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第2章
2-27 Enjoy Basketball! と放物線
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はっきり言って、ペギーのチームだ。
ジャックとテッドはうまいけど、アスリートのバスケじゃないという感じ。ペギーはたぶん、高校のバスケ部とかで活躍していたに違いない。アメリカの部活の仕組みとかは知らないから、はっきりとは言えないけど。
ペギーとの競り合いは楽しい。
オフェンスで自分がボールを持った時にペギーがディフェンスに来てくれると嬉しいし、逆にペギーに対するディフェンスは美那との取り合い様相を呈している。
例えば、こんな場面。
ジャックがダンク気味に決めたシュート――公園のゴールは固定式でダンク禁止タイプ――のボールを、オツがキャッチ。
俺は、オツからのパスをアークの外で受ける。
ペギーがディフェンスに来る!
ドリブルを開始した俺とペーギが向き合う。
互いの気を読む感じだ。
左に微妙に体重移動しかけるフェイントをかけて、右に動き出す。
ほんの一瞬しか遅れずにペギーが付いてくる。
すぐに右にターンして、さらに左にターン。バイクのスラロームで素早く切り返すイメージだ。回り込む量はスラロームよりずっと大きいけど、体を傾ける感じは同じ。
さすがにペギーも少し離れる。
逆サイドから鋭くカットインしてきた美那にパス。
俺はさらに右に方向転換して、アークの頂点に向かって走る。
美那はシュートに向かうと見せかけて、マークに付いているサラサラ金髪のテッドにフェイントをかけて、俺への早いパスを繰り出す。
ペギーが長い腕を伸ばしてくるけど、届かない。
そして、しっかりとアークのラインを意識して、バックステップからの2ポイントシュートを放つ。
体制を立て直してジャンプしたペギーの指の先を、わずかに越えてボールが飛んでいく。
風で流されて軌道はわずかに右にずれていくけど、それは計算済み。
リングの内側に当たって、ゴールに吸い込まれる。
ペギーは一瞬悔しそうな表情を浮かべるけど、すぐにニヤリと笑う。
テッドが、拾ったゴール後のボールをジャックにパス。
走り込むペギーにパス。
美那がペギーのディフェンスに入る。
俺は仕方なくテッドのディフェンスに回る。
両腕を広げて、ペギーの動きを封じようとする美那。
ペギーはそこですごいドリブル技を見せる。
体の前でバウンドさせて、持ち手を連続的に切り替える技を使うのは俺もできるけど、あんなにワイドにそれをするのは初めて見た。しかもボールのスピードが速い!
美那も幻惑されてしまう。
その隙をついたペギーが動き出し、美那を引き離す。
美那も食らいつこうとするけど、すでにバランスを崩されている。
うまいポジション取りでオツを抑えているジャックをポストにして、再びボールを受けたペギーはゴールに向けてジャンプ。
出遅れた美那も高く飛んで、必死のブロックを試みるけど、身長差がある上に、オーバーヘッドレイアップをされたのでは、まったく届かない。
悔しい表情を浮かべたまま、美那はゴール後のボールをキャッチすると、テッドのディフェンスを振り切った俺にパス。
アークの外に出た俺に、インサイドにいる美那がパスを要求。
美那にはペギーのマークが付いている。
ペギーが簡単にパスを通させてくれるはずはない。
テッドがマークについている俺は2ポイントシュートのフェイントをかけて、ブロックで両腕を上げたテッドの横を、美那から1メートルくらい離れた場所にワンバンの速いパス。
美那はそれをわかってる。
意表を突かれたらしいペギーの動きが一瞬遅れて、美那にパスが通る。
そこからは美那とペギーの1on1対決。
美那は得意のレッグスルーからのロールターン。
俺は美那をサポートすべく、パス可能なゾーンにカットイン。
ただペギーは美那がパスをしないこと読んでいたようで、美那に集中して、動き出しにも遅れず付いてく。
ユーロステップから美那がレイアップシュートに行く。
ややバランスを崩されながらも、ペギーは長い腕を伸ばして、ディフェンス。
美那はカイリーばりのボールの持ち換えで、ペギーの手を避ける。
そのまま、ふわっと柔らかくシュートを放つ。
スッときれいにボールはバスケットの中に落ちていく……。
美那は、前はあんなシュートは打たなかったのにな。
俺の影響か? いや、カイリーだな。
結局ゲームは、21対14で、俺たちの勝ちだったけど、結果はどうでもいいという気にさせられる。
というのも、やつらはバスケットボールをスゲー楽しんでいるから!
