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第一章:神の裁きは待たない
1ー2.婚約披露の儀
しおりを挟む「おめでとうございます!」
「おめでとうございます、アルフェルト殿下」
「おめでとうございます、ピリア・ゾール侯爵令嬢」
「ご婚約、おめでとうございます!」
王城の大広間を見下ろせる大階段。
その一番上で、誇らしげに紅潮した顔をしたアルフェルトのエスコートを受けて、歓声に笑顔で応える。
中央大陸で最も栄華を誇るゲイル王国。各国と難しい交易条約を取り付け、国と国がゲイル王国を介して繋がっていた。『世界中の素晴らしい物は一度はゲイルを通って手元に届く』と謳われる中央大陸の華だ。
そんなゲイル王国の王都は、今日という日に沸いていた。
王太子が唯一である最愛との愛を成就させ、正式に婚約を結ぶことができたのだから。
愛を育んだ王太子の下、きっとゲイル王国はより華やかに栄えていくと王都に住む者は誰もが信じていた。
今、民衆の前で披露するのはピア・ポラス子爵令嬢としての覚束ないカーテシーではない。
栄えあるゾール侯爵家の二女ピリアとして、この国の王太子の婚約者として相応しい、完璧な所作で行うカーテシーだ。
「今日、こうして私アルフェルト・ゲイルが自身で選んだ婚約者を、皆に披露できることを嬉しく、そして誇らしく思う。私は、この国の王太子として、この愛しいピリア・ゾール侯爵令嬢と共に、次代のゲイル王国を、より一層輝けるものとする未来を創っていくことを誓う。この婚約を祝福して欲しい」
横で控えめに頭を垂れていたピアだったが、アルフェルトがその背中をそっと触れると、促されるように顔を上げた。今日、ついに正式な婚約者として立った愛しい王太子を見上げるその顔は輝くばかりの笑顔で、思い合う若い二人のその表情に、どこか硬い表情であった者も苦い思いを飲み込むことにしたのだ。
どれだけ納得がいかなかろうとも、すでに王太子の婚約者の座は空白になってしまっている。
そう。元の婚約者リタ・ゾール嬢は、当時ポラス子爵令嬢であったピア嬢への妬心から間違った行いにおよび、それを咎められると自らの罪から逃れるようにして自死を選らんでしまったのだから。
どれだけ元の婚約者の令嬢の評判が悪かろうとも正式な婚約者の愚かな行いを諭すこともせず、次代の王国の指導者たるべくお互いを尊重することもせずに十年という長い月日を無駄に過ごした挙句、最後には他の令嬢へ心を移すという最悪の醜聞沙汰を起こしてしまったのは王太子自身である。
元の婚約は王太子側の有責により白紙になってしまった。
ゾール侯爵家のメンツも立てねばならない。元の婚約者の家であるゾール侯爵家が擁立した新しい婚約者候補がそこに座ることに、一体誰が異議を唱えられるというのだろう。
割れんばかりの拍手と荘厳で華やかなオーケストラの演奏。
祝福の音に包まれて、晴れて婚約者となった若い二人は、お互いの幸せそうな顔をその瞳いっぱいに写し込んで見つめ合う。
そのまま大広間の中央へと二人は歩み出ると、軽快なステップでファーストダンスを披露する。
「思いの外、お似合いね」
「ドレスの裾捌きも、ダンスも素晴らしい」
「さきほどからの所作も、なかなかでしたわ」
「さすがはゾール侯爵家というところか。きちんと仕上げてきている」
勝手気ままに査定を下す見物人たちの声も概ね高評価だ。
美しく有能であった元婚約者は、けれどもその冷たさで有名であった。
王太子がどれほど笑い掛けようとも、にこりともせず、どこかへ連れ添って出掛ける事も見受けられなかった。
国の指導者が冷たい結婚をした場合、その差配自体が冷たいものになり勝ちだ。
今のゲイル王国は平和だ。戦争ももうずっと行っていない。政治的に安定しているといえる。
有能なだけの冷たい心の持ち主である王妃を戴かなくて済んで良かったのかもしれない。
悲劇からたった半年しか経っていないが、こうして作り物ではない笑顔で婚約者を見つめる王太子が踊る姿を見つめる誰もが、この国の明るい未来を信じた。
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