7 / 7
討伐依頼
しおりを挟む
得体の知れない力を見せた少年に慄いた破落戸たちは一斉に庄屋の屋敷から逃げ出した。
遠巻きに見物していた野次馬たちは奥で行われたことは良く見えなかったが、魔法使いらしい子供が悪党を蹴散らしたようだと勝手に話を広めた。
玄関先が静まってから奥に逃げていた庄屋一家が顔を出し、破落戸共が居なくなっていたことに安堵する。
代わりに土間にちょこりと座っていた見知らぬ少年を見て「キミが退治したのか?」と訊ねる。
「退治……あぁ戦ったのは確かだけど、それがなに?」
悪意はなさそうな彼を見て庄屋の主が礼を言い小さな袋を手渡す、中身は金貨が数枚入っているようだが金の価値がわからない少年は要らないと断る。
「持っていて困るモノではない、どうか受け取って欲しいのです」
この先旅を続けるなら必要になるはずだと主はイティアを説得する、そして金の使い方を簡単に教えた。
「ふぅん……これと欲しい物を交換できるのか面白い」
「うん、納得して貰えたところで依頼したいことがあるのだが、もちろんお礼はしますよ」
村に巣くう破落戸達に困っていた庄屋は一味を追い出して欲しいと願いでたのだ。
「余所者のキミに頼むのは心苦しいがどうか聞き届けて欲しい」
庄屋一家とその従者らが頭を下げて来た、イティアは破落戸たちが住人を困らせているのを理解して討伐を受け入れた。
「ようするに全員始末すれば良いんだよね?手加減はできないけど良いのかな」
「え、ええ。どちらにせよ悪さをする類の者は捕縛され次第処刑なので」
「そっか、ならば好きに片づける。後で文句はなしだよ」
こうして彼は前金を受け取り、破落戸たちが住処にしているという林へと向かった。名も無き村の流れる小川を挟んだ先にそれはあるらしい。
***
イティアは崩れ落ちそうな心許無い橋を渡って目的地を目指した、取り立てて急ぐ用事もない彼にとってはただの暇つぶしだ。
「これも経験なのかなファファが言う大切なものを見極めるのに必要かはわからないけど」
出会ったばかりの村人に恩も縁もないが、助けるのは吝かでないと思った。
なにより破落戸に脅されて金品を搾取されていたらしい庄屋の主は凄く嬉しそうだったことをイティアは思い返す。
雑草茂るそこには細い道が出来ていた獣道にも見えたが、人のモノとわかる痕跡が見えた。
藪をさらに奥へと進めばいよいよ林の中だ、背丈を越える草がトンネルのように巡らせていた。おそらく彼らを脅かすような敵が今までいなかったのでネグラを隠す気も無く無防備だ。
彼がそこへ近づくにつれ独特の生活臭が漂って来た。
生ゴミと何かを燻したような臭い、そして古い油のような嫌な臭いが鼻をつく。この先にいる者が碌なものではないと物語っている。
「仲良くする相手ではないのだし、一気にやっちゃおうか」
倒木や大きな葉で作られたみすぼらしい小屋を発見するや、イティアは攻撃せんと内に貯め込んでいた瘴気を手の平から噴き出した。勢いよく出たそれは小さな竜巻のようになって奴らが潜むであろうそこへ突入した。
一方、追手が来ていたと知らない破落戸一味は、庄屋の金品を奪う事を失敗して自棄酒を煽り管を巻いていた最中だった。彼らを仕切っていたボスは両腕を失って憔悴していたし、右腕だった男は死んでしまった。纏まりを失ったやつらは何れ散開していたかもしれないが、被害を被ってきた村人の怒りには関係ない。
小屋の窓や隙間から侵入してきた赤黒いそれは彼らにまとりつき苦しめだした。
突然のことに逃げる間もなく、呼吸と自由を奪われてそこに転がる他なかった、かつてイティアがそれに呑まれ食われたように。
人の気配がすっかりなくなったことを確認したイティアは、満足そうに頷くと瘴気を再び吸い込んで体に馴染ませた。村人の財産の一部とみられる金貨を回収して、一味の骸はそのままに彼は村へ戻ることにした。
事の顛末を聞かされた庄屋の主はさっそく残りの報酬を支払い、奪い返した金貨も少年に渡す。
「こんなにいいの?価値はわかんないけど」
キラキラと眩しい金貨を弄んでイティアは依頼人に尋ねる。
「いいのです、金はともかく平和な暮らしが出来ることが何より嬉しいのだから」
「そう、ならば言う事はないや」
革袋いっぱいに報酬を貰ったイティアは村に長居することなく旅発つのだった。
遠巻きに見物していた野次馬たちは奥で行われたことは良く見えなかったが、魔法使いらしい子供が悪党を蹴散らしたようだと勝手に話を広めた。
玄関先が静まってから奥に逃げていた庄屋一家が顔を出し、破落戸共が居なくなっていたことに安堵する。
代わりに土間にちょこりと座っていた見知らぬ少年を見て「キミが退治したのか?」と訊ねる。
「退治……あぁ戦ったのは確かだけど、それがなに?」
悪意はなさそうな彼を見て庄屋の主が礼を言い小さな袋を手渡す、中身は金貨が数枚入っているようだが金の価値がわからない少年は要らないと断る。