俺もたっぷり楽しんだ。美那も同じのはず。この間のサニーサイドとの練習試合の後とはまた違う、気持ち良さそうな表情をしてる。
今まで、試合を英語でゲームっていうのが、いまひとつピンとこなかったけど、体で意味がわかっちゃった感じだ。
「イトゥワズ・ファン! チョー、楽しかった、です」
ペギーが俺とハイタッチした後、美那とハイタッチして、軽くハグして、話しかける。
「わたしもです。アー、アイ、エンジョイド・ザ・ゲーム、ウィズ、ユー!」
それから、俺と美那はルーシーとメアドの交換。
ルーシーによると、ペギーは高校でミネソタ州の代表候補になったこともあるらしい。なるほど本格的なわけだ。大学以後は趣味的にジャックとテッドとチームを組んで3on3をやっていたが、最近になって3x3にシフトしているそうだ。
ジャックとテッドは、父親がバスケ好きで、幼い頃から家にバスケットゴールがあって、それで遊んでいたらしい。アメリカじゃ、家にバスケットゴールがあるのは珍しくないそうだ。
俺たちは、思いもよらぬ充実した気分で、しおかぜ公園を後にした。
帰りは下道の国道16号を横浜方面にひたすら北上する。
道は緩やかにくねりながら、丘をくり抜いた短いトンネルをいくつも抜けていく。
車の中では、オツさんも興奮冷めやらぬという感じだ。
「いや、俺もなんか、のびのびとバスケを楽しめた。2ポイントも10本近く打って、1本しか入らなかったけど、全然、気にならなくて、入るまで打ってやる! って気持ちになちゃったよ」
「ほんと、見事に入らなかったですけど、最後の方は球筋が良くなっていた気がします」
と、美那が微妙なフォローをする。
「確かに、いい感じでしたよ。風がなかったらもう少し入ったかも、って感じですね」
と、俺もフォローを入れておく。
「そうだろ? やっぱりちょっと変なところに力が入っていたんだろうな。部活じゃ、外すと監督にえらい怒られたからな」
「橋詰先生か……ちょっと怒りすぎですよね」
美那が苦笑いする。
「だよな。まあ、あの時は全国も見えてたから、先生も熱くなってたみたいだけどな」
「今でも相変わらずですよ。逆に、女子の相川先生はユル過ぎ。でも逆にその分、自分たちでしっかりやらなきゃって気持ちになりますけど」
「どっちがいいんだろうな。だけど、3x3で自主的に動くことができるようになると、相川先生のユルさがむしろいい方向に効いてくるかもな。橋詰先生だと、なに勝手に動いてるんじゃ! とか怒鳴りそうだからな」
「大会が終わったら、みんなに3x3を練習に取り入れることを提案してみようかな」
「それ、いいんじゃないか? やってみろよ。なんなら、俺が助言してやってもいいぞ」
「そうですか? 先輩が言ってくれれば、女子だけじゃなく、男子も動くかも。あ、そうだ。そういえば昨日、リユが学校に用事があって来て、女子も練習が終わっていたから、体育館で1on1をしてちょっと遊んでたんですよ。そしたら、たまたま学校に来ていた木村主将に見られちゃって……」
「あいつ、なんて言ってた?」
「それがもう、リユのバスケに驚いて、バスケ部に入れようと、お昼ご飯までおごってくれて。ね?」
「逃げるのが大変でしたよ。最終的には花村さんの名前を使わせていただきました」
「俺をどうやって使ったんだ?」
「ただ、花村さんも一緒のチームだって言ったら、それじゃ無理強いはできない、とか言って引き下がってくれました」
「ふ」と、オツさんが軽く笑う。
その笑い方から、仲の良い可愛い後輩という感じが伝わってくる。
「それから、部活外の活動ということについては、部活の練習もちゃんとしてるし、個人の自由だろうということでOKをもらいました」
「そうか。ま、あいつらしいな」
「木村先輩は花村先輩に憧れて入って来たんですよね?」
横浜実山学院は中高一貫校ではあるが、高校からも一定数を外部から入学させている。バスケ部総主将の木村さんもそのひとりだ。
「それはどうだかしらないが、まあ奴は厳しい練習にちゃんと付いて来てくれたよな」
「木村くん、ってわたしも覚えてる。わたしにまで何度も頭を下げて、わたしも恐縮しちゃった。航太さんへの尊敬の気持ちが伝わってきた」と、ナオさん。
