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ナティアラズ・バー
しおりを挟む「エナ、待たせたね」
「テツオ様……」
サラサラの金髪に、おっとりした優しい碧眼、ふわトロ巨乳を携えたナイスバディ。
まさに【スーレの奇跡】と言ってもいいS級美女。
一日の締めは、エナで決まりだ。
森の魔女が脳裏にちらりと浮かんだが、エリンは夜伽のローテーションには入れてない。
エナが悲しい顔をしてたので、寂しかったのかと思い、抱きしめようと近付いたら、部屋にもう一つの存在を【探知】した。
後ろを振り返ると、ハゲたおっさんが椅子に座っている。
誰だ、こいつ?
勇者?……なわけないか。
何も力を感じない。
「本当に現れたな。
貴様が娘を誑かしたのか」
娘?というと父親?
そ、村長か!
なんか、怒ってるな。
「この子は巫女になる大事な身なんだ!
それを貴様っ!」
村長が凄い剣幕で、胸ぐらに掴みかかってきた。
余裕でカウンターを合わせれるが、常識的に良くない。
おっさんの目に溜まる涙が見えてしまったのだ。
「そ、村長!ご、誤解でふ。
話を聞いてくらさい」
ヤバい。
こんなシチュエーション慣れてないから、吃りまくって噛んでしまう。
どうする?
時を戻すか?
何を言ってるんだ。
時は戻さないと、自分に誓ったばかりじゃないか。
落ち着け、俺には力がある。
【魅了】か?いや、おっさんに惚れられたくはない。
何かないか?
頭に一つの術式が浮かび上がった。
あ、これか!
【闇魔法:洗脳】
「ぬわああああああああ!」
村長が、突然頭を抱えて苦しみ悶えだした。
「お父様!?」
「あ…………エ…………ナ…………」
なんて良くない魔法なんだ。
村長が抜け殻の様に呆けている。
「村長、二人で話しましょう。
エナ、大丈夫だからちょっと待っててくれ」
【洗脳】がすっかり効いて、落ち着いた村長の背中を押し、階下へと向かう。
一階には、階段の下で狼狽える綺麗な奥さんが突っ立っていたが、ボソッと耳打ちすると、顔を赤らめて奥の部屋へ駆け込んでいった。
全て自白した村長の話では、明日の早朝、巫女になる儀式があるのだが、前日になって突然、エナが巫女にならないと言い出した。
なんとか理由を問い質すと、観念して俺の事を打ち明けたらしい。
愛する人がいます、と。
巫女は、清らかな乙女、つまり処女しかなれないという。
知らなかった。
解決策は一つしかない。
俺の筋書きを伝え、納得してくれた村長が二階からエナを連れて戻ってくる。
【解析】
エナ
年齢:15
LV:10
HP:95
MP:83
ふぅ…………
そんな気がしてたよ。
この世界の住人は、俺に対して五歳くらい鯖を読んでないか?
エナは二十歳といってもおかしくない身体をしてるのに。
「エナ、大丈夫だ。
村長は分かってくれた。
エナは巫女になれる。
まだ巫女になりたいのなら、だが」
「私は、エナが幸せなら、好きな様に生きてくれたらいい」
【洗脳】はあくまでも冷静に話をする為の、鎮静剤程度の効果が理想だ。
やり過ぎると恐らく操り人形と化すだろう。
それは人として良くない。
魔力調整して、村長は自我を取り戻している。
廃人にならなくて本当によかった。
この親父が娘を巫女にしたい理由は、何てことはない。
金だった。
聖職である巫女になれば、エナは神殿に住む事になり離ればなれになるが、村長家には多額の金が舞い込む。
だが、親父の懐には、俺が渡した白金貨がずっしり入っている。
金があるなら、娘を手放す必要は無くなった。
あとは、娘が自分で人生を決めれるかどうか、だ。
「テツオ様、私に巫女になる資格はあるのでしょうか?
私はこれからどうしたらいいのでしょう?」
へ?俺?
【魅了】怖いな。
一日で人の気持ちが、こんな事になっちゃうの?
