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第2部 闘技場騒乱

第九話

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 『ひよレジ』の中盤で、革命軍は強制的にコロッセオで剣闘士にされた人たちを解放するための襲撃作戦を行うことになる。
 その発端は、『コロッセオの英雄』と名高かった剣闘士アダムが、コロッセオで公開処刑にされることが決定したからだ。

 アダムは対戦相手が人間だった場合は、決して相手を殺そうとしなかった。
 武器も持たずにおのれの身体一つで戦うその勇猛果敢さは観客に受けたが――大臣を含む一部の貴族たちからは非常に評判が悪かった。そして、スポンサーである彼らの要請を受けて、アダムはコロッセオで処刑されることになったのだ。

 しかも、それだけではない。
 今まで試合でアダムに負けた剣闘士たちも、連座で処刑されることになったのだ。

 この公開処刑を立案したローズいわく『本来はアダムに負けた時点で、みんな死んでたんだしぃ。彼に救われた命なら、彼が死んだら一緒に死ぬべきでしょ~?』とのこと。

 その数、なんと百二十八人。

 この大量公開処刑の情報を手に入れた革命軍は、彼らを救出するために動き出した。
 剣闘士にされた者というのは、なんの罪も犯していない人間か、あるいは些細な罪しか犯していない人間も多い。飢えをしのぐためにパンを盗んだ者、高すぎる税金を滞納した者、あるいは、大臣に口答えをして目をつけられた者……
 それに加えて剣闘士たちが革命軍に入団してくれれば、革命軍も兵力を増すことができる。

 そのため革命軍は、夜間のコロッセオ襲撃作戦を実行した。
 その作戦は成功し、剣闘士たちを地下牢から救出することができたのだが――これは、四天王ローズの罠だった。

 皇国四天王の一人、ローズ。

 彼女の操る神造兵器『パルファン・ドゥ・ローズ』は、その香水の香りをかいだ者を、一定時間、自由に操り人形とすることができる。
 だが、香水という特性上、開けた場所では効果が薄いというデメリットがある。屋外では香りがすぐに薄れてしまうからだ。

 この大量公開処刑の真の目的は、革命軍をコロッセオまでおびき寄せることだった。コロッセオの舞台は、四方を観客席と壁に囲まれ、天井には陽ざし除けの天幕が張られている。

 ローズはわざと大量公開処刑の情報を外部にリークし、革命軍をコロッセオで待ち受けたのだ。
 また、この時までローズの『パルファン・ドゥ・ローズ』の情報は秘匿されており、革命軍の誰もローズの神造兵器の能力を知らなかった。

 結果、革命軍は剣闘士を地下牢から救い出すことに成功したものの――潜んでいたローズの『パルファン・ドゥ・ローズ』の香りをかがされた剣闘士たちによって、逆に襲撃されてしまうことになる。

 香水をかがされたのは、アダムも例外ではなかった。
 神造兵器を埋め込んだアダムの力は並外れて強力だった。彼はローズに操られ……革命軍の兵士のみならず、自分の仲間である剣闘士たちをも殺してしまう。

 コロッセオで誰一人殺さなかったアダムなのに――ローズに操られた彼は、かつて自分が見逃した対戦相手たちを手にかけることになったのだ。
 ここら辺の展開は、アダムがあまりにもかわいそうすぎたのでよく覚えている。

 しかもローズのいやらしいところは、操り人形と化した者たちの意識をあえて残したところだ。

 結果、操り人形となったアダムや剣闘士たちは『誰か止めてくれ!』『助けてくれ、俺の意志じゃないんだ!』と泣き叫びながら、革命軍に攻撃することになった。

 こうなると、革命軍や主人公ハルトも、剣闘士たちを見捨てることも出来ず、殺すこともできない。

 最終的に、主人公であるハルトが、バルムンクによってコロッセオの壁で一番薄い部分を風穴をあけて香水の効果を失わせたことで、なんとか彼らを解放することができたが……
 この戦いによって、剣闘士たちや革命軍兵士にも多くの犠牲が出てしまった。

 ちなみにこの時、ヴィクターとゼノンの二人もローズの応援として戦いに出ていた。

 しかもゼノンは、革命軍側にいるメインキャラクターを一人殺害する。
 これが原因でゼノンは顔と名前を覚えられ、『絶対許さない』モードになったハルトに殺されるわけだが……

 それがいったい、なぜライオネルが公開処刑を立案してるんだ?