「だけど、リユがこのまま伸びて、バスケ部に加入してくれたら、全国もありうるよな」
「いや、俺は部活はやりませんから。あ、そうだ、その理由の一つなんですけど、今、俺、文系コースなんですけど、実は理系の学部に行きたくなっちゃって。たぶん、花村さんが外部受験したって話の影響もちょっとあると思うんですけど」
「どういうことだ?」
オツさんの声が真面目モードに変わった。
「先週、撮影助手のバイトで長野に行って、いろんな建築物を見て、設計とかそういう方向に進みたいと思い始めていて……昨日、担任の谷先生に相談できて、難しいけど推薦も原理的には不可能じゃないということでした。ただ、今までの理系科目の成績を考えると外部受験になる可能性が高そうですけど」
「へえ。長野って、今日の戦術のことを電話で話した時に、松本の女子バスケ部と試合したって、あれか?」
「あ、そうです」
「ねえ、リユくんて、ほんと、おもしろいものを持ってるよね。なんか、出会いの運命を持っているっていうのかな? さっきのペギーたちだって、リユくんから始まったし」
ナオさんが俺の方を振り返って、微笑む。
「エナジー石油のサニーサイドとの練習試合もリユだしね」
「いや、まあそれはよくわかんないけど……で、花村さん、俺に理系科目を教えてくれませんか? あ、いや、家庭教師みたいのじゃなくて、勉強のコツというか、勉強の仕方というか……」
「ああ、いいぞ。俺もいろいろと忙しいから、時間はそう取れないけど……そうだな、勉強の仕方とかなら教えられると思う」
「そうすっか? ありがとうございます。お願いします!」
「おお」
と、男らしく答えるオツさんを、ナオさんが微笑みながら見つめている。航太さん、素敵、優しい! とか思ってんだろうな。というか、そういう風に見つめられているのを意識して、ああいう渋めな答え方をしている気もするが。
「その代わり、といっちゃなんだが、リユ、俺に2ポイントシュートのコーチをしてくれないか?」
「へ?」
「イヤか?」
「イヤじゃないですけど、俺が花村さんに?」
「ああ。だって俺よりずっと上手いじゃないか。というか、Z―Fourで一番、上手いだろう。美那もそう思うだろ?」
「はい。実はわたしも一昨日、サスケコートで、セットシュートのコツを教えてもらいました」
「いや、あれは、お前、ちょっと回転の掛け方の違いを見ただけで……」
「最初は俺もつまらないプライドがあって、動きに関してはともかく、3ポイントシュートと同じ2ポイントシュートをお前に教えてもらうなんて、とか思ったけど、もうお前を初心者とか思ってないし、同等な関係のチームメイトと考えているから」
「さすが、航太さん!」
顔はよく見えないけど、ナオさんの言葉に照れまくってるっぽいオツ。ちゃんと前見て運転しろよ!
「あー、でも、俺は思うんですけど、花村さんは、あとは気持ちの問題だけだと思うんですよ。苦手意識? 今日、練習で花村さんのディフェンスをしていてそう思いました。まあ、もしコツがあるとしたら、ボールの軌道ですかね。たぶん今日は風があったから、弾道が低めになってたとは思うんですけど」
「低いか?」
「そうですね。ちょっと直線的というか」
「そうか。確かにミドルとか打つときは、もう少し緩い放物線だな。それもやっぱり気持ちの問題なのかもな」
「橋詰先生って、部活じゃ、そんなに怒鳴るんすか? 顔は知ってますけど、俺、授業を受けたことないから」
「それは、もう……」と、美那が俺の方を見て、おどけた顔を見せる。「男子バスケ部の練習が隣のコートのときはうるさいし、新入生の女子なんかはビビってるから」
「やっぱ、俺、バスケ部は絶対無理だ」
「かもね」
「フォームとかはどうだ?」
「いや、俺、フォームとかはよくわかんないけど、前の練習試合で2ポイントが入ったときは、基礎のできたすげえキレイなフォームと思いましたけど」
「わたしもそう思います。だから、先輩、今日のゲームで楽しめたんなら、きっと室内でやるときは入りますよ。たぶん軌道が低くなっちゃうのも、入れなきゃ、って思うからじゃないですか?」
「うん。航太さん、わたしもそう思う。だって、あんなに練習してきたし」
「そうか?」
オツもなんかできそうな気になってきたじゃん!
