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とある国の因習
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少年イティアが新たな生を受けて前向きに生きようとしていた頃。
彼を棄てた親レドストン国の王はもう一人の我が子の立志を祝っていた。その者の名は”ブルス”という、イティアに良く似た面差しの少年は双子の兄である。その国ではふたり同時に生まれた者を忌み子として嫌う風習を持つ。
冷静になれば巫山戯た話なのだが、人間は一つの腹から一人しか生まれないのが絶対的な通説であり、二人以上が同時に誕生するのは畜生腹として嫌悪されている。
生みの親である王妃すらも弟として生まれたブルノを嫌って側に置くのを許さなかった。
ブルノは乳飲み子の頃から虐げられ隠すように育てられてきた、双子が3歳になった頃には弟ブルノの魔力を兄ブルスに捧げるように呪いまでかけられていた。
そのせいで成長に異常をきたしたブルノはほとんど背が伸びなかった。暗い北の塔で過ごすしかない弟ブルノはそれでも健気に生きていた。
与えられる食事は残飯ばかりで、栄養が足りないブルノは瘦せ細っていて、いつ絶命してもおかしくない状態にいた。居室はろくな家具もなく牢獄のような冷たい床で寝るのだ、寝具は藁を詰めた袋だけだった。
そして言葉を教えてくれるのは不定期で訪れる司教だけだ、世界の在り方や神の言葉を伝えられた。
安らかな死を迎え怨嗟の念などを持たない様にする配慮だったが、それすらも国の都合でしかない。
言葉を覚え理解したブルノだが理不尽さと矛盾を解せなかった。
「慈悲深い神が存在するなら何故ボクはここにいるんだろう」
窓はなく明り取りの細長い隙間だけが壁にあった、ブルノはその僅かな明かりに縋り、僅かに覗ける外の世界を楽しむのだった。
時折、そこへ飛んでくる小鳥だけが彼の友人で家族だった。
「こんにちは、今日は良い天気だね。パンを食べるかい?ちょっとカビ臭くて申し訳ないんだけど」
小さく囀る友人に僅かしかない食事を分け与えた。彼が精神崩壊せずに済んだのはこの触れ合いがあったお陰だ。
しかし、兄ブルスが立太子する15歳の誕生日にとうとうすべての魔力を奪われて、搾りカスとして扱われた弟は死の森に捨てられたのである。存在そのものを隠蔽され、人としての尊厳の全てを奪われた弟だったが、次元の違う生命体として復活していたなど国王らは知る由もない。
面倒な存在は消え去ったと高を括った王族は二人分の魔力を備えたブルス王太子に大いに期待した。
「ふふ、立派に育ってくれたこと。この国は安泰ね!」
「はい、母上。私は期待に応えてみせますよ、レドストンを世界一の大国にのし上げて見せましょう!」
尋常ではない魔力を有したブルスは野望に燃えていた、王も王妃も同様に増長している。目障りな大陸の覇者である帝国すら何れ蹂躙する算段なのだ。
「あの大帝国ランドゴラムを墜とせたら怖い物だどないな」
国王は黒い未来を描いてほくそ笑む、息子に過大評価をして期待をする様は親バカそのものだ。妻の王妃も鷹揚に頷き「あの子なら成し遂げましょう」と扇の奥で嗤った。
実際、王太子ブルス以上に魔力が高い者は王国内には存在していなかった。
そのせいもあってかブルスは調子づいて尊大な物言いをするようになっていく、己より優れた存在はいないと信じて疑わない。
王家直属の魔導師団との手合わせでもその力を発揮して、団長すら軽く伸してしまった。
「どうした、貴殿は代々わが国を護って来た精鋭の子孫なのだろう?300年の歴史とはその程度なのか、赤子を捻るようだとはこのことよ」
面目丸つぶれにされた魔導士は項垂れて若造に忠誠を誓う他なかった。
「父上、この様子では私一人いさえすれば世界を蹂躙できましょうぞ」
型破りな強さを見せつけた倅を見て父王はその能力を認めざるをえなかった。
「うむ、もはやお前に敵う者はおらんだろうな。我が国が誇ってきた魔導士団が一斉にかかったとしてもお前は往なしてしまうのだろう」
「はい、その通りですよ父上。私は誰よりも優れている、世界の脅威となる大王となるのです」
