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「なんだこれは……」
借家に戻ったショーンはドレッサーを始めサビネの私物がすべて消え去っていたことに気が付いて驚く。別れを切り出されたあの日、「一月後に出て行く」という彼女の言葉を思い出す。
「期限はまだまだ先じゃないか……あぁ、そうか!」

彼女の性格を把握していると過信している彼はこれはサビネなりの強がりなのだと面白うそうに笑った。
「無駄無駄、どうせ近所の友人宅へでも泊まって様子伺いなんだろう。バレバレだってーの!誰が迎えになんて行くものか」
家具まで持ち出すという演技にショーンは大掛かりな離別のフリを仕掛けたものだと肩を竦めた。
「あいつが俺から離れていくわけがないのさ!」
別れ話をしたあの日から今まで毎日変わらず食事の用意をしていた、共に食事を摂ることはしなかったが彼が食事に困るようなことは一度もない。

「ふん、ワザとらしいことだ。好きでもない相手に食事の世話なんてしないだろうよ」
いつものようにスープの鍋にはなみなみと具沢山の汁が入っていると思っているショーンは蓋を開けた。だが、そこには綺麗に磨かれた鍋底がマヌケ面を映していただけだった。
「はあ!?あのアマ!巫山戯やがって!」

彼は思わぬ反撃を食らいイライラしながらパントリーを開けた、そこには二つの缶詰と乾燥麺しかなかった。
「毎日買っていたフィセルは?ジャムはどうしたんだよ!」
当然あって当たり前のものが無いと知るや、益々と空腹を自覚した彼は止む無く外食することにした。家事類をサビネに丸投げしていたショーンは自炊経験がないし、適当にあるパンを齧る程度のことしかしようとしない。






彼女が姿を消して約一週間、根を上げたのはショーンの方だった。
溜まる一方の洗濯物と外食ばかりの彼の財布は減って行くばかりで生活費は底をつきそうだった。
「なんでだ!誰か金をかすめ取ったんじゃないだろうな!」
いままで彼女が工夫して作っていた料理と同等のものを食べていただけなのに、金子はどんどん減るのだ。

家事をやる気が無い彼は渋々とサビネの友人宅へ顔を出した。
だが、そこに彼女の姿はなく、侮蔑の表情で彼を睨む友人が迷惑そうに応対した。
「サビネなら遠くへ引っ越したわよ」
「あ、あの住所とか……」
「個人情報は教えない、常識でしょ」

「実は家事で困ってて、その……助けて貰えないかな?」
「は?知らんし!図々しいな!サビネは友人でもアンタは赤の他人だよ、バカじゃねぇの?」

「さっさと帰れ」と冷たく突き放す言葉を投げつけられたショーンは青褪めてトボトボ帰宅するしかなかった。


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