「ところでリユ、2ポイントの放物線は方程式に書いたら、どうなる?」
「へ?」
ジャックとテッドはうまいけど、アスリートのバスケじゃないという感じ。ペギーはたぶん、高校のバスケ部とかで活躍していたに違いない。アメリカの部活の仕組みとかは知らないから、はっきりとは言えないけど。
ペギーとの競り合いは楽しい。
オフェンスで自分がボールを持った時にペギーがディフェンスに来てくれると嬉しいし、逆にペギーに対するディフェンスは美那との取り合い様相を呈している。
例えば、こんな場面。
ジャックがダンク気味に決めたシュート――公園のゴールは固定式でダンク禁止タイプ――のボールを、オツがキャッチ。
俺は、オツからのパスをアークの外で受ける。
ペギーがディフェンスに来る!
ドリブルを開始した俺とペーギが向き合う。
互いの気を読む感じだ。
左に微妙に体重移動しかけるフェイントをかけて、右に動き出す。
ほんの一瞬しか遅れずにペギーが付いてくる。
すぐに右にターンして、さらに左にターン。バイクのスラロームで素早く切り返すイメージだ。回り込む量はスラロームよりずっと大きいけど、体を傾ける感じは同じ。
さすがにペギーも少し離れる。
逆サイドから鋭くカットインしてきた美那にパス。
俺はさらに右に方向転換して、アークの頂点に向かって走る。
美那はシュートに向かうと見せかけて、マークに付いているサラサラ金髪のテッドにフェイントをかけて、俺への早いパスを繰り出す。
ペギーが長い腕を伸ばしてくるけど、届かない。
そして、しっかりとアークのラインを意識して、バックステップからの2ポイントシュートを放つ。
体制を立て直してジャンプしたペギーの指の先を、わずかに越えてボールが飛んでいく。
風で流されて軌道はわずかに右にずれていくけど、それは計算済み。
リングの内側に当たって、ゴールに吸い込まれる。
ペギーは一瞬悔しそうな表情を浮かべるけど、すぐにニヤリと笑う。
テッドが、拾ったゴール後のボールをジャックにパス。
走り込むペギーにパス。
美那がペギーのディフェンスに入る。
俺は仕方なくテッドのディフェンスに回る。
両腕を広げて、ペギーの動きを封じようとする美那。
ペギーはそこですごいドリブル技を見せる。
体の前でバウンドさせて、持ち手を連続的に切り替える技を使うのは俺もできるけど、あんなにワイドにそれをするのは初めて見た。しかもボールのスピードが速い!
美那も幻惑されてしまう。
その隙をついたペギーが動き出し、美那を引き離す。
美那も食らいつこうとするけど、すでにバランスを崩されている。
うまいポジション取りでオツを抑えているジャックをポストにして、再びボールを受けたペギーはゴールに向けてジャンプ。
出遅れた美那も高く飛んで、必死のブロックを試みるけど、身長差がある上に、オーバーヘッドレイアップをされたのでは、まったく届かない。
悔しい表情を浮かべたまま、美那はゴール後のボールをキャッチすると、テッドのディフェンスを振り切った俺にパス。
アークの外に出た俺に、インサイドにいる美那がパスを要求。
美那にはペギーのマークが付いている。
ペギーが簡単にパスを通させてくれるはずはない。
テッドがマークについている俺は2ポイントシュートのフェイントをかけて、ブロックで両腕を上げたテッドの横を、美那から1メートルくらい離れた場所にワンバンの速いパス。
美那はそれをわかってる。
意表を突かれたらしいペギーの動きが一瞬遅れて、美那にパスが通る。
そこからは美那とペギーの1on1対決。
美那は得意のレッグスルーからのロールターン。
俺は美那をサポートすべく、パス可能なゾーンにカットイン。
ただペギーは美那がパスをしないこと読んでいたようで、美那に集中して、動き出しにも遅れず付いてく。
ユーロステップから美那がレイアップシュートに行く。
ややバランスを崩されながらも、ペギーは長い腕を伸ばして、ディフェンス。
美那はカイリーばりのボールの持ち換えで、ペギーの手を避ける。
そのまま、ふわっと柔らかくシュートを放つ。
スッときれいにボールはバスケットの中に落ちていく……。
美那は、前はあんなシュートは打たなかったのにな。
俺の影響か? いや、カイリーだな。
結局ゲームは、21対14で、俺たちの勝ちだったけど、結果はどうでもいいという気にさせられる。
というのも、やつらはバスケットボールをスゲー楽しんでいるから!
