ、痣が出来ています」
きっと強く握りしめられたであろう右腕にくっきりと手形がついていた、それを見たロザリーは身震いした。
「これは抗議する案件だな、私の名で通しておくよ」
「そ、そんなご迷惑になるのでは?」
「平気さ、それに私はとても不愉快な気分なんだ。なんたって愛しいロザリーの細腕に痣を作ったのだからね」
「まあ!」
それを聞いたロザリーの顔は茹蛸のようになって、湯気でもでそうな勢いだ。
そして、掴まれた腕を消毒しようと彼は救護室へ彼女を誘うのだった。
ある日の事だ、その日の夜会も恙なく盛り上がりロザリーが一人で壁際に控えているととある人物がやってきた。
アリソン伯爵令嬢だった。思わず身を固くして退いたロザリーは震える体を自身で抑え込み身構えた。
だが、アリソンは思いがけず柔らかな口調で話しかけてきた。
「ごきげんよう、バイヤール様。私のことを許して欲しいの」
「え?」
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