上 下
46 / 146

ジョンテ城

しおりを挟む
「イテテテ……
 おい、なんだよあの悪魔はー」

 ジョンテ城の一室、俺の寝室として用意された部屋の天蓋付きベッドの上で、アデリッサに膝枕してもらいながら、俺は文句を垂れていた。

「人を襲う演技だよ?演技。
 俺めっちゃ出血してるやん。
 おい、説明してよグレモリーさんよぉ」

 アデリッサは顔を赤くしながら、裸になった俺の上半身を濡れたタオルで拭いている。
 痛みはとっくに引いているが、リリムの爪で切り裂かれた傷跡を薄っすらではあるが、わざと残しておいたのだ。

 バツの悪くなったグレモリーは責められるのが嫌で、アデリッサの人格と交代して、さっさと隠れてしまった。
 俺は傷をダシにして、アデリッサに我儘三昧を満喫している。

 ドレススカートを捲り上げ、太ももをペロリと舐め、舌鼓を打つ。
 アデリッサがひゃうっと感じる声を上げた。
 イヒヒッ、全くこの子は敏感な子さね。

「ほら、手が止まってるよ。身体ちゃんと拭いて」

 アデリッサの尻を撫でながら優しく注意する。

「は、はい……」

 ——もう、アデリッサが困ってるじゃない

 堪り兼ねたグレモリーが【思念伝達テレパシー】を飛ばしてきた。
 アデリッサにこの声は聞こえていないらしい。

 ——おいおいおいおいおいおい。
 全てはお前のミスじゃないか

 ——民衆には擦り傷の一つも付けてないわ!
 普通キマイラに当たったら並みの人間なら即死よ。
 私の仕事は完璧だったわ。
 大体、アンドラスを一撃で倒す貴方が怪我するなんて思わないじゃない

 グレモリーの言う通り、怪我をしたのは俺の過剰演出に依るものだ。

 俺が描いた絵は、暴動を止めさせる為にグレモリーに悪魔を喚び出させ、暴徒を襲わせる事。
 それだけでも十分だとは思ったが、あの荒くれ共の暴れ具合を見てたらイラついてきたので、絶望感を与えたくなった。
 その後、俺が助ければ領地を守る為には領主が必要なんだと思ってくれるかな?くらいの軽い気持ちだったが、運良く人心掌握できたかもしれない。

「イテテテ……
 ここが痛むよアデリッサ。
 こんなに腫れちゃってるよー」

 アデリッサの手を引いて下半身に誘導する。
 慣れてない手が、パンツ越しではあるが、俺の腫れ上がった肉棒の上にふわりと覆い被さった。

「とても……熱いです」

「痛みで熱がこもってるんだよー。
 さすったら楽になりそうかもー」

 さわさわとアデリッサの華奢な指が、俺の敏感なヤンチャ坊主を刺激する。

「でも、ここって、その……」

 ん?みたいなすっとぼけたにやけ顔でアデリッサの顔を眺める。

 何かな?
 ここは何かな?
 言ってごらん。

 アデリッサは羞恥で顔を真っ赤にして震えている。
 あーもう、めちゃくちゃにしてしまいたい。

「テツオ様!お具合はいかがですか?」

 突然扉が開き、ラウールが入室してきた。
 なんだ、チミは!
 ノックしたまえよ、ノックを。
 アデリッサがサッと手を引っ込め、もじもじしている。

「こ、これは失礼しました!
 ノックもせずに。
 ……あの、公爵令嬢とは、その、いずれご結婚を?」

「いや、今のところ私は誰とも結婚する気はありません。
 あと怪我は、ほらこの通り」

 残念だが至高の太ももとお別れして起き上がり、胸の具合をラウールに見せる。

「なんと!あれだけの大怪我がもう治っておられる。
 いやはや、魔法というものは凄いものですね」

 まだ、ラウールには悪魔の事までネタバレする必要はないだろう。

「民のあの様子でしたら、しばらく暴動は起こらないでしょう。
 魔獣の出現には驚きましたが、全てはテツオ様のおかげです」

 暴動が沈静化したとはいえ、領民に新しい政策、目に見える次の一手を繰り出さないと、また爆発しかねない。

 まずは、この街のイメージを改善し、失業者にやり甲斐のある仕事を与え、経済を流通させ、人口を増やしていく。
 いや、結構難しいな。

「ラウールさん、この領土の名産品や工芸品は何がありますか?」

 ブランドがあれば、それを世界に向けて発信していくのは当たり前だ。
 ラウールから、上質な果実や獣肉がとれる事、白金素材の工芸品などが作られている事を教えてもらう。
 ……ふむ、その辺りから攻めていくか。
 顎に手を当て、しばし思考に耽る。
 寒いな。
 あ、裸のままだった。
 身だしなみを整え、二人に今後の展望を、空中に浮かび上がった魔法映像を見せながら伝える。

 グレモリーにはこれから俺と建築工事に付き合わせ、ラウールには労働力を募集してもらう。
 大きな窓から外を見ると、すでに夜の帳が下りようとしていた。
 もうすぐ七時か、急がないとな。