俺もたっぷり楽しんだ。美那も同じのはず。この間のサニーサイドとの練習試合の後とはまた違う、気持ち良さそうな表情をしてる。
今まで、試合を英語でゲームっていうのが、いまひとつピンとこなかったけど、体で意味がわかっちゃった感じだ。
「イトゥワズ・ファン! チョー、楽しかった、です」
ペギーが俺とハイタッチした後、美那とハイタッチして、軽くハグして、話しかける。
「わたしもです。アー、アイ、エンジョイド・ザ・ゲーム、ウィズ、ユー!」
それから、俺と美那はルーシーとメアドの交換。
ルーシーによると、ペギーは高校でミネソタ州の代表候補になったこともあるらしい。なるほど本格的なわけだ。大学以後は趣味的にジャックとテッドとチームを組んで3on3をやっていたが、最近になって3x3にシフトしているそうだ。
ジャックとテッドは、父親がバスケ好きで、幼い頃から家にバスケットゴールがあって、それで遊んでいたらしい。アメリカじゃ、家にバスケットゴールがあるのは珍しくないそうだ。
俺たちは、思いもよらぬ充実した気分で、しおかぜ公園を後にした。
帰りは下道の国道16号を横浜方面にひたすら北上する。
道は緩やかにくねりながら、丘をくり抜いた短いトンネルをいくつも抜けていく。
車の中では、オツさんも興奮冷めやらぬという感じだ。
「いや、俺もなんか、のびのびとバスケを楽しめた。2ポイントも10本近く打って、1本しか入らなかったけど、全然、気にならなくて、入るまで打ってやる! って気持ちになちゃったよ」
「ほんと、見事に入らなかったですけど、最後の方は球筋が良くなっていた気がします」
と、美那が微妙なフォローをする。
「確かに、いい感じでしたよ。風がなかったらもう少し入ったかも、って感じですね」
と、俺もフォローを入れておく。
「そうだろ? やっぱりちょっと変なところに力が入っていたんだろうな。部活じゃ、外すと監督にえらい怒られたからな」
「橋詰先生か……ちょっと怒りすぎですよね」
美那が苦笑いする。
「だよな。まあ、あの時は全国も見えてたから、先生も熱くなってたみたいだけどな」
「今でも相変わらずですよ。逆に、女子の相川先生はユル過ぎ。でも逆にその分、自分たちでしっかりやらなきゃって気持ちになりますけど」
「どっちがいいんだろうな。だけど、3x3で自主的に動くことができるようになると、相川先生のユルさがむしろいい方向に効いてくるかもな。橋詰先生だと、なに勝手に動いてるんじゃ! とか怒鳴りそうだからな」
「大会が終わったら、みんなに3x3を練習に取り入れることを提案してみようかな」
「それ、いいんじゃないか? やってみろよ。なんなら、俺が助言してやってもいいぞ」
「そうですか? 先輩が言ってくれれば、女子だけじゃなく、男子も動くかも。あ、そうだ。そういえば昨日、リユが学校に用事があって来て、女子も練習が終わっていたから、体育館で1on1をしてちょっと遊んでたんですよ。そしたら、たまたま学校に来ていた木村主将に見られちゃって……」
「あいつ、なんて言ってた?」
「それがもう、リユのバスケに驚いて、バスケ部に入れようと、お昼ご飯までおごってくれて。ね?」
「逃げるのが大変でしたよ。最終的には花村さんの名前を使わせていただきました」
「俺をどうやって使ったんだ?」
「ただ、花村さんも一緒のチームだって言ったら、それじゃ無理強いはできない、とか言って引き下がってくれました」
「ふ」と、オツさんが軽く笑う。
その笑い方から、仲の良い可愛い後輩という感じが伝わってくる。
「それから、部活外の活動ということについては、部活の練習もちゃんとしてるし、個人の自由だろうということでOKをもらいました」
「そうか。ま、あいつらしいな」
「木村先輩は花村先輩に憧れて入って来たんですよね?」
横浜実山学院は中高一貫校ではあるが、高校からも一定数を外部から入学させている。バスケ部総主将の木村さんもそのひとりだ。
「それはどうだかしらないが、まあ奴は厳しい練習にちゃんと付いて来てくれたよな」
「木村くん、ってわたしも覚えてる。わたしにまで何度も頭を下げて、わたしも恐縮しちゃった。航太さんへの尊敬の気持ちが伝わってきた」と、ナオさん。
「だけど、リユがこのまま伸びて、バスケ部に加入してくれたら、全国もありうるよな」
