転生先は猫でした。

秋山龍央

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治療

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「なぁ……その、本当にやるのか?」

ベッドに仰向けに寝転びながら、ターコイズブルーの瞳を揺らして不安そうに見上げるロディ。
けれど、その言葉も視線も逆効果だった。むしろおれの胸の内からますます意欲が湧いてくるばかりだ。

「当たり前だろ。ここまで来て何をいまさら」

いや、ここまで来ても何も、リビングから寝室に場所を移しただけなんだけどね! 幸い、ロディからそういうツッコミが入ることはなかった。彼は緊張と羞恥のため、それどころではないらしい。
そう。おれとロディは今、寝室のベッドの上にいる。仰向けに寝転んだロディの俺がのしかかっている態勢だ。

ちなみに、おれがこの家で眠る時には、猫の姿で、ロディが設置してくれたリビングの隅の木箱の中で、毛布にくるまって眠っている。
というのも、この家は単身用の借家なので、寝室は一つしかなく、またベッドも一つしかないからだ。だから、この部屋のベッドを使うのはいつもロディだけだ。
だからだろうか。ロディのベッドにいるということ自体が、ロディの心の内に招いてもらったような心地がして、おれの気分はひどく高揚していた。

「大丈夫だって、ロディ。痛いことなんて何もしないから、おれを信じて」
「……だが、やはりクロにそこまでしてもらうわけには……そもそも君は同性相手でも平気なのか?」
「おれはバイだから。あ、ロディはどうなの?」

そういや、この世界の同性恋愛とかジェンダー的な部分ってどうなってるんだろう。
通りを歩いたり、冒険者ギルドでの様子を見た感じ、男女のカップルは何組かいた。男同士や女同士で歩いている人たちもいたけど、彼らが恋人同士だったのかまでは分からない。

「俺は、特に同性婚に偏見を持っているわけではない。前の都市では仲間の一人も、よく男娼のいる娼館に行っていたし……」
「ロディは行かなかったんだ?」

密着した身体から、ロディの身体のあたたかさを感じる。
おれは会話を続けながら、するりとロディの身体にシャツ越しに手を滑らせた。そして、一つずつゆっくりとシャツのボタンを外していく。
ロディはぴくりと身じろぎしたものの、抵抗するそぶりはなく、一時の間をおいておれの質問に答えた。

「お、俺は……特に考えたことがなかった。その男娼のいる娼館に行かなかったのも、ただ単純に誘われなかったからだ。誘われていたら、行っていたと思う」
「嫌じゃないなら良かった。でも、途中で嫌な気分になったり、やめて欲しい時には言ってくれよな」

ほっとする。
この世界では特に、同性間での恋愛や好意はタブーではないようだ。ロディの話し方からして、「禁忌ではないが少数派」ぐらいの位置なんだろうか。
そんなことを考えていたら、ロディがふっと自嘲するように顔を歪めた。

「……君の言う通りだな」
「うん?」
「さっき、俺のことを『自分を生きていない』って言っただろう? 最初は、何を言われているのか分からなかったが……こうして考えてみると、本当にそうだ」
「ロディ……?」
「仲間の職種の兼ね合いでシールダーを目指した。仲間に誘われなかったから娼館に行かなかった。ヒーラーの彼女の告白を最初に断ったのも、仲間との軋轢を気にしたからだ。そんな理由で断るなら、初めから諦めておけば良かったのにな。そのくせ、彼女の押しに負けて付き合いを承諾した結果がこれだ」

ロディは自分の片腕で目元を覆い隠す。そして、震える声で続けた。

「こうして考えてみると、俺は本当に、自分の意志で選んだことなぞ何一つなかった……。こんな俺が、彼女からも仲間から呆れられて遠ざけられるのは当たり前だ。自分の愚かさにすら気づかないなんて、本当に俺は馬鹿だ」
「ロディ、そこまでだ」

おれは顔を隠していたロディの腕をとると、眦から零れそうになっていた涙をぺろりと舌先で舐め取った。
途端に、ロディがびっくりした顔でおれを見る。
お、その顔すごく可愛いな。

