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第3章

3-29 見えてきたKO決着

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【前回のあらすじ】
 リユと交代でナオがコートに立つ。マークマンの関係で出場時間の限られるナオはハッスルプレーの連続で、攻守に活躍。1分20秒を全力で戦う。その影響か、互いに得点の入らない攻防の中で、MCモンスターズ・クッキーのジャックはプレーを続行できなくなった模様。ボールがラインを割ったタイミングで、リユがナオと交代してイン。そして、ジャックに代わってルーシーが入る。



(Z)12対11(MC)で、俺たちが1点のリード。ただ、女子2ポイントシュートが決まれば4点のルールで、1点のリードなんて、無いも同然だ。
 残り時間は6分02秒。
 MCは女子ふたり体制。しかもふたりとも得点能力が高い。完全に抑え込むのは無理だろう。だとしたら、せめて2Pだけは阻止しないとな。幸い、ふたりとも2Pの能力が突出して高いって感じじゃないからな。でもペギーの方は今日何本か決めているし、要警戒だな。

 ルーシーがトップに入った。
 それを見た美那が俺に声をける。
「リユ、チェックボール、お願い」
「ああ、わかった」
 確かにずっとハードに動いている美那に、休憩でリフレッシュしたルーシーの対応はキツそうだ。
 俺がチェックボールのポジションに行くと、ルーシーが小さく笑みを浮かべる。
 ベンチにいた時とは違う、ちょっと不敵な笑いだ。
 右サイドのペギーには美那、左サイドのテッドにはオツがマークに付いている。

 審判からボールを受け取り、わずかにを取って、ルーシーにトス。
 ちらっと左右を見たルーシーが、その場でドリブルを始める。たぶん、美那とオツのマークがしっかりしていて、パスを出せないのだ。
 小さな片手ドリブルから左右のフロントチェンジ。微妙に、時に大胆に、リズムをずらす。緩急かんきゅうをつけ方がエゲツねー! バスケ動画でもアメリカのやつは、こういうエゲツないドリブルのコーチング動画が結構あったもんなぁ。ヒップホップとかジャズと、JーPopとの違いかぁ?
 突然のレッグスルーから前後に揺さぶりをかけられて、ペネトレイト突入の気配からのステップバック。
 いきなり2Pで来たか!
 俺は腕を上げながら一歩踏み込んで、ジャンプ……しようとしたら、ルーシーはドリブルに……!
 しまったぁっ、フェイントだぁ。
 さっき美那がペギーにやられたのと似たようなパターンだ……裏をかかれた俺は対応しきれない。
 抜かれた。
「リユ、スイッチだ」
 オツから声が飛んでくる。
 俺は状況を確認する間も無く、オツがいた左サイドに走る。たぶん、オツがルーシーのディフェンスに入るから、俺にテッドのマークに入れ、って意味だろ。
 走りながら振り向いて状況を確認。
 やっぱりオツがルーシーのディフェンスに回っている。テッドがフリー。
 ルーシーはオツを抜いてゴールを決めるか、フリーのテッドにパスを出すか。
 オツ対ルーシーはどうなんだ⁈
 1on1的対決ならルーシーにがあるだろうけど、ゴール下の攻防になったらオツが有利か?
 あんじょう、ルーシはテッドにパスを出す。
 テッドはサイドラインとエンドラインの交わるコートの端ディープコーナーに寄って、俺との距離をかせいでいる。
 くっそ、間に合え。
 俺は必死のダッシュ。
 近づいたところで、2Pの姿勢に入ったテッドの前に腕を上げて飛ぶ。
 ところがテッドは反対側にくるっと回る。
 うがぁー、完全にハメられた!
 テッドが余裕で2Pシュートを放つのを、俺は着地を踏ん張りながら、見届けるしかない。

 ところが、テッドのシュートはリングに嫌われる。
 そして、ルーシーとのリバウンド争いは、当然のようにオツが勝つ。
 よしっ!
 オツが着地と同時に、コーナーにいる俺に速いパスを出してくる。
 胸への正確なパス。
 すでにアークの外だ。
 すぐにテッドがディフェンスに来る。
 テッドも、さっきの俺みたく、なかば横っ飛びのジャンプでシュート阻止に来るはず。
 だったら、背の高いテッドを計算に入れて、ジャンプシュートだ。
 杉浦さんがサスケコートに用意してくれた大型ネットのお陰で、まだわずか数日とはいえ、充実した練習のできた横からの2Pシュート。
 テッドが視界をさえぎるように飛んでくる。
 だけどもうシュートのイメージは出来ている。
 膝を柔らかく使って、ジャンプして、右手でボールを放つ。
 回転して黄色に青と赤の混じったボールは、高めの軌道を描いて、そのままゴールに。