不安な顔をして、俺の言葉を待っている。
強い心の持ち主だと思っていたんだが、処女喪失により、エナの心を折ってしまったのか。
悪い事をした。
【記録読込】
エナの記録を、再読み込みする。
エナの身体は、処女に戻った。
自分ではなくエナの時間を戻したのだから、誓いを破った訳じゃない。
それより、この魔法凄すぎないか?
「エナは、巫女になる資格がある。
巫女になり、そして、いずれ俺の役に立って欲しい」
「テツオ様のお役に立てるなら、私、喜んで巫女になります。
宜しいですか?お父様」
「あ、あぁ、勿論だ!
テツオ様、娘を宜しくお願いします」
「うむ、うむ」
俺は笑顔で頷き、親子の決断を受け入れる。
まずエナを村のしがらみから解放し、いずれ俺のハーレムに加えよう。
これは、ハーレム作りへの輝かしい第一歩なのだ。
だから、今日は我慢して帰ろう。
「明日の早朝また来る」
「テツオ様、ありがとうございました」
村長の家を後にする。
あー、欲求不満だ。
どうしようかなぁ…………
諦めてエリンとこ行くか?それとも新規開拓するか?
時間的にはもう日付けが変わるくらいだが、サルサーレの酒場はまだやってるかな?
【転移】
サルサーレの街に戻ってきた。
夜の街だが街灯の恩恵か、人通りは僅かながらもまだある。
スーレの村にも魔石灯が普及すればいいのにな。
設置コストが高いのかな?
【探知】
性別を若い女性限定にして検索する。
バッファロー・テリーに三人を感知。
前まで移動し中を覗くと、ウェイトレス達だった。
彼女達も充分可愛らしいんだが、エナに匹敵する美女じゃないと、今夜の締めにはならない。
それにまだ仕事中みたいだしな。
バッファロー・テリーを通り過ぎ、路地を更に奥へと歩く。
この先に、複数の女性の存在を、【探知】魔法により感知している。
複雑な路地をくねくね進み、石段を降り、石門を潜ると、目の前に一際明るく照らされ賑わう歓楽街が現れた。
ビンゴォ!
これだけ大きい街だし、風俗関連の店があるんじゃないかとは思っていたんだよね。
こんなとこにあったのか。
道を挟んで両側に店が並び、男性客は、窓から手を振り声を掛ける娼婦を吟味し、表には露出した衣装の女性が通行人を呼び込み、一方で、用心棒と思われる強面が、トラブルにならないよう酔った客を窘めている。
この街は、昼夜問わず活気があるようだ。
近くにいる客引きの、大胆に空いた胸元をチラチラ見ていると、案の定声を掛けられる。
うーむ、今夜はレベルの高い女がいいので、頭を下げ片手を振りながら、その前をそそくさと通り過ぎた。
ふと、通行人の中に見知った存在を感知する。
あれはもしや?
その後ろ姿を見失わないよう着いていくと、あちらも俺の存在に気付き、サッと振り向いた。
この距離で気付くとは、やはり只者では無かったようだ。
そのダンディな紳士は流麗に会釈をすると、こちらに向かって歩いてくる。
流石ブレイダン、歩き方もスマートだ。
「これはこれはテツオ様。
まさかこんなところで会うとは思いませんでした」
「いやぁ、どうもブレイダンさん。
美女を探してるとこんなところまで来てしまいました」
なんだろう?
物腰が柔らかくて、ついつい本音で話してしまった。
「おや?
貴方には、確か素敵な淑女が側にいたと存じてますが?」
紳士は顎に手をやり、不思議そうな顔をする。
「いえいえ、あれはただのパーティの一人ですよ」
「お連れ様はそうは思ってなさそうですが、おっと、私が口出す事では御座いませんね。
失礼致しました。
……テツオ様、ここでお会いしたのも何かの縁で御座いましょう。
私がこれから行く店へ、良ければご一緒しませんか?