「ク、クロ?」
「あまり考えすぎるなって言ったろ、もう。おれのご主人様は本当に煮え切らないなぁ」
「す、すまない……?」

わけも分からずと言った様子でおずおずと謝るロディ。
その顔がますますかわいくて、おれはくすりと笑みが溢れる。

「謝らなくてもいいよ。ロディのそういう所がおれは好きだから」
「っ、クロ……」
「ほら、腕上げて。シャツ、脱がせるからさ」

おれはロディの腕からシャツを脱がせると、ロディは完全に上半身裸の状態になった。
こうなると、おれが服を着ている状態ではロディが恥ずかしいだろうと思い、おれも自分のシャツを脱ぐ。脱いだ二人分のシャツは、まとめて床の上へと放った。

シャツを脱いで上半身をあらわにしたロディの身体は、筋肉のついたしなやかな身体つきで、腹筋も綺麗に割れている。だが、この三ヶ月の間、冒険者としての仕事をしていなかったためか、二の腕などは柔らかさが際立つ。
それでも充分、おれの身体つきと比べれば逞しいと言っていいだろう。少し、自分のシャツを脱いでしまったことを後悔した。

「ロディの身体はきれいだな。やっぱり冒険者ともなると、皆こう?」
「き、きれいではないだろう。俺の身体など、傷や痣が目立つだけだ」

腹筋から臍のラインをゆっくりとなぞるようにして、ロディの身体に掌を這わせる。
確かに、ロディの腹部や胸には大小の傷跡が目立つ。だが、それもまた歴戦の勇者という風格を漂わせていて、男前度を上げていると思う。

「……きれいというなら、クロの身体の方がきれいだ」
「え、おれ?」

おれの身体なんて、まぁ少しは鍛えているものの、ロディと比べたら雲泥の差、月とスッポンだと思うんだけど。

「クロの身体は傷跡もないし、俺たち冒険者みたいな無駄な筋肉がなくてきれいだ。同性愛は貴族の嗜みと聞いたことがあるし……やはり君は、元は身分の高い生まれだったんじゃないのか?」
「んー……身分が高いと言われたら、確かにこっちの基準ではそうなのかな」

 日本での暮らしは、元の世界でもかなりの高水準だと聞いたことがある。なら、こちらの世界の暮らしと比較すれば、かなりの貴族的生活と言っても過言ではないとは思う。
 おれがそんな風な答えを返すと、ロディは「やはり……」と何かを合点したように一人頷いていた。

なにがやはりなのかは分かんないけど、ロディが納得できたのなら良かったね!

 ということで、おれはロディが一人頷いている隙に、下肢にも手を伸ばす。
ロディは部屋着を着ていたので、ズボンはボタンなどで留めるタイプではなく、腰紐で留めるタイプのものだ。だから、紐に指をかけてしゅるりと解いてしまえば、あとはあっという間だった。

「ぁ……ッ! ク、クロ……」
「いやになったか?」

ロディの下肢を包んでいたズボンを下着ごとずり下げ、そこをあらわにする。
だが、すぐにそこへ触れるような真似はしない。密着している身体から、ロディがまだ緊張して力が抜けきれてないのが伝わってきていた。

「ロディがいやなら、すぐにやめるぞ?」
「ぅ……」

おれはよしよしとロディの柔らかな金髪をなでつつ、首筋に顔を埋めて、そっと耳元で囁く。
ロディは逡巡し、少しの間押し黙ったものの、しばらくしてから口を開いた。

「い……いやじゃない」
「それならよかった」
「ただ、その……やっぱり恥ずかしくて。俺よりも年下だろう君に、こんな真似をさせるのが……」
「そういやロディって今いくつなの?」
「今年、二十五だ」
「つまり三歳差かー。いいね、最高じゃん」