「いや、俺は部活はやりませんから。あ、そうだ、その理由の一つなんですけど、今、俺、文系コースなんですけど、実は理系の学部に行きたくなっちゃって。たぶん、花村さんが外部受験したって話の影響もちょっとあると思うんですけど」
「どういうことだ?」
オツさんの声が真面目モードに変わった。
「先週、撮影助手のバイトで長野に行って、いろんな建築物を見て、設計とかそういう方向に進みたいと思い始めていて……昨日、担任の谷先生に相談できて、難しいけど推薦も原理的には不可能じゃないということでした。ただ、今までの理系科目の成績を考えると外部受験になる可能性が高そうですけど」
「へえ。長野って、今日の戦術のことを電話で話した時に、松本の女子バスケ部と試合したって、あれか?」
「あ、そうです」
「ねえ、リユくんて、ほんと、おもしろいものを持ってるよね。なんか、出会いの運命を持っているっていうのかな? さっきのペギーたちだって、リユくんから始まったし」
ナオさんが俺の方を振り返って、微笑む。
「エナジー石油のサニーサイドとの練習試合もリユだしね」
「いや、まあそれはよくわかんないけど……で、花村さん、俺に理系科目を教えてくれませんか? あ、いや、家庭教師みたいのじゃなくて、勉強のコツというか、勉強の仕方というか……」
「ああ、いいぞ。俺もいろいろと忙しいから、時間はそう取れないけど……そうだな、勉強の仕方とかなら教えられると思う」
「そうすっか? ありがとうございます。お願いします!」
「おお」
と、男らしく答えるオツさんを、ナオさんが微笑みながら見つめている。航太さん、素敵、優しい! とか思ってんだろうな。というか、そういう風に見つめられているのを意識して、ああいう渋めな答え方をしている気もするが。
「その代わり、といっちゃなんだが、リユ、俺に2ポイントシュートのコーチをしてくれないか?」
「へ?」
「イヤか?」
「イヤじゃないですけど、俺が花村さんに?」
「ああ。だって俺よりずっと上手いじゃないか。というか、Z―Fourで一番、上手いだろう。美那もそう思うだろ?」
「はい。実はわたしも一昨日、サスケコートで、セットシュートのコツを教えてもらいました」
「いや、あれは、お前、ちょっと回転の掛け方の違いを見ただけで……」
「最初は俺もつまらないプライドがあって、動きに関してはともかく、3ポイントシュートと同じ2ポイントシュートをお前に教えてもらうなんて、とか思ったけど、もうお前を初心者とか思ってないし、同等な関係のチームメイトと考えているから」
「さすが、航太さん!」
顔はよく見えないけど、ナオさんの言葉に照れまくってるっぽいオツ。ちゃんと前見て運転しろよ!
「あー、でも、俺は思うんですけど、花村さんは、あとは気持ちの問題だけだと思うんですよ。苦手意識? 今日、練習で花村さんのディフェンスをしていてそう思いました。まあ、もしコツがあるとしたら、ボールの軌道ですかね。たぶん今日は風があったから、弾道が低めになってたとは思うんですけど」
「低いか?」
「そうですね。ちょっと直線的というか」
「そうか。確かにミドルとか打つときは、もう少し緩い放物線だな。それもやっぱり気持ちの問題なのかもな」
「橋詰先生って、部活じゃ、そんなに怒鳴るんすか? 顔は知ってますけど、俺、授業を受けたことないから」
「それは、もう……」と、美那が俺の方を見て、おどけた顔を見せる。「男子バスケ部の練習が隣のコートのときはうるさいし、新入生の女子なんかはビビってるから」
「やっぱ、俺、バスケ部は絶対無理だ」
「かもね」
「フォームとかはどうだ?」
「いや、俺、フォームとかはよくわかんないけど、前の練習試合で2ポイントが入ったときは、基礎のできたすげえキレイなフォームと思いましたけど」
「わたしもそう思います。だから、先輩、今日のゲームで楽しめたんなら、きっと室内でやるときは入りますよ。たぶん軌道が低くなっちゃうのも、入れなきゃ、って思うからじゃないですか?」
「うん。航太さん、わたしもそう思う。だって、あんなに練習してきたし」
「そうか?」
オツもなんかできそうな気になってきたじゃん!
「ところでリユ、2ポイントの放物線は方程式に書いたら、どうなる?」
「へ?」
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