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森の魔女

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 …………どれだけ進んだろうか。
 曲がりくねった道をくねくねしながら暗闇の中を歩いていく。
 時間の感覚がどんどん分からなくなってくる。
 道中、巨大な蜘蛛や大蛇に襲われたが、【探知】により把握済みで焦る事もなく、即時に発動させる【火壁ファイアウォール】を突破できるものはいなかった。

 ようやくして暗闇を抜けると、大きな川にぶつかった。
 川の向こうはやはり森だが坂になっている道があり、抜けた先には洋館の様な建物が見える。
 ここからではよく見えないな。
 川を渡ろうと周囲を見渡してみるが橋などは見当たらない。

【土魔法】で足場を創るか?
 それとも【風魔法】で飛ぶか?
 いや待てよ?確か【転移】って魔法もあったよな?

【転移】

 一瞬で対岸に移動した。
 まさに瞬間移動だ。
 魔法って凄い!
 これを戦闘に組み込めばめちゃくちゃ強いんじゃないか?
 意気揚々と坂を駆け上がっていく。

 こんな怖い森なのに、あの洋館には誰か住んでいるのだろうか?
 橋も架かってないし、既に廃墟なのかもしれない。
 坂も半ばといったところで、突如、周囲がピリついた。
 放電か?
 何もない空間にバチバチと電気を発生させながら、黒い闇が円を描いて、ヴヴヴ……と広がっていく。

 その闇から現れたのは、透き通る程の真っ白い肌に、腰まではある長い銀髪、スラリとしたスタイルに黒い衣を纏う、真っ赤な目が印象的なお姉さんだった。
 吊り目がちな鋭い眼でこちらを睨んでいる。

 な、何なんだ?

「ふぅ、眠っておったのに。
 ここより先はわらわの棲み家ゆえ、通すことは罷り成らぬ。
 わらわは眠い、帰るがよい」

 館の主人は俺になんの興味もなく眠そうにしている。
 そうだよな、人ん家勝手に入ったら駄目だよな。
 空中に浮いているお姉さんの回りが、またピリついて、再び黒円が広がったと思ったら、

「ん?
 わらわの花や小鬼共の反応が……
 そうか、貴様じゃな?」

「え?いや、突然襲われたというか」

「償うが良い」

 会話できる状態にない!
 お姉さんの目がブゥンと赤く光った刹那、巨大な鎌の様な風刃が、首筋を狙って襲いかかる!

 あっぶねっ!
 間一髪、【転移】で距離をとる。
 急ぎ【風の付与魔法ウィンドエンチャント】【火の付与魔法ファイアエンチャント】を掛け、お姉さんに向けて魔法陣を展開、臨戦態勢をとった。

「今のを避けるとは、少しはやるようじゃの」

 お姉さんがぶつぶつと何かしら呟くと、左右の木々から、多数の枝が伸びてくる。

火壁ファイアウォール】発動!

 しかし、数本の枝は火の壁をもろともせず突き抜けて巻き付いてくる!

「え?そんなっ!」

 手足をばたつかせもがいていると、お姉さんの周りに、いつの間にか複数の黒い穴が空いていた。
 その黒穴から、鋭い槍が多数生えてくる。
 何だ、アレは?

「【闇の魔槍ダークジャベリン】食らうがよい」

 このままじゃマズイ!

時間遡行クロノスフィア

 強い!このお姉さん!
 時間を戻さなければ死んでいた。
 戦闘が始まる直前に時を戻し、次はこっちから先に仕掛けてやる。

「償うが良い」

「お姉さんごめんなさい!」

火の魔槍ファイアスピア

 お姉さんの使った魔法を真似して発射してみる。
 これは躱せないだろう。

 ズドドドドッ!

 直撃したと思ったら、霧がモヤモヤと漂っていた。
 え?霧になって無効化?
 そんなんアリか?
 霧が集まり、再びお姉さんの姿形に実体化していくじゃないか。

闇の拘束ダークバインド

 既にお姉さんの次なる【魔法】が発動していたようだ。
 黒い鎖環が、俺の両手両足をきつく縛り上げる。

「グググ……」

 付与魔法でガードしてる筈なのになんでこんな簡単に食らう?
 魔法の力量差?

闇の召喚術ダークサモン

 お姉さんの魔法陣から、悪魔を象った黒い影が現れ、それは凄まじいスピードで、俺に向かって襲いかかってきた。

【転移】発動、間一髪避けれたが、お姉さんはすでにこちらに向けて魔法を発動済みだ。
 常に先手を取られている。

「【闇の追跡弾ダークバレット】」

 黒い弾丸が【転移】を繰り返す俺に、その都度軌道を変え、無限に追ってくる。
時間遡行クロノスフィア】を発動するのは簡単だが、何とか突破口を見付けたい。
 一体どうしたら?あ、しまった!
 召喚された影に後ろから羽交い締めにされてしまい、身動き取れない俺目掛けて、追跡する弾丸が迫る!

時間遡行クロノスフィア

 結局、時間を戻してしまった。これではいつまで経ってもお姉さんを攻略できない。
 何か対抗手段はないだろうか?
【闇系魔法】を多用する相手には、【光魔法】?試してみるか。

光の防壁ライトウォール】【光の矢ライトアロー】発動!

「償うが……」

 台詞中に申し訳無いが先制攻撃だ!
 お姉さんに光の矢が突き刺さる!
 今回も霧となり回避されるが、もう実体化するタイミングは分かっている。

 お姉さんの背後に【転移】し、光の壁を創り出し実体化した瞬間に閉じ込めた。
 咄嗟に振り返るお姉さんの顔は驚愕に満ちている。
 更に魔法陣を発動し追撃!

光の聖槍ホーリーランス

 回避もできず、次々と襲い掛かる光の衝撃が、お姉さんを何度も貫き小爆発を繰り返す。
 ついにお姉さんは頭をがっくりと下げて動かなくなった。終わったか?

「ふふふ、森の魔女にこれだけのダメージを与えるとはやるではないか」

 ムクリと起き上がるや、目を見開き、俺に眼光を飛ばす。

闇の魅了チャーム……
時間遡行クロノスフィア】発動!

 今のは魅了状態にされる魔法だ。
 危ないとこだった。
 状態異常系にはもう正直掛かりたくはない。
 先に仕掛けてやる!

「ふふふ、森の魔女に、む?貴様!?」

闇の魅了チャーム】発動!

「な…………
 先に魅了を……かけるとは……」

「魔女に魅了が効くわけが……ない……」

 効かないのか?辛そうに見えるが。

「くう……貴様、もしや時間干渉しておるな?」

 お姉さんは魅了に耐えながら、話掛けてくる。

「え?」

 どうして分かったんだ?そもそも分かるものなのか?

「やはりそうか。
 ええい、負けじゃ負けじゃ、わらわの負けじゃ!
 好きにいたせ!」

 え?負けを認めるの?全然勝った気しないんだけど。

 お姉さんの目がとろんとしている。魅了状態になったのかな?

「貴様……名は?」

 魅了状態なのに貴様呼びなんだ!

「テツオです。ワタライテツオ」

 俺はこの世界で初めて自己紹介をした。
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