「よっしゃーっ!」
 また思わず叫んでしまう。
 めちゃ、気持ちいい!
 ルーシーには抜かれちゃったけど、災い転じて福となす、って感じか? まあこれもオツのディフェンスの賜物たまものなんだろうな。
「いいぞ、リユ! いい判断だった」
 オツからまたまたお褒めの言葉をいただく。シュートよりも、素早くテッドのディフェンスに行った方かな?
「リユ、ナイスシュー!」と美那。
「リユくん!」とナオ。
「お兄さん、カッコいい!」と中バス女子。たぶん、バスケに熱心な方。
「いいぞ、25番」とおっさんの声まで飛んでくる。
 マジか。

 これで得点は、(Z)14対11(MC)と3点リード。
 残り時間は5分50秒。

 ルーシーがゴールのボールを取る。
 マークがずれて、ペイントエリア内でオツがルーシー、俺が左サイドのテッド、美那が右サイドのペギーに付いている。
 今度はアークの外にボールを出そうとするルーシーと、オツの対決だ。
 そして、連続出場で疲労の見えるオツと、元気のいいルーシー。
 こういう条件では、ルーシーが有利に変わる。
 素早いドリブルでオツとの距離を作ったルーシーは、巧みな動きで美那を離した右ウイングのペギーにパス。
 アークの外へのパスは通ってしまうが、美那はきっちりカバーに入っている。

 再びペギー対美那の1on1対決。
 美那はどうしてもペギーのリズムの変化に幻惑されてしまうらしい。ボールとかどっかを集中して見ちゃってるんだろうか?
 テニスだと、相手と距離が離れている分、全体の動きを把握しつつ、足の踏み込み方向とか力の入れ具合、テイクバック、そして最後はラケットとボールの当たった角度とフォロスルーの向きで、ドライブとかスライスとかボールの種類と強さ、方向と深さを最終的に判断する。シングルスではあんまりないけど、ダブルスではよくある前衛同士の対決はバスケの1on1と近い感覚だけど、まあほぼ瞬間の対応だからな。それでも、大まかとはいえ、同じような判断を瞬時にしている。

 ペギーの巧みなドリブルで前後左右に、美那の動きのタイミングのズレが増幅していく。まずい。これはNBAのドリブル特集の動画でもよくあるパターン……。
 ゴール側に揺さぶってから、ペギーは、大きなステップバック。そして躊躇ちゅうちょなく2P。
 一瞬遅れて美那もブロックに飛ぶ。
 だけど距離がありすぎて、美那の手はボールに届かない。
 ボールはきれいにリングを捉える。
 ネットを揺らす。
 やられた。
 一番嫌な、女子の2Pシュート。

 4点追加されて、得点は(Z)14対15(MC)。
 残り時間は5分41秒。
 ちょっと待て。これだとMCは、女子の2Pと1Pの一本ずつで21点に届いてしまう!

 ゴールを許した美那が、悔しさを追い払うように、床に弾むボールを拾いにアーク付近からダッシュする。
 その間に、MCがマークマンを戻してくる。テッドがトップにいるオツ、ルーシーが左ウイングの俺のマークに入る。
 ペギーは美那を追わない。さすがに少々疲れているのだろう。
 俺はパスを受けるべく左サイドで動くけど、ルーシーもまだ元気だ。なかなか振り切れない。
 美那が右サイドのアークにドリブルで向かうと、ペギーがようやくディフェンスに向かう。
 ペギーがディフェンスに入ったその瞬間、美那はくるっとターンして、左ウイングへとスピードのあるドリブルで戻る。
 ペギーは遅れる。
 距離を開けた美那が、ドリブルから2Pを打とうとしたタイミングで、ペギーがディフェンスできる距離に入ってくる。
 ただ美那は、完全にドリブルを止めたわけではなかった。
 ボールをホールドするフリをして、ひざかがめただけ。フェイントだ。
 ペギーの意表を突いて、ドリブルで突破。
 俺をマークしていたルーシーがディフェスに走る。
 けど、美那はほぼフリーでレイアップシューーート!

 決まったぁ!
 またまた逆転。
 得点は(Z)16対15(MC)。
 今度は俺たちZが、最短、美那の2P1本と俺かオツの1PでKO勝ちじゃん!
 残り時間は5分34秒だ。
 って、ことは、このままだと5分過ぎの特別ルールのタイムアウトまで行かないこともありる?
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