「夜のうちにある程度作っておきますので、仕上げはお任せします」

 ラウールはいまいちよく分かってない顔で了承した。
 全ては明日だ。


 ——————


 ジョンテ領・某地下施設

 複数の男達が密談を交わしている。

「ロナウド、何故暴動をやめたんだ!
 もう少しでジョンテ城を攻略できたんだぞ!」

 カールした立派な口髭を生やす、痩せこけた貴族らしい男が、顔を赤くして怒鳴り散らしている。
 どうやらこの男が、この場を仕切る者なのだろう。

「ですがディビッド卿、悪魔が現れてしまっては領民程度では何も出来んでしょう。
 しかも、その悪魔を新領主になるという男が追い払い、人心まで掴んでしまっては、もはや打つ手が……」

 兵士であろうスキンヘッドの男ロナウドが貴族崩れに弁明する。
 周りにいる兵民達が項垂れている。
 悪魔と魔獣の出現に相当肝を冷やしたようだ。

「ジョンテには兵を雇う金すらない!
 今こそが革命の好機なんだ!
 悪魔を追い払ってくれたのであれば、むしろ我々の好都合じゃないか!
 よし、明日は強硬策にでるぞ!
 ロナウドよ、また民を扇動するんだ!」

 テーブルを両手でバンと叩き、ディビッド卿は部屋から出て行った。
 それに続いて、数人の取り巻きも出て行く。
 身なりから推測するに、その取り巻きもまた貴族崩れなのであろう。

 ジョンテ領から殆どの貴族はいなくなったが、逮捕された貴族の家族や血縁者の一部はここに残り、ジョンテ家への恨みを募らせ、転覆を企んでいたのだ。

 同じく仕事を失った兵や一部の民は、その甘い誘惑に駆られ革命に加担していた。
 彼らの多くは、今日明日食べていく為、家族を養う為、やむを得なかったと自分を納得させている。

 兵士長だったロナウドは、他の雇われた兵民らに話し掛ける。

「ジョンテ家はもう消え去るのみ。
 だが、こんなに早く新領主が来るとは思わなかった。
 もし、新領主がこの街を良くしてくれる傑物だったなら、我々は取り返しのつかない事をしようとしてるのかもしれん」

 隣に座っていた男が、ロナウドの肩をガッと乱暴に掴む。

「今更、何を言っているんだ!
 俺たちはもう金を貰ってしまっている!
 やるしかないんだ!」

 そうハッキリと言われ、ロナウドは拳を握り締める事しか出来なかった。

 ここ近年のジョンテ家の悪政は酷かった。
 エリックの強欲は民の暮らしを圧迫し続け、両親や兄は抜け殻の様に過ごすだけ。

 ——城には悪魔がいる。

 そんな噂があちらこちらで囁かれていた。
 誰かが立ち上がらなければ。
 そんな時にエリック逮捕と貴族没落の報告。
 ジョンテ侯爵の死と同時に、兵士は全て職を失った。
 薄給だったが食いつなぐ為にはそれにしがみ付くしかなった。
 だが、それすらも失った。

 そんな時に、同じく貴族を追われたディビッド卿の決起の誘い。

 革命のタイミングは今しかない!

 より良い街を取り戻す!

「みんなすまない!
 俺がブレてどうするんだって話だよな!
 明日こそジョンテを潰す!
 正義は我らにありだ!」

「「うおおーーーっ!!」」

 五十名を超える民兵達は一斉に声を張り上げた。
 ここに、声を掛けた民と合流出来れば、総勢二百は超えるだろう。

 エリックが招いた革命の口火はついに切って落とされた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

二度目の異世界に来たのは最強の騎士〜吸血鬼の俺はこの世界で眷族(ハーレム)を増やす〜

北条氏成
ファンタジー
一度目の世界を救って、二度目の異世界にやってきた主人公は全能力を引き継いで吸血鬼へと転生した。 この物語は魔王によって人間との混血のハーフと呼ばれる者達が能力を失った世界で、最強種の吸血鬼が眷族を増やす少しエッチな小説です。 ※物語上、日常で消費する魔力の補給が必要になる為、『魔力の補給(少しエッチな)』話を挟みます。嫌な方は飛ばしても問題はないかと思いますので更新をお待ち下さい。※    カクヨムで3日で修正という無理難題を突き付けられたので、今後は切り替えてこちらで投稿していきます!カクヨムで読んで頂いてくれていた読者の方々には大変申し訳ありません!! *毎日投稿実施中!投稿時間は夜11時~12時頃です。* ※本作は眷族の儀式と魔力の補給というストーリー上で不可欠な要素が発生します。性描写が苦手な方は注意(魔力の補給が含まれます)を読まないで下さい。また、ギリギリを攻めている為、BAN対策で必然的に同じ描写が多くなります。描写が単調だよ? 足りないよ?という場合は想像力で補って下さい。できる限り毎日更新する為、話数を切って千文字程度で更新します。※ 表紙はAIで作成しました。ヒロインのリアラのイメージです。ちょっと過激な感じなので、運営から言われたら消します!

俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。

ねんごろ
恋愛
 主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。  その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……  毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。 ※他サイトで連載していた作品です

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜アソコ編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとエッチなショートショートつめあわせ♡

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

処理中です...