 しかも剣闘士アダムの処刑がメインではなく、革命軍の捕虜の処刑がメインになってるし。
 この時期じゃまだアダムは『コロッセオの英雄』なんて二つ名はついてないからか?

 それにしたって、ローズは全然やる気がないみたいだし……
 えっ、これ一体どうなってるの?

「シキ将軍もそれでよろしいですかな?」

 と思っていたら、ライオネルがいきなりこちらに話を向けてきた。

 頼むからやめて欲しい。
 ただでさえ原作と展開が乖離してきて、頭の中がパニック状態なんだって!

「ああ、いいんじゃないか? だがその作戦はお前一人でやるつもりなのか」

「……なにが仰りたいのですかな?」

 おれの返答に、ライオネルの瞳にちろりと憤怒の炎が宿った。

 だが、そうと分かっていても今さら言葉を引っ込めることはできない。
 おれはなんとか原作通りに展開を修正しようと、そのまま言葉を続けた。

「ローズやおれの助力はいらないのか? 革命軍どもも馬鹿じゃない、何らかの手を打ってくるだろう。バルムンクだけではなく、多数の神造兵器持ちを揃えてきているようだ」

「つまりシキ将軍は、私一人では役不足だとおっしゃりたいのですな」

 ライオネルの表情がますます険しくなる。
 あっ、やばい。これ、完全に逆効果だ!?

 なんとかフォローをしないと……!
 
「そういう意味じゃない。ただ、羽虫と侮った獣に手を噛まれまれないように気をつけることだな」

「フン、そんなことは言われるまでもありませんな」

 ライオネルは再び大臣に向き直った。

「大臣、この作戦は私一人にやらせていただきたい」

「おや、いいのですか? シキ将軍の言う通り、コロッセオであればローズの神造兵器の力が最大限活かせそうですが」

「不要です。捕虜共の処刑と反乱軍の制圧程度、誰かの力を借りるまでもありません。私一人で成し遂げて見せましょう」

 ライオネルと大臣の会話を聞きながら、おれは心の中で頭を抱えた。

 やばい、完全に裏目に出た……!

 おれは助言をしたつもりだったのに、ライオネルはそれを挑発と捉えたようだ。
 こうなっては、何が何でも今回の作戦は、ライオネル一人で決行しようとするだろう。

 ライオネルのミョルニルは戦闘能力こそ高いけれど、革命軍には、現在は多くの神造兵器持ちがいる。
 それに、革命軍側は今回は剣闘士たちを解放して逃がすことが目的だ。なにも正面きってライオネルと戦う必要はない。
 こうなると、ライオネルの作戦は失敗するかもしれない。

 ど、どうする!? 
 このまま手をこまねいて見ていていいのか……!?

 ……ん? いや、待てよ。

 でもよく考えたら、今回は『ひよレジ』の展開通りに行かない方がいいのか……?

 最初は、原作の展開から外れていく現状に焦ってしまったけれど――よく考えたら、今回ばかりは『ひよレジ』の展開から外れた方がいいのかも。

 でも、それで良かったんじゃないか?
 ローズが出てこなければ、革命軍の救出作戦はうまくいくし。

 このまま原作通りに行けば、ローズの神造兵器によって革命軍と剣闘士たちの殺し合いが始まるもんな。そうなると多くの死傷者が出る。

 でも、ライオネルの神造兵器なら、もうその能力は革命軍に知られている。昨日の襲撃で、ライオネルの戦うところは革命軍に見られてるからな。
 なら革命軍は、ミョルニルに対して何かの対策をしてくるはずだ。情報のないローズの神造兵器よりも、今回はずっと戦いやすいだろう。

 なーんだ、焦る必要なかったな!

 よくわからないけれどラッキーだ。
 おれにとっても、革命軍にとっても。

 それに……ライオネルが一人でやってくれるって決断してくれて良かった。

 原作通りにローズがコロッセオでの公開処刑を行うことになった場合、双子も参戦するはめになっただろう。
 革命軍と戦いたくないのはもちろんだけれど……ヴィクターとゼノンには、あまり誰かを殺したり傷つけて欲しくないからな。
 まあ、あの二人自身はそんなこと全然気にしてなさそうだけど。
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