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第二十一話

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 レックスは顔を寄せて、舌先でおれの目尻に浮かぶ涙を舐め取った。
 しょっぱいな、と言って笑う彼の顔は、いたずらが成功した子どもみたいに無邪気で、彼に今しがた何をされたかをつい忘れそうになってしまう。

「レックス……」

「あー、泣くなよ先輩。大丈夫大丈夫、乳首だけじゃなくて、ちゃんとこっちもイかせてやるからさ」

「そ、そうじゃなくて……ぁ、そこはっ……!」

 彼の手が、とうとうおれの下腹部の、さらに下へと伸ばされた。そして、器用な手付きで前をあけて、下着とズボンをくつろげてしまう。ヒート中の身体は力がうまく入らず、しかもイったばかりのため、ろくな抵抗ができない。おれはあっという間にズボンも下着も脱がされてしまった。

「お、もう勃ってんじゃん。胸いじめられんの、そんなに気持ちよかった?」

「……っ!」

「ははっ、先輩、顔真っ赤」

 指摘された通り、おれの陰茎はすっかり頭をもたげていた。腹につきそうなほど勃ちあがったそれを、この後輩に見られるのは、今まで以上に恥ずかしかった。陰茎の裏側から陰嚢まで、自分でもそう見たことがないような場所が、なにもかもが晒されている状態だ。
 慌てて太ももを閉じようとするも、その前に、レックスの手が陰茎に伸びてきた。

「足、閉じんなよ。触りにくいだろ?」

「で、でも……ぁっ、や、そこっ……ん、ぅあッ、ぁっ」

「あー、先輩のその声ほんと可愛い。さっきの乳首イキの時の声もたまらなかったけど」

「ひっ、ぁ、ァッ!」

 レックスは瞳を細めて、声に愛おしさを滲ませながら、おれの陰茎を扱いた。

 彼に、可愛い、と言われる度、心の隅で嬉しいと感じてしまう自分がいた。今でさえ熱い身体が、体温がさらに上がっていくようだ。同じくして、おれの陰茎は透明な先走りをぽたぽたと溢れさせ始めた。

「ぁ、レックス……ふっ、ぅ、ぁ、あぁっ」

 剥き出しになった陰茎を、指の腹でにゅこにゅこと扱かれると、喉から甘い声が漏れてしまう。
 とんでもなく気持ちよかった。正直に言って、普段の自慰で自分で扱くよりも気持ちいい。

「んっ、ぅ、あっ、ぁ」

 おれは目をぎゅうっと閉じて、与えられる快楽にシーツの上で腰をくねらせた。
 発情状態になった身体に、ようやく直接的な快楽を与えられたのだ。乳首イキで味わった快楽は、身体の熱を発散させるようなものではなく、むしろ、昂ぶった身体にさらに火をつけるような快楽だった。

「ぁ、ァッ、あっ、ァ……ぁ、えっ?」

 このままレックスの手に身を委ねて、射精を迎えるのだろうと思った。そうできると期待していた。
 だが、おれが射精に至ろうとした直前で、彼は手をぱっと離してしまった。

 思わず目をあけて、どうして、とレックスを見上げる。彼は、唇を歪めて笑った。弱った獲物を前にした獣のような笑みだった。

「はは、いい顔するなー。なんだよ、そんなにイきたかった?」

「ぅ……」

「ごめんごめん、泣かないでよ先輩。悪いんだけど、俺も我慢の限界なんだよ。ずっとおあずけ食らってる犬の気分っていうか。だからそろそろ、下準備に移りたくてさ」

「下準備……?」

 レックスの言わんとすることが理解できず、首を傾げる。
 そんなおれを見下ろして、レックスは再び下腹部へと手を伸ばした。だが、今度は陰茎ではなく、さらにその下にある窄まりへと触れてきたのだ。

 おれはぎょっとして、慌てて身体を起こそうとしたが、膝に力が入らず、がくりとベッドにくずおれてしまう。彼は片手でそんなおれの足を抱え上げると、もう一方の手を後孔へと伸ばした。

「レ、レックス、そこは……! ぁ、ぅっ」

 彼が指先でそこに触れた瞬間、くちゅり、という水音が立った。そのいやらしい音に、顔にさらに熱が集まる。対して、レックスはにやにやとした意地の悪い笑みを浮かべた。

「へぇ、もう濡れてる。俺に乳首いじめられんの、そんなに気持ちよかった?」

「っ……!」

 レックスはそう言いながら、後孔の縁を、円を描くようにさわさわとなぞった。彼が指を動かす度、くちゅくちゅという水音はハッキリとおれの耳に届いた。あまりの羞恥に、目から涙がこぼれる。

 恥ずかしい。身体が動くなら、今すぐにレックスの前から消え去りたい。

 彼に指摘された通り、おれの後孔は今やすっかりと濡れていた。オメガの男は、後孔の中が直腸と膣に枝分かれしており、女性と同じように膣のほうから愛液が分泌されるのだ。

 ヒートで発情状態になっているとはいえ、レックスにこんな姿まで見られてしまうなんて……!

