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仕事
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そうして、おれがロディの四つ足の同居人となってから、一週間が経過した。
先日、冒険者ギルドを訪れた際に、「ロディに仲間が出来たら、おれも彼らに自分の正体を明かした方がいいんだろうか……?」とかシリアスちっくに悩んでしまったが、目下、その件は放っておいてもよさそうだということが判明した。
それがどういうことかと言うと――ロディに冒険者の仲間ができる様子が一向にないからである。
というか、冒険者仲間ができるとかできないとか、それどころじゃなかった。この一週間というもの……ロディは家と冒険者ギルドの往復に、その途中で食料品店やパン屋、酒屋で食料や酒を買い込むくらいの外出しかしていない。
おれも冒険者ギルドへ行く際には一緒に連れて行ってもらっているから、それ以外の場所に行っていないのは断言できる。なお、もちろんおれがロディと一緒に外出する際には真っ黒なネコの姿である。
ちなみに、ロディがおれを一緒に連れて行ってくれる理由は「ずっと家の中にいても気詰まりだろう」「もしかすると冒険者ギルドで、君の獣化の呪いについてなにか話が分かるかもしれない。もしもそういう話をしているやつがいたら俺に言え」ということだ。
……前々から思ってたけど、おれのご主人様、ちょっと人が良すぎない?
で、だ。つまりは何が言いたいかというと――この一週間、ロディはまったく仕事をしていないのである。
最初は「長期休暇中なんだろうか?」と思っていたものの、冒険者ギルドに張ってある掲示板を見てため息をつくロディや、先日と同じ冒険者ギルドの奥部屋の受付に行って事務員さんとやり取りをして、鬱陶しそうにあしらわれるロディを見ていたら、さすがのおれでも、これは何かおかしいと気がついた。
……というか、この状況はあれだ。
もはや、答えは一択しかない。
その確証を裏付けるために、おれは心を鬼にしてロディにきちんと聞いてみなければいけない。
……本来なら、こういうことを面と向かって聞くのは失礼かもしれないけれど……おれはロディに拾われた恩返しをしようと決めているのだ。
ロディは今、明らかに悩みを抱えて、問題に直面している。
こんなおれでも、理由を聞かせてもらえれば何かしらの役には立てるかもしれない。
「なぁ、ロディ」
「うん?」
窓から見える空には、今日も今日とて、金貨のような月が二つ空に浮かんでいる。今夜は、片方は上弦の月、片方は下弦の月だった。
夕飯を食べ終わり、食器の洗い物を済ませたおれは、酒瓶を空けようとしていたロディに待ったをかけるようにして話を切り出した。
あ、もちろん人間の姿である。猫の手も借りたいということわざはあるけれど、せっかくなら人間の姿で洗い物をした方が早いだろう。ちゃんと服も来ているぞ、ロディのお下がりだけどね!
話を切り出すのに、この時間を選んだ理由は、夕飯で腹がふくれた今なら、ある程度ロディもリラックスしているだろうと判断したからだ。重要は話を切り出すのなら、飯時の後というおれの習慣は、前世からずっと変わらない。
おれはロディの正面に座ると、さりげなく机の上にあった酒瓶や木製のコップを片付けた。
……今夜、改まって話をしようと決めたのはこれが理由でもある。
ここ三日ほど、ロディは夕飯の後には必ずと言っていいほど酒瓶を一瓶空けてしまうのだ。幸い、二日酔いはしない体質みたいだけれど、はっきり言って飲みすぎだ。
そういえば、この家に来た時も洗い場には酒瓶がゴロゴロ転がっていたっけ。あれはおれが片付けたが、もしかしておれがこの家に同居する前までは、ずっとこんな調子で飲み続けていたのだろうか? なんにせよ、あまりいい飲み方じゃない。
「なぁ、ロディ。おれは飼い猫の身だから、あまり口うるさいことは言いたくないんだけどさ」
「……はぁ。分かってる。さすがに、一週間も経てば分かるよな」
おれが話を切り出すと、驚いたことに、ロディもこれから始める話について覚悟を決めていたようだった。
「……クロが言いたいことは分かってるよ。なぜ冒険者ギルドでパーティーメンバーが集まらないか、もしくはパーティーに入らないか、だろう?」
「……んん? いや、なんか微妙に違うな。おれが聞きたいのは、ロディは今は仕事はしなくていいのかとか、そういう話なんだけど」
「うん……? ああ、パーティーメンバーがいないなら、冒険者ギルド以外の仕事はしないのかということか? おれは生まれた農村を出てからずっと幼馴染と一緒に冒険者としてしか働いたことがなくてな……金勘定も工事も恥ずかしながらやったことがないのだ」
んんん?