 俺が今まで出会った歳上の人って、どっちかって言うとおれを甘やかしてくれるタイプの人達ばっかりだったから、こんな風に甘えさせる立場になったのは初めてだ。歳上の人を甘やかすとか、超新鮮だし、すごく楽しい。
こんな風にわくわくして、こんなにも優しくしたいと思ったのは、前世でも今世でもロディだけだ。

そんな歳上のお兄さんであるロディから許可も頂けたことなので、おれはさっそく、ロディの下肢に手を伸ばした。
身体をずらしてロディの足の間に入り込み、股間部分を見やすいように、片足だけ膝を折らせる。
 確かにロディの陰茎は、ぴくりとも反応していなかった。だらりと頭を垂らしている。

「ぁ、クロっ……この体勢は、その、さすがにっ……!」

羞恥の余り、ロディが涙目になっておれを見つめてくる。
おれはロディを安心させるように微笑むと、目の前にある膝頭にちゅっと音を立てて口づけた。

「ちょっと恥ずかしいかもしれないけど、我慢しててくれよ。その分、気持ちよくできるようにおれも頑張るから」
「えっ……あ、ちょっ、クロッ!」

蟻の戸渡りの部分をくすぐるように触れ、そのまま後孔を指先でつつくように触る。すると、ロディが愕然とした表情になった。

「ク、クロっ。君は、どこを触って……!?」
「あれ。こっちの娼館って性感マッサージとかやらない感じ?」
「せ、せいかんまっさーじ?」

 いったんロディの後孔から手を離すと、おれは人差し指と中指を咥え、たっぷりと唾液をまぶす。すると、そんなおれの口元をロディが注視しながら、ごくりと唾を飲み込んだ。
好感触を覚えたおれは、今度はわざとロディに見せつけるようにして、指に舌を這わせてみる。ロディはますます顔を真っ赤にさせているものの、おれの舌から目を離せない様子だ。

「大丈夫だから、おれに任せて」
「ク、クロ……ひゃっ!?」

にっこりと笑いながらロディの頬にそっと口づける。それと同時に、まず人差し指をロディの後孔に埋めた。
わずかでも痛みを与えたくはなかったので、まずは第一関節までに留める。

「どうかな? ロディ、痛い?」
「っ……い、痛くはない。すこし、違和感はあるが……」

 戸惑ったように視線をさ迷わせ、両手でシーツを握りしめているロディ。おれは空いている左手をロディに伸ばすと、彼の右手に指を絡めた。指の腹で優しく撫でてやると、ロディもおずおずとおれの指にぎゅっと自分の指を絡ませてくる。
……っ、ちょっと、これはおれの方がやばいなぁ……。

「クロ?」
「ああ、大丈夫。ごめんね」

湧き上がってきた自分自身の欲望に蓋をしていると、ロディが心配そうにおれを見つめてきた。
いけないいけない。おれの理性よ、今日はフル稼働で頑張るのだ。
しかし、これは本当に蛇の生殺しだぜ。……おれの場合だと、猫の生殺しと言うんだろうか?

「痛かったり、いやになったら、いつでも言って」
「……分かった」

こちらの手をぎゅっと握り返し、こくりと頷くロディ。
おれは再び理性をフル稼働させて、人差し指をつぷつぷと後孔へと埋めていった。

「っ……!」

びくりと身体を震わせるロディ。
だが、熱い吐息を零している様子からして、痛みは感じていないようだ。これは幸先がいい。
おれは人差し指をゆっくりと抜き差しさせる。そして、そこが慣れてきた頃合いを見計らって、今度は中指と人差し指の二本をゆっくりと埋めた。

「っ、クロっ……」

 ロディが不安そうにターコイズブルーの瞳を揺らしておれを見る。おれは顔を寄せて、ロディの額や頬、顎先にキスの雨を降らせた。

 二本指を埋めてもロディのそこは痛みは感じていないようなので、ゆっくりと抽送を開始する。
指を抜き差ししながら、指の腹で胎内を探るように擦る。

「ひゃッ!?」

 ある一点の箇所に触れた瞬間、ロディがびくりと身体を跳ねさせて甲高い声をあげた。
我に返ったロディは、困惑したようにおれを見てくる。自分のあげた声が信じられない、何が起きたのか分からないといった顔だ。
そんなロディに対し、思わずおれはチェシャ猫みたいなにんまり笑いを浮かべた。