もしかすると、お気に召すかも知れません」
「それはありがとうございます。
是非、お願いします」
「ただ少々、値が張りますが。
こちらで御座います」
ブレイダンの後をついて行く。
客引きどころか人通りも無くなり、道がどんどん暗くなる。
二人の足音だけが闇夜に響き、なんとなく不安になってきた。
「もう少しです」
俺の気持ちを察したのか、紳士的気遣いを頂戴した。
気付くとブレイダンは、携帯ランプを灯し、歩道を照らしてくれた。
角を曲がり、暫し歩くと、細い路地の奥に一つの明かりが漏れている。
——ナティアラズ・バー
猫を象った白銀のドアノブがついた黒扉を開くと、赤い絨毯が敷かれた細長い廊下が出迎える。
ブレイダンは、慣れた足取りで次の扉前まで行くと、猫型ドアノッカーの金具をコンコンと二回鳴らした。
しばし、待つ。
紳士だがおっさんと二人、扉の前で待ちぼうけ。
目が合うが、話すことは俺には無い。
…………沈黙が辛い。
「テツオ様、白金貨を一枚お持ちですか?」
ポケットから一枚取り出し、ブレイダンに見せた。
するとガチャリと扉が開き、女が一人出迎える。
「いらっしゃいませ」
「二人ですがよろしいですか?」
「もちろんでございます。
では、お先に入場料をお願いいたします」
そう言うと、女は赤い布が乗ったお盆を目の前に差し出した。
「テツオ様、一枚こちらに置いてもらえますか?」
「あ、はい」
え、入場料?たかっ!一万ゴールドよ?これ。
え?この女が美女?
まぁ、不細工ではないが、どちらかといえば侍女風というか、モブ臭は否めない。
「では、こちらへどうぞ」
女性に案内され、テーブル席に座る。
二人がゆったり座ってちょうどくらいの椅子だ。
横を見ると、隣の席の間には衝立があり、中が見えにくい。
風俗店みたいな配慮を感じる。
前の席は、一段下がった場所にあり、全部で四席あるようだ。
前の席の背面にも衝立があり、見えにくくなっている。
「では、どうぞお楽しみ下さい」
そう言い残してブレイダンは席を立ち、隣の席へと移っていった。
ああ、ここは一人用なのか。
空いたスペースには、女が来るのだろう。
しばらくするとドレス姿の女性がやってきた。
さっきの侍女ではない。あれはやはりモブだった。
「いらっしゃいませ。
ご来店ありがとうございます」
完成された彫刻の様な容姿とは、まさにこのこと。
ハイエルフに匹敵、いや超えるかもしれない美しさだ。
アマンダと名乗った赤髪で痩身の美女は、酒やつまみなどをテーブルに用意し、俺に酒を注ぐ。
動作は優雅さすら感じる。
高級店だけあるな。
黒いドレスのスリットから覗く太腿はセクシーだし、胸の谷間は美しい。
会話も洗練されていて、村娘とは気品が違う。
だがな、ブレイダン。
白金貨は高過ぎやしないか?
そろそろ欲求を満たしてくれないと。
時間操って色々やっちゃうぞ?
酒を飲みながら悶々としていると、何処からか音楽が流れだし、目の前が光で照らされた。
なるほど、ステージだったのか。
それでこの段差ね。
白いスモークがステージを覆い、光の靄から歌声が聞こえてくる。
なんて、綺麗な声なんだ。
マイクなんてないのに、店内に響き渡る声量。
早く声の主が見たい!
水蒸気だろうスモークが次第に消え、女のシルエットが浮かび上がる。
ドキドキしてきた。
拝顔した瞬間、その瞳にノックアウトされた。
真っ直ぐな強い瞳。
なんて瞳だ!
バックに掻き上げた前髪が小顔を協調し、目の大きさがより際立つ。
身体に密着したドレスが、彼女の細過ぎない曲線美を教えてくれる。
自分と目が合ったかと思うたび、妖艶な笑顔が見れるたび、心臓が鷲掴みされたような感覚に陥る。
歌い終わるまで、何度心臓に杭を打たれた事か!
歌い終わると同時に、店内は歌姫への声援と喝采で包まれる。
鳥肌が立つ圧巻のステージ。
時間を戻し、もう一度聴きたいくらいだ。
そんな葛藤に何度も襲われた。
ブレイダンさん。
……ありがとう!
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