なんだか話がまた微妙に違うな……。
おれが聞きたいのは「ロディってもしかして無職だったりする?」ってことなんだけど。
でも、ロディはおれが聞きたいことは「冒険者ギルドでパーティーが組めないのはどうしてか?」ということだと思っていた。
これらを総合して考えると……「ロディは冒険者」で、でも「パーティーが組めなければ冒険者の仕事はできない」。だから、現在のロディは無職。だからロディは、おれが聞きたいことが「ロディがどうしてパーティーが組めないのか?」ということになると思っていた……ということか?
「あー、ごめんロディ。おれ、冒険者の人たちの常識とか、そういう知識があまりなくてさ。ロディが冒険者ギルドでパーティーを組めないのって、何か問題なのか?」
「なに? そんなことまで忘れたのか?」
「い、いやぁ……おれ、もともと冒険者の人にはあまり関わったことがなくてさ。猫の姿での森暮らしが長ったのもあると思うけど」
「……それが本当なら、君はかなりの箱入り息子だったんだな。もしかして貴族の息子だったのか?」
「そんなにいいものじゃなかったけどさ」
おれがはははと笑って誤魔化すと、ロディは疑わしそうにおれを見たものの、それ以上何かを突っ込んでくることはなかった。
「……どこまでの知識があるか分からないから、始めから説明するぞ。まず、冒険者になるには、冒険者ギルドでの試験を受けて、これに合格したものがなれる。その後は冒険者ギルドでギルドカードを製作、登録する。このギルドカードには魔力紋が登録されているから、本人以外の人間には扱えない」
ギルドカード……ああ、ロディがおれの従魔登録の時に出した、あのカードか。
「冒険者の仕事は、主にモンスター退治、モンスターの素材回収依頼、そして森や山でのモンスター生息地域での素材回収が主で、それらは冒険者ギルドを介して仕事を受けることになる。依頼人との直接のやり取りは罰則の対象になる。また、これらの仕事は冒険者ギルドに登録している人間、三人以上でパーティーを組まなければ受けられない」
「なんで三人なんだ?」
「昔は人数制限などはなかったようだが、その当時は非常に冒険者の未帰還率が多かったんだ。この人数制限を設けてから、冒険者の帰還率は上がったと聞いている」
ああ、安全性のためなのか。
確かにソロよりは、三人以上の人間がいた方がモンスターとの戦いの際にもずっと勝率が上がるし、何かトラブルがあっても三人ならお互いをフォローしあえるだろう。
つまり――ロディは冒険者だ。
けれど、冒険者の仕事を受けるためには、三人以上からなるパーティーを作る、もしくは入らなければいけない。ということだ。
「だからずっと、ここ最近冒険者ギルドの掲示板見たり、受付に行ったりしてたのか」
「ああ」
でも……それだと、まだ疑問は残る。
初めて冒険者ギルドを訪れてから今日に到るまで、ロディの様子や、受付での事務員さんとの会話を聞く限り、ロディがお願いしている「パーティーメンバー募集」または「パーティー加入の希望」の依頼書をいうのが、どうも冒険者ギルドの掲示板に張り出されていないようなのだ。
パーティーを組まないと仕事ができないのに、ロディは今パーティーメンバーがいない。
でも、初めからこういうわけじゃなかったはずだ。
「……俺はもともと別の街でパーティーを組んで活動していたんだ。それが、ある事情でパーティーを離脱することになって、三ヶ月前くらいにこの都市にきた」
「三ヶ月……その間、パーティーメンバーは見つからなかったのか?」
「ああ。俺はこの都市に伝手もないし、知り合いもいない。口利きをしてくれる人もいなかったし……俺の依頼した募集依頼は一度も張り出されていないからな」
「え、じゃあ」
「……ああ。情けない話だが、この三ヶ月、俺は一度も仕事をしていないってわけだ」
ロディは自嘲するように笑うと、おれが彼から遠ざけた酒瓶にちらりと視線をやった。
でも、そんな話を聞いた以上、なおさらここで酒瓶を明け渡すわけにはいかない。
「なぁ、俺の話はしたんだし、もういいだろう?」
おれが咎めるような顔をしたのが分かったのか、ロディはすねたようにそう言った。
でも、そんな可愛い言い方をしてもダメなものはダメだ。
楽しいお酒ならいいけどさ、ロディのお酒の飲み方は明らかにそうじゃない。前世でのおれの友人が、彼女に振られた夜に浴びるように酒を飲んでいたのを思い出す。あんな感じの、明らかにやけ酒の飲み方なのだ。
嫌なことを忘れるために呑むお酒は、時には、ありっちゃありだけどさ。でも、ロディの飲み方は明らかに行き過ぎだ。