威風堂々たるその姿に王も王妃も我が息子ながら畏れ多いと思うのであった。
彼を棄てた親レドストン国の王はもう一人の我が子の立志を祝っていた。その者の名は”ブルス”という、イティアに良く似た面差しの少年は双子の兄である。その国ではふたり同時に生まれた者を忌み子として嫌う風習を持つ。
冷静になれば巫山戯た話なのだが、人間は一つの腹から一人しか生まれないのが絶対的な通説であり、二人以上が同時に誕生するのは畜生腹として嫌悪されている。
生みの親である王妃すらも弟として生まれたブルノを嫌って側に置くのを許さなかった。
ブルノは乳飲み子の頃から虐げられ隠すように育てられてきた、双子が3歳になった頃には弟ブルノの魔力を兄ブルスに捧げるように呪いまでかけられていた。
そのせいで成長に異常をきたしたブルノはほとんど背が伸びなかった。暗い北の塔で過ごすしかない弟ブルノはそれでも健気に生きていた。
与えられる食事は残飯ばかりで、栄養が足りないブルノは瘦せ細っていて、いつ絶命してもおかしくない状態にいた。居室はろくな家具もなく牢獄のような冷たい床で寝るのだ、寝具は藁を詰めた袋だけだった。
そして言葉を教えてくれるのは不定期で訪れる司教だけだ、世界の在り方や神の言葉を伝えられた。
安らかな死を迎え怨嗟の念などを持たない様にする配慮だったが、それすらも国の都合でしかない。
言葉を覚え理解したブルノだが理不尽さと矛盾を解せなかった。
「慈悲深い神が存在するなら何故ボクはここにいるんだろう」
窓はなく明り取りの細長い隙間だけが壁にあった、ブルノはその僅かな明かりに縋り、僅かに覗ける外の世界を楽しむのだった。
時折、そこへ飛んでくる小鳥だけが彼の友人で家族だった。
「こんにちは、今日は良い天気だね。パンを食べるかい?ちょっとカビ臭くて申し訳ないんだけど」
小さく囀る友人に僅かしかない食事を分け与えた。彼が精神崩壊せずに済んだのはこの触れ合いがあったお陰だ。
しかし、兄ブルスが立太子する15歳の誕生日にとうとうすべての魔力を奪われて、搾りカスとして扱われた弟は死の森に捨てられたのである。存在そのものを隠蔽され、人としての尊厳の全てを奪われた弟だったが、次元の違う生命体として復活していたなど国王らは知る由もない。
面倒な存在は消え去ったと高を括った王族は二人分の魔力を備えたブルス王太子に大いに期待した。
「ふふ、立派に育ってくれたこと。この国は安泰ね!」
「はい、母上。私は期待に応えてみせますよ、レドストンを世界一の大国にのし上げて見せましょう!」
尋常ではない魔力を有したブルスは野望に燃えていた、王も王妃も同様に増長している。目障りな大陸の覇者である帝国すら何れ蹂躙する算段なのだ。
「あの大帝国ランドゴラムを墜とせたら怖い物だどないな」
国王は黒い未来を描いてほくそ笑む、息子に過大評価をして期待をする様は親バカそのものだ。妻の王妃も鷹揚に頷き「あの子なら成し遂げましょう」と扇の奥で嗤った。
実際、王太子ブルス以上に魔力が高い者は王国内には存在していなかった。
そのせいもあってかブルスは調子づいて尊大な物言いをするようになっていく、己より優れた存在はいないと信じて疑わない。
王家直属の魔導師団との手合わせでもその力を発揮して、団長すら軽く伸してしまった。
「どうした、貴殿は代々わが国を護って来た精鋭の子孫なのだろう?300年の歴史とはその程度なのか、赤子を捻るようだとはこのことよ」
面目丸つぶれにされた魔導士は項垂れて若造に忠誠を誓う他なかった。
「父上、この様子では私一人いさえすれば世界を蹂躙できましょうぞ」
型破りな強さを見せつけた倅を見て父王はその能力を認めざるをえなかった。
「うむ、もはやお前に敵う者はおらんだろうな。我が国が誇ってきた魔導士団が一斉にかかったとしてもお前は往なしてしまうのだろう」
「はい、その通りですよ父上。私は誰よりも優れている、世界の脅威となる大王となるのです」
威風堂々たるその姿に王も王妃も我が息子ながら畏れ多いと思うのであった。
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