「そんな顔すんなよ、先輩。いいじゃん、俺の指でヨくなってくれたってことだろ? 俺は嬉しいよ」

 レックスは笑いながら、身体を屈めておれのお腹の上にチュッと音をたてて吸いついた。これでまた一つ、キスマークが増えてしまった。

「じゃあ、先輩はちょっと力抜いてて。傷つけたくないからさ」

「ぁ、レックス、ちょっと待っ――っ、んっ、くぅっ」

 にゅるり、という感触と共に、レックスの指がとうとう後孔の中へ入ってきた。濡れていたせいか、異物感こそあるものの痛みはなかった。

「んー、濡れてるけどけっこうキツいな……先輩、こっちでオナニーとかしねぇの?」

「はっ!? な、なんでそんなこと……ぁっ、んぁっ、あァっ!」

「その反応じゃ、普段はこっちいじってなさそうだな。こっちの子宮ある方の穴もきつそうだし」

「ひぁっ!?」

 今まで以上に未知の感覚が身体を襲った。
 レックスは指を折り曲げて、くちゅくちゅと水音を立てながら、後穴を拡げるように指をゆっくりとかき混ぜていた。

 何かを探るような指先が、ある一点をかすめた時、おれは身体に電流を流されたように身体をビクンと跳ねさせてしまった。

「お、もしかしてこれ前立腺? そっか、先輩の身体って子宮もあるけど前立腺もあるんだよな。こりゃ開発しがいがありそうだな。楽しくなってきたわ」

「ぜ、前立腺? レ、レックス……頼む、ちょっと待っ」

 レックスが指を押し込み、先ほどのしこりをグリッ、と押しつぶすように圧迫すると、おれの腰は再びビクビクと大きく跳ねた。
 あまりの快楽に、ぼろぼろと涙があふれて止まらない。

「ひぁっ、ぁっ、それ、それやだっ、レックス、ぁ、ああッ!」

「大丈夫大丈夫、先輩のココは気持ちよさそうだし。ほら、見てよ。本気汁も出てきただろ?」

 レックスは、後孔から出てきた粘ついた愛液を指先にとると、おれの目の前にかざして見せた。白っぽい色の、粘度を増した愛液を見せつけられて、おれは羞恥のあまりに顔を背ける。
 そんなおれを見て、レックスは楽しそうに笑った。

「ははっ、恥ずかしがってる先輩、ほんと可愛いなー。さっきも言ったけれど、俺は嬉しいぜ? 先輩が俺の愛撫で気持ちよくなってくれた証拠だろ?」

 そう言うと、彼は指先についた愛液を自身の口元へもっていき、ぺろりと舌先で舐めとった。舐めとって、しまった。
 おれはぎょっとして、悲鳴に近い声を上げた。

「レックス! そ、そんなの舐めるな……!」

「なんでだよ? 先輩のなんだし、別にいいだろ」

「何がいいんだ! ぁ、やだ、だから、指動かすなって……ぁッ、ふあ、あッ!」

 指が抜かれたかと思ったら、今度は中指と人差し指の二本に増やされて、指が挿入されてしまった。濡れそぼったおれの後孔は、またもや彼の指を歓迎するかのように、すんなりと受け入れてしまう。

「ぁっ、やっ、やだっ……ひっ、ぁ、あッ!」

 指が増えたことで、今度は新たな動きが始まった。
 しこりへの愛撫だけではなく、肉壁をひっかくように掻きまわされる。かと思えば、二本の指がV字型に開かれ、後孔を強制的に拡げられてしまう。後孔が強制的に開かされた瞬間、粘ついた愛液がドロッ……と外へあふれた感触があった。

「おっ、愛液の量すごい。ヒートのオメガって皆こうなのかな。それとも先輩が特別?」

「ふぁ、あッ、ぁっ、言、言わないで……あッ、ァ!」

 愛液がとめどなくこぼれて、内腿を濡らし、シーツにはしたないシミを作る感覚に、おれは恥ずかしさのあまり、シーツを指先で握りしめた。だが、力の入らない身体では、今やシーツにほんの少しのシワを作ることさえままならなかった。