「まだダメだ。肝心なことを話してないだろ? なんでパーティーメンバーが冒険者ギルドで募集できないんだ? それに、今まで組んでいた人たちとはどうして別れることになったんだ」
「クロは詮索がしたいのか?」
「詮索じゃないよ。ただ、ロディが心配なんだ」
「…………っ」
おれがそう言うと、ロディは何事かを反論しようとしたものの、それを言葉にする前に唇を噛んでうつむいてしまった。
……うーん、どうしよう。
ロディはうつむいた顔をあげようとしない。でも、このリビングから出て寝室に行こうとしないあたり、話を続けたい気持ちはあるのだろう。
たぶん、自分でも今の状況がよくないことはロディ自身が一番分かっているのだ。
だからこの場に留まっているということは、彼の中に「誰かに思いや悩みを打ち明けたい、話を聞いて欲しい」という気持ちがあるということだ。
でも、おそらくそれができないのは、ロディのプライドの問題なんだろう。今までの冒険者ギルドや外でのロディの人となりを見る限り、ロディはけっこう人見知りが激しい方だ。
いや、違うか。人見知りが激しいと言うか、人馴れしてない、という言い方が近いだろうか。もしかすると、幼い頃から今までずっと、馴染みの連中とつるんできたために、新しい人間関係を作ったことがないのかもしれない。
また――それに加えて、パーティー離脱に際して起きた、おそらくはロディの元のパーティーメンバーとのトラブル……それのせいで、ロディの中に人間不信の気持ちが根付いているのかもしれない。軽度のPTSDというわけだ。
だから、一週間暮らしてきたとはいえ、おれという他人に対して自分の過去の話を打ち明けることに、ロディの心の中ではものすごく葛藤があるのに違いない。
……ふむ。
となればここはやはり――ロディの可愛い飼い猫の出番というわけだな!
先日、冒険者ギルドを訪れた際に、「ロディに仲間が出来たら、おれも彼らに自分の正体を明かした方がいいんだろうか……?」とかシリアスちっくに悩んでしまったが、目下、その件は放っておいてもよさそうだということが判明した。
それがどういうことかと言うと――ロディに冒険者の仲間ができる様子が一向にないからである。
というか、冒険者仲間ができるとかできないとか、それどころじゃなかった。この一週間というもの……ロディは家と冒険者ギルドの往復に、その途中で食料品店やパン屋、酒屋で食料や酒を買い込むくらいの外出しかしていない。
おれも冒険者ギルドへ行く際には一緒に連れて行ってもらっているから、それ以外の場所に行っていないのは断言できる。なお、もちろんおれがロディと一緒に外出する際には真っ黒なネコの姿である。
ちなみに、ロディがおれを一緒に連れて行ってくれる理由は「ずっと家の中にいても気詰まりだろう」「もしかすると冒険者ギルドで、君の獣化の呪いについてなにか話が分かるかもしれない。もしもそういう話をしているやつがいたら俺に言え」ということだ。
……前々から思ってたけど、おれのご主人様、ちょっと人が良すぎない?
で、だ。つまりは何が言いたいかというと――この一週間、ロディはまったく仕事をしていないのである。
最初は「長期休暇中なんだろうか?」と思っていたものの、冒険者ギルドに張ってある掲示板を見てため息をつくロディや、先日と同じ冒険者ギルドの奥部屋の受付に行って事務員さんとやり取りをして、鬱陶しそうにあしらわれるロディを見ていたら、さすがのおれでも、これは何かおかしいと気がついた。
……というか、この状況はあれだ。
もはや、答えは一択しかない。
その確証を裏付けるために、おれは心を鬼にしてロディにきちんと聞いてみなければいけない。
……本来なら、こういうことを面と向かって聞くのは失礼かもしれないけれど……おれはロディに拾われた恩返しをしようと決めているのだ。
ロディは今、明らかに悩みを抱えて、問題に直面している。
こんなおれでも、理由を聞かせてもらえれば何かしらの役には立てるかもしれない。
「なぁ、ロディ」
「うん?」
窓から見える空には、今日も今日とて、金貨のような月が二つ空に浮かんでいる。今夜は、片方は上弦の月、片方は下弦の月だった。
夕飯を食べ終わり、食器の洗い物を済ませたおれは、酒瓶を空けようとしていたロディに待ったをかけるようにして話を切り出した。
あ、もちろん人間の姿である。猫の手も借りたいということわざはあるけれど、せっかくなら人間の姿で洗い物をした方が早いだろう。ちゃんと服も来ているぞ、ロディのお下がりだけどね!