「ロディのイイ所、ここなんだ。やっと見つけた」
「あっ、待て、クロっ……! な、なんかおかしっ……ァ、あぁッ!?」
「ここは前立腺って言うんだよ。知ってる?」
「し、知らなっ……っあ、んぁッ!」

胎内のしこりをコリコリと二本の指で揉み込む度、ロディの身体が打ち上げられた魚みたいにビクビクと跳ねる。
それと同様に、ロディの陰茎もわずかに頭をもたげていた。やはり完全な勃起には至れないようだが、その先端からは透明な先走りをだらだらと零している。

「ちょっと勃ってきたぞ、ロディ。良かったな」
「ク、クロっ! ッ、これ、おかしくなるッ……ひぁッ!?」

くるくると円を描くように指で中を掻き混ぜて、前立腺を刺激する。
ロディの陰茎から溢れる先走りは非常に量が多く、後孔に埋めているおれの手をしとどに濡らした。その先走りを潤滑剤にして、二本指の抽送をいっそう激しくさせる。

「クロっ、クロ……っ! お、俺、もうっ……!」

繋いだ指が、すがるように力が込めてくる。
ふむ。これ以上はもう限界そうだな。まぁ、ロディの陰茎もわずかながらに勃起してきたし、今日のところはもういいだろう。そろそろイかせてあげよう。

「ぁ、あッ! んっ、ふぅッ……!」

ぐちゅぐちゅと濡れた水音が部屋に響いている。
おれは中に埋めた二本の指先で、ごりゅっと胎内のしこりを押し潰した。
瞬間、おれの指をきゅうううっと内壁が締め付ける。まるで、ロディの後孔全体がおれの指に吸い付いてくるかのようだった。

「っんあッ、あっ、ぁ――ッ!」

それと同時に、ロディはがくがくと腰を揺らし、わずかに頭をもたげさせた陰茎からどぷどぷと白濁した蜜を吐き出す。
完全な勃起には至っていなかったものの、射精にはあまり勢いはなかった。だが、量がすごかった。
男の射精とは本来なら一瞬で終わるものだが、ロディの陰茎は数秒以上に渡って白濁液を吐き出し続けた。そのため、シーツはまるでお漏らしをしたかのようにぐっしょりと濡れてしまった。

「ずいぶん溜まってたね、ロディ」
「ぁ……?」

はぁはぁと荒い息をこぼすロディは、おれの言葉の意味を理解できていないようだった。
茫洋としたターコイズブルーの瞳がおれをぼんやりと見つめ返す。おれはロディと繋いでいた手を離すと、その頬の輪郭をなぞるようにして、優しく撫でた。

「クロ……?」
「眠っていいよ。後始末はおれがやっておくから安心して、ロディ」
「……うん」

 幼子みたいに頷いたロディは、そのままゆっくりと瞼を閉じた。
恐らくは、先程の精液の量からして、久しぶりの射精だったんじゃないだろうか。この都市に来たのが三ヶ月前で、その直後に娼館に行っても勃起しなかったと言っていたから、おおよそ三ヶ月の間、まともな射精が出来ていなかったのだろう。男の身体のメカニズム上、夢精くらいはしていたかもしれないが。

「おやすみ、ご主人様」

瞼を閉じて寝息をこぼし始めたロディに顔を寄せ、その唇にゆっくりと自分の唇を押し当てる。先程からずっとずっと我慢していた、唇へのキス。
これは治療行為で、気持ちを通じ合わせた行為じゃない。だから、唇へのキスは我慢するつもりだったけれど。

「……手を出すのは我慢したんだし、おれにもこれぐらいのご褒美があってもいいよな?」

ほら。ペットに餌をあげるのはご主人様のお役目ということで、ここは一つ大目に見てください。
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