 恥ずかしい、気持ちいい。つらい、射精したい、もうこれ以上気持ちよくなりたくない。

 そんな相反する思いが、頭の中をぐるぐると巡っている。
 だが、脱力した身体ではベッドから逃げることすらままならず、おれは足を広げて、レックスの指で暴かれるままになる他なかった。

「ん……よしよし。膣口もだいぶほぐれてきたな。じゃあ、指増やすか」

「ふぁっ!? あっ、レックス、ひっ、ぁあ、んあァッ!」

 とうとう、挿入されるレックスの指は三本に増えてしまった。三本となると、後孔の中はいっぱいいっぱいになってしまい、さすがに圧迫感を感じる。だが、それ以上にとてつもない快楽が身体を襲った。
 おれはとうとう、レックスに懇願の声をあげた。

「っ、レックス、たのむ、ほんとに、すこし待ってくれ……! おれ、頭おかしくなるっ……ふぁ、あッ、ぁあっ!?」

「いいじゃん、おかしくなってよ。快楽で頭壊れた先輩とか、すごい見たいわ」

 人差し指で前立腺を圧迫されながら、もう二本の指で膣口をコンコンとノックされる。かと思えば、今度は指の関節でゴリゴリと前立腺を抉られる。

「ぃ、ぁ、ぁああッ!」

 自分のものとは思えない、甲高い悲鳴が喉からこぼれた。しかし、そんなおれとは対照的にレックスは満足げに笑っている。
 おれの後孔からは、とめどなくドロドロとした白っぽい愛液があふれて、尻の狭間や内腿をびっしょりと濡らしていた。部屋の中にはひっきりなしにグチュグチュという水音が響き渡っている。

 その時、レックスの人差し指が、とうとう胎内にある膣口につぷりと挿入された。
 初めて膣口を拓かれる感覚に、おれの身体は嫌悪感をあらわすどころか、きゅうきゅうとレックスの指を締め付けた。

「ぁっ、レックス、指ぬいて……ぁっ、んぁっ、ああッ!」

「おっ、先輩のGスポット見っけ」

「ひぁっ!?」

 彼の指が、なにか、膣口の内にあるざらついた肉壁をかすめた。瞬間、今までとは違う、下腹部の奥を穿たれるような快楽に、おれは小さな悲鳴をあげてしまった。
 レックスはめざとく、今度はそのざらついた肉壁を指の腹でくるくると撫でまわし始める。
 その瞬間、おれの下腹部はビクンビクンと人間離れした動きで痙攣をし始めた。

「いっ!? ひっ、ぁ、あァっ、ァ、ああッ!?」

 白い火花がばちばちと視界で弾ける。下腹部がガクガクと痙攣して、止めることができない。
 おれの陰茎はなおも天井に向かって上向いたまま、痙攣にあわせてみっともなくぷるぷると哀れに震えている。だが、その先からはトロトロと透明な先走りが零れるばかりで、射精には至っていなかった。

「ぁっ、ひっ、ぁ、あッ……」

 射精に至ることができなかったのに、身体は快楽の高みから、なかなか戻ってくることができなかった。後孔からは、今や真っ白になった本気汁があふれて止まらず、肉壁全体がきゅんきゅんと蠢いているのが分かる。

 こ、これはいったい、なんなんだ? 
 おれの身体はどうしてしまったのだろう?

 レックスは自身の指を締め付ける肉壁の感触を味わうように、ゆっくりと指を回しながら、唇を弧の字に描いて笑った。

「先輩、おめでとう。とうとう初めてのメスイキだ」

「め、めす、いき……?」

「そうそう。ドライオーガズムって言った方が分かりやすいか? ひとまず、その感覚を身体にしっかり覚え込んでほしいんで、あと二、三回くらいイってみようぜ!」

「は?」

「あ、三回じゃ足りねぇ? そうだよな、ヒート中だもんな。じゃあ五回くらいイってみる?」

「お、おい、レックス!? ちょっと待っ……ぁっ、レックスっ、あっ、ぁあ!?」

 レックスは今度は、先ほどのGスポットだけでは飽き足らず、前立腺を同時に指先で弄び始めた。
 絶頂を味わったばかりの身体は、すぐに快楽に昂ってしまい、レックスの指をひくひくと締め付けてしまう。

「あぁっ、ァ、ひあァッ、ああッ!?」

「お、さっそく二回目のメスイキ。先輩はさすが覚えが早いなぁ」

 おれの腰はガクンガクンと大きく震えるも、レックスはそれを意に介することなく、Gスポットと前立腺を指で責め立てた。
 早くも二回目の絶頂を叩きつけられ、おれは唇を噛みしめながら、快楽に朦朧とする意識の中で必死に自分を保ったのだった……
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