話を切り出すのに、この時間を選んだ理由は、夕飯で腹がふくれた今なら、ある程度ロディもリラックスしているだろうと判断したからだ。重要は話を切り出すのなら、飯時の後というおれの習慣は、前世からずっと変わらない。
おれはロディの正面に座ると、さりげなく机の上にあった酒瓶や木製のコップを片付けた。
……今夜、改まって話をしようと決めたのはこれが理由でもある。
ここ三日ほど、ロディは夕飯の後には必ずと言っていいほど酒瓶を一瓶空けてしまうのだ。幸い、二日酔いはしない体質みたいだけれど、はっきり言って飲みすぎだ。
そういえば、この家に来た時も洗い場には酒瓶がゴロゴロ転がっていたっけ。あれはおれが片付けたが、もしかしておれがこの家に同居する前までは、ずっとこんな調子で飲み続けていたのだろうか? なんにせよ、あまりいい飲み方じゃない。
「なぁ、ロディ。おれは飼い猫の身だから、あまり口うるさいことは言いたくないんだけどさ」
「……はぁ。分かってる。さすがに、一週間も経てば分かるよな」
おれが話を切り出すと、驚いたことに、ロディもこれから始める話について覚悟を決めていたようだった。
「……クロが言いたいことは分かってるよ。なぜ冒険者ギルドでパーティーメンバーが集まらないか、もしくはパーティーに入らないか、だろう?」
「……んん? いや、なんか微妙に違うな。おれが聞きたいのは、ロディは今は仕事はしなくていいのかとか、そういう話なんだけど」
「うん……? ああ、パーティーメンバーがいないなら、冒険者ギルド以外の仕事はしないのかということか? おれは生まれた農村を出てからずっと幼馴染と一緒に冒険者としてしか働いたことがなくてな……金勘定も工事も恥ずかしながらやったことがないのだ」
んんん?
なんだか話がまた微妙に違うな……。
おれが聞きたいのは「ロディってもしかして無職だったりする?」ってことなんだけど。
でも、ロディはおれが聞きたいことは「冒険者ギルドでパーティーが組めないのはどうしてか?」ということだと思っていた。
これらを総合して考えると……「ロディは冒険者」で、でも「パーティーが組めなければ冒険者の仕事はできない」。だから、現在のロディは無職。だからロディは、おれが聞きたいことが「ロディがどうしてパーティーが組めないのか?」ということになると思っていた……ということか?
「あー、ごめんロディ。おれ、冒険者の人たちの常識とか、そういう知識があまりなくてさ。ロディが冒険者ギルドでパーティーを組めないのって、何か問題なのか?」
「なに? そんなことまで忘れたのか?」
「い、いやぁ……おれ、もともと冒険者の人にはあまり関わったことがなくてさ。猫の姿での森暮らしが長ったのもあると思うけど」
「……それが本当なら、君はかなりの箱入り息子だったんだな。もしかして貴族の息子だったのか?」
「そんなにいいものじゃなかったけどさ」
おれがはははと笑って誤魔化すと、ロディは疑わしそうにおれを見たものの、それ以上何かを突っ込んでくることはなかった。
「……どこまでの知識があるか分からないから、始めから説明するぞ。まず、冒険者になるには、冒険者ギルドでの試験を受けて、これに合格したものがなれる。その後は冒険者ギルドでギルドカードを製作、登録する。このギルドカードには魔力紋が登録されているから、本人以外の人間には扱えない」
ギルドカード……ああ、ロディがおれの従魔登録の時に出した、あのカードか。
「冒険者の仕事は、主にモンスター退治、モンスターの素材回収依頼、そして森や山でのモンスター生息地域での素材回収が主で、それらは冒険者ギルドを介して仕事を受けることになる。依頼人との直接のやり取りは罰則の対象になる。また、これらの仕事は冒険者ギルドに登録している人間、三人以上でパーティーを組まなければ受けられない」
「なんで三人なんだ?」
「昔は人数制限などはなかったようだが、その当時は非常に冒険者の未帰還率が多かったんだ。この人数制限を設けてから、冒険者の帰還率は上がったと聞いている」
ああ、安全性のためなのか。