「持っていて困るモノではない、どうか受け取って欲しいのです」
この先旅を続けるなら必要になるはずだと主はイティアを説得する、そして金の使い方を簡単に教えた。
「ふぅん……これと欲しい物を交換できるのか面白い」
「うん、納得して貰えたところで依頼したいことがあるのだが、もちろんお礼はしますよ」
村に巣くう破落戸達に困っていた庄屋は一味を追い出して欲しいと願いでたのだ。
「余所者のキミに頼むのは心苦しいがどうか聞き届けて欲しい」
庄屋一家とその従者らが頭を下げて来た、イティアは破落戸たちが住人を困らせているのを理解して討伐を受け入れた。
「ようするに全員始末すれば良いんだよね?手加減はできないけど良いのかな」
「え、ええ。どちらにせよ悪さをする類の者は捕縛され次第処刑なので」
「そっか、ならば好きに片づける。後で文句はなしだよ」
こうして彼は前金を受け取り、破落戸たちが住処にしているという林へと向かった。名も無き村の流れる小川を挟んだ先にそれはあるらしい。
***
イティアは崩れ落ちそうな心許無い橋を渡って目的地を目指した、取り立てて急ぐ用事もない彼にとってはただの暇つぶしだ。
「これも経験なのかなファファが言う大切なものを見極めるのに必要かはわからないけど」
出会ったばかりの村人に恩も縁もないが、助けるのは吝かでないと思った。
なにより破落戸に脅されて金品を搾取されていたらしい庄屋の主は凄く嬉しそうだったことをイティアは思い返す。
雑草茂るそこには細い道が出来ていた獣道にも見えたが、人のモノとわかる痕跡が見えた。
藪をさらに奥へと進めばいよいよ林の中だ、背丈を越える草がトンネルのように巡らせていた。おそらく彼らを脅かすような敵が今までいなかったのでネグラを隠す気も無く無防備だ。
彼がそこへ近づくにつれ独特の生活臭が漂って来た。
生ゴミと何かを燻したような臭い、そして古い油のような嫌な臭いが鼻をつく。この先にいる者が碌なものではないと物語っている。
「仲良くする相手ではないのだし、一気にやっちゃおうか」
倒木や大きな葉で作られたみすぼらしい小屋を発見するや、イティアは攻撃せんと内に貯め込んでいた瘴気を手の平から噴き出した。勢いよく出たそれは小さな竜巻のようになって奴らが潜むであろうそこへ突入した。
一方、追手が来ていたと知らない破落戸一味は、庄屋の金品を奪う事を失敗して自棄酒を煽り管を巻いていた最中だった。彼らを仕切っていたボスは両腕を失って憔悴していたし、右腕だった男は死んでしまった。纏まりを失ったやつらは何れ散開していたかもしれないが、被害を被ってきた村人の怒りには関係ない。
小屋の窓や隙間から侵入してきた赤黒いそれは彼らにまとりつき苦しめだした。
突然のことに逃げる間もなく、呼吸と自由を奪われてそこに転がる他なかった、かつてイティアがそれに呑まれ食われたように。
人の気配がすっかりなくなったことを確認したイティアは、満足そうに頷くと瘴気を再び吸い込んで体に馴染ませた。村人の財産の一部とみられる金貨を回収して、一味の骸はそのままに彼は村へ戻ることにした。
事の顛末を聞かされた庄屋の主はさっそく残りの報酬を支払い、奪い返した金貨も少年に渡す。
「こんなにいいの?価値はわかんないけど」
キラキラと眩しい金貨を弄んでイティアは依頼人に尋ねる。
「いいのです、金はともかく平和な暮らしが出来ることが何より嬉しいのだから」
「そう、ならば言う事はないや」
革袋いっぱいに報酬を貰ったイティアは村に長居することなく旅発つのだった。
0
お気に入りに追加
23
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!
宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。
そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。
慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。
貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。
しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。
〰️ 〰️ 〰️
中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。
完結しました。いつもありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
ファファって母って発音にいてるな。
(´∀`*)
ご感想ありがとうございます。
そうですね母で姉のような彼女ですから(*^-^*)