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第五章 婚約志望者の秘密
6.ハンカチ会議 3
しおりを挟むふぅ、と、カイルがため息をついた。
「そんな苦労してるなんて知らなかった。ハンカチ作るとき、ずっと部屋で一人だったんだな、あいつ」
やけにいっぱい持ってると思ってたんだ。
その発言に、みんながしんみりした。
カイルのいいところは、こういう、すれてないところだ。
なんだかこころが和らいでいた。
だからだったのか。
その後の爆弾発言を、俺は予想できなかった。
「狙われるから、アリスの母ちゃんはわざと太ってたのかな。一回見たことあるんだけどさ、すごい丸かったぜ、アリスの母ちゃん」
……丸い?
まずい。カイルがアリスの母親を見たことがあるなんて知らなかった。気づかれませんように。
「そういえば最近、ころころした体型のひとが教会をうろうろしてるよね?アリスがいなくなったのとおんなじくらいのときだったかなぁ」
リーナ!頼むから気づかないでいてくれ!!
カイルの目がきらきらしてきた。まずい。どうしよう。
「リーナ、カイルも。教会で働く方のことを、あれこれ詮索するものではありませんよ。大体、複雑な事情を抱えているものなの。聞かれるだけで、とても心の辛い思い出がある方もいらっしゃるのよ」
……エリサさん、ナイス!
こっちをちらと見て、エリサさんは小さく頷いた。
あ、これ、親父、エリサさんとディアスさんには多分話してるな。強い味方ができた。
ほっとした俺は、でも、甘かった。
「人の秘密を知りたい時、正面から聞いてもまず教えてくれないわ。まずは、少しずつ毎日の積み重ねで仲良くならなければ。ふふ、私もたまに教会にお祈りに行ってみようかしら」
……一枚噛んできたよエリサさん!!
「ああ、そうだな。俺も行こう。教会は……手は出しにくいが、人の出入りは多いからな。逃げ場所としても思いつきやすい。俺は、司祭と少し話がしてみたい」
……二枚目噛んできたよディアスさん!?
「はっはっは。そうか、リーナは、ころころしてるその人が気になるのか。かわいいリーナのためなら、ひと肌脱がねばならんな。なぁ、ニムルス?」
……三枚目噛んできたけど目立つなって言ってたよな親父??
「まあ、そういうわけで、大人にとりあえず任せなさい。あなた達はできるだけ今まで通りに過ごすこと。ロザリーは、よくよくご実家と相談なさいね」
あ。そういうことか。俺らがへましないように、出てきてくれるんだ。
申し訳ない。ありがたい。ちょっと肩の荷が下りた。
リーナと、ふと目が合う。にやにやしている。
あ、こいつ、俺がはらはらしてるの、気づいてたな。くそ。かっこわるいとこ見せたくないのに。
「多分、全く会えないわけではないわ。まだわからないけれど、直接本人に会える日を、なんとか探してみますからね。みんな安心してちょうだい」
とりあえず、それで今日の会議はおしまいになった。
エリサさんは、そのあとちゃっかりしっかり、お店を開店させていた。
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