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第六章 ハンカチ屋奪還作戦

馬車の中で

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ロダンさんの迎えの馬車には、私とリーナ、ニムルスで乗り込んだ。エリサさんは、私たちについてくるわけではないようだ。何やら街道の外れに消えていった。

夜になってから、店を出るのは久しぶりだ。
あの、ロダンさんの家に帰ろうとした時の襲撃以来。
もうどれくらい経っただろう。私は随分と長いこと、私の一族で誰よりも安全な場所、リーナの家で寝泊まりさせて頂いている。

行き先は、わたくしの実家、ハルデンツェルト公爵家。

心臓が跳ねる。馬車を襲われた時のことが脳裏に蘇る。
来る。きっと、来る。確信があった。
ニムルスは、リーナと相変わらずなんでもないことを話している。



がたんと馬車が止まる。嫌な予感がした。

「来たわね」

「ああ、だが少ない。三人くらいか?全員で出よう」

え、ここは公爵令嬢のわたくしを守るべく皆さんが。

「ロザリー?あなたも一人、ノルマね」

にやりと嗤うリーナは、いつもの押しの強い眼差しで私を射抜いた。

いや相手の狙い私よ!?
言い返そうにも、リーナの意見を曲げることができる人間は少ない。私は当然その中には入っていない。くぅ、悔しい。


……もう、やればいいんでしょ!今は魔法だって、剣だってあるのよ!


近づくのは怖いから、魔法で瞬殺してやる!


「……万物に宿る炎の精霊よ……我が呼び声に応えてその力を示せ……我が名の元に命ずる」

事前に詠唱をする。

リーナとニムルスが冷ややかな目線で私を見た。

「あのさ……それ、いらねぇからな?ただの趣味ならやめといた方がいいぞ」

う。でも、私はこれがないと。

「やりにくいのよ……。イメージしづらいの」


「まあ、なんでもいいわ。いくわよ!」

腰に刺した二本の細めの剣。エリサさんと同じスタイルの装備の剣をすらりと慣れた動作で抜いたリーナは、ばっと一番に馬車を飛び出した。大きな剣を背負っていたニムルスも出て行く。


うう、わたくしも行かなければ。

そっと馬車を出ると、前方にリーナ、後方にニムルス。それぞれ黒い服の人間と戦っている。


そこに、すっと脇道から現れる黒いフードの男。
三人目。わたくしが相手をする人間か。


「馬車から出てくるとは……危機感がないのかな、お嬢さん」

にやりと笑う口元には、余裕が見て取れた。

その余裕を、粉々にしてあげるわ!!


「ファイヤーボール!」

杖の先から、拳大の炎が黒フードの男に向かって放たれる。着弾すると炎は大きく燃え上がり、男は慌ててローブを脱ぎ捨てた。 


中に身につけている薄手の鎧も、顔を隠している鉄製の兜も焦げてボロボロだ。ちょっと殴れば砕けそう。

「お嬢さん……抵抗はしない方が痛い目をみなくて済むぞ?」

すらっと抜き放たれた剣は、街中でも不利にならない短めの湾曲した剣だった。首を搔き切るための形状に見える。おお、いいもの見た。


……なんにしても、やることは一緒よね。



私は馬車のそばの地面を踏みしめる。じゃりと感触を確かめると、一気に突撃した。

上段の構え。相手の間合いに入る前に、一気に。


ごっ。


その上段からの、剣道で言う面の動き。リーチはこちらが長い。身体強化のおかげで相手の動きも遅くはっきりと見える。
その日わたくしは、この街の石畳に、2つ目の亀裂を入れた。


近くで、気を失った男たちをそれぞれ引きずったリーナとニムルスが、にやにやとこちらを見ていた。


……終わってるなら手伝ってよ。わざとだよね絶対。
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