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今月とは言ったがサビネは早速部屋探しに奔走した。
一分一秒でも側にいたくなかったのだ、未練があるなどと誤解されるのも癪だった。
現にショーンは意地悪そうな笑みを浮かべて彼女を煽るような言い方をしてチョッカイを掛けていた。

『今なら撤回することも出来るんだぜ?まぁ俺はお前の事なんてどうでもいいけどさ』
「……」
『ワザとぐずぐずと荷造りしてるんじゃないよなぁ?引き止めて欲しいってか冗談じゃないよ』
「……」
『鬱陶しいんだよ!辛気臭い顔をして、居候として置いてやってるんだ掃除くらいしろよ』
「……」
このようにウザ絡みしてくるショーンに対してサビネはとことん無視を決め込むのだが、意地を張っていると思っている彼は止めようとしない。無視をされている彼はいつになく饒舌で口数が増えたのは皮肉なことだ。



「以前は私が話しかけても生返事か無視の癖に……自分が無視されるのは嫌いらしいの」
「まあ!なんて身勝手な男なの!別れて正解だわ!」
久しぶりに会った友人ミリーにサビネは近況を愚痴りまくってしまっていた、ミリーは親身になって彼女の話を聞いては「同意!」と語気強く肯定する。

「聞いてくれてありがとうスッキリしたわ」
「いいのよ、引っ越し手伝いなら任せなさいよ!」
モヤモヤする気持ちを掃えたサビネの顔には、もう迷いの色はなかった。

***

――別れ話から二週間後。

転居先を押さえ荷造りを終えたサビネは鞄一つで部屋を出た、大きな荷物は先に送っていたので気楽なものだ。
街に出て移動する途中で宝石店で談笑する男女を見かける、羨ましいと遠くから眺めていたが男性の方はショーンであるとわかった。

「ああ……貴方はなんて残酷なの、他に指輪を送る相手がいたのね」
心は離れたとはいえやはり悔しさは溢れてくる、涙の代わりに零れ落ちるのは憤怒の感情だけだ。
だがサビネは一呼吸してから再び歩き出す、彼の知らない街へと彼女は急ぐ。
「さようなら、大嫌い」

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