確かにソロよりは、三人以上の人間がいた方がモンスターとの戦いの際にもずっと勝率が上がるし、何かトラブルがあっても三人ならお互いをフォローしあえるだろう。
つまり――ロディは冒険者だ。
けれど、冒険者の仕事を受けるためには、三人以上からなるパーティーを作る、もしくは入らなければいけない。ということだ。
「だからずっと、ここ最近冒険者ギルドの掲示板見たり、受付に行ったりしてたのか」
「ああ」
でも……それだと、まだ疑問は残る。
初めて冒険者ギルドを訪れてから今日に到るまで、ロディの様子や、受付での事務員さんとの会話を聞く限り、ロディがお願いしている「パーティーメンバー募集」または「パーティー加入の希望」の依頼書をいうのが、どうも冒険者ギルドの掲示板に張り出されていないようなのだ。
パーティーを組まないと仕事ができないのに、ロディは今パーティーメンバーがいない。
でも、初めからこういうわけじゃなかったはずだ。
「……俺はもともと別の街でパーティーを組んで活動していたんだ。それが、ある事情でパーティーを離脱することになって、三ヶ月前くらいにこの都市にきた」
「三ヶ月……その間、パーティーメンバーは見つからなかったのか?」
「ああ。俺はこの都市に伝手もないし、知り合いもいない。口利きをしてくれる人もいなかったし……俺の依頼した募集依頼は一度も張り出されていないからな」
「え、じゃあ」
「……ああ。情けない話だが、この三ヶ月、俺は一度も仕事をしていないってわけだ」
ロディは自嘲するように笑うと、おれが彼から遠ざけた酒瓶にちらりと視線をやった。
でも、そんな話を聞いた以上、なおさらここで酒瓶を明け渡すわけにはいかない。
「なぁ、俺の話はしたんだし、もういいだろう?」
おれが咎めるような顔をしたのが分かったのか、ロディはすねたようにそう言った。
でも、そんな可愛い言い方をしてもダメなものはダメだ。
楽しいお酒ならいいけどさ、ロディのお酒の飲み方は明らかにそうじゃない。前世でのおれの友人が、彼女に振られた夜に浴びるように酒を飲んでいたのを思い出す。あんな感じの、明らかにやけ酒の飲み方なのだ。
嫌なことを忘れるために呑むお酒は、時には、ありっちゃありだけどさ。でも、ロディの飲み方は明らかに行き過ぎだ。
「まだダメだ。肝心なことを話してないだろ? なんでパーティーメンバーが冒険者ギルドで募集できないんだ? それに、今まで組んでいた人たちとはどうして別れることになったんだ」
「クロは詮索がしたいのか?」
「詮索じゃないよ。ただ、ロディが心配なんだ」
「…………っ」
おれがそう言うと、ロディは何事かを反論しようとしたものの、それを言葉にする前に唇を噛んでうつむいてしまった。
……うーん、どうしよう。
ロディはうつむいた顔をあげようとしない。でも、このリビングから出て寝室に行こうとしないあたり、話を続けたい気持ちはあるのだろう。
たぶん、自分でも今の状況がよくないことはロディ自身が一番分かっているのだ。
だからこの場に留まっているということは、彼の中に「誰かに思いや悩みを打ち明けたい、話を聞いて欲しい」という気持ちがあるということだ。
でも、おそらくそれができないのは、ロディのプライドの問題なんだろう。今までの冒険者ギルドや外でのロディの人となりを見る限り、ロディはけっこう人見知りが激しい方だ。
いや、違うか。人見知りが激しいと言うか、人馴れしてない、という言い方が近いだろうか。もしかすると、幼い頃から今までずっと、馴染みの連中とつるんできたために、新しい人間関係を作ったことがないのかもしれない。
また――それに加えて、パーティー離脱に際して起きた、おそらくはロディの元のパーティーメンバーとのトラブル……それのせいで、ロディの中に人間不信の気持ちが根付いているのかもしれない。軽度のPTSDというわけだ。
だから、一週間暮らしてきたとはいえ、おれという他人に対して自分の過去の話を打ち明けることに、ロディの心の中ではものすごく葛藤があるのに違いない。
……ふむ。
となればここはやはり――ロディの可愛い飼い猫の出番というわけだな!
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