上 下
76 / 110
第五章 婚約志望者の秘密

6.ハンカチ会議 3

しおりを挟む

ふぅ、と、カイルがため息をついた。

「そんな苦労してるなんて知らなかった。ハンカチ作るとき、ずっと部屋で一人だったんだな、あいつ」

やけにいっぱい持ってると思ってたんだ。
その発言に、みんながしんみりした。

カイルのいいところは、こういう、すれてないところだ。
なんだかこころが和らいでいた。
だからだったのか。

その後の爆弾発言を、俺は予想できなかった。


「狙われるから、アリスの母ちゃんはわざと太ってたのかな。一回見たことあるんだけどさ、すごい丸かったぜ、アリスの母ちゃん」


……丸い?

まずい。カイルがアリスの母親を見たことがあるなんて知らなかった。気づかれませんように。


「そういえば最近、ころころした体型のひとが教会をうろうろしてるよね?アリスがいなくなったのとおんなじくらいのときだったかなぁ」


リーナ!頼むから気づかないでいてくれ!!

カイルの目がきらきらしてきた。まずい。どうしよう。


「リーナ、カイルも。教会で働く方のことを、あれこれ詮索するものではありませんよ。大体、複雑な事情を抱えているものなの。聞かれるだけで、とても心の辛い思い出がある方もいらっしゃるのよ」


……エリサさん、ナイス!

こっちをちらと見て、エリサさんは小さく頷いた。
あ、これ、親父、エリサさんとディアスさんには多分話してるな。強い味方ができた。

ほっとした俺は、でも、甘かった。


「人の秘密を知りたい時、正面から聞いてもまず教えてくれないわ。まずは、少しずつ毎日の積み重ねで仲良くならなければ。ふふ、私もたまに教会にお祈りに行ってみようかしら」

……一枚噛んできたよエリサさん!!


「ああ、そうだな。俺も行こう。教会は……手は出しにくいが、人の出入りは多いからな。逃げ場所としても思いつきやすい。俺は、司祭と少し話がしてみたい」

……二枚目噛んできたよディアスさん!?


「はっはっは。そうか、リーナは、ころころしてるその人が気になるのか。かわいいリーナのためなら、ひと肌脱がねばならんな。なぁ、ニムルス?」


……三枚目噛んできたけど目立つなって言ってたよな親父??


「まあ、そういうわけで、大人にとりあえず任せなさい。あなた達はできるだけ今まで通りに過ごすこと。ロザリーは、よくよくご実家と相談なさいね」


あ。そういうことか。俺らがへましないように、出てきてくれるんだ。
申し訳ない。ありがたい。ちょっと肩の荷が下りた。


リーナと、ふと目が合う。にやにやしている。
あ、こいつ、俺がはらはらしてるの、気づいてたな。くそ。かっこわるいとこ見せたくないのに。


「多分、全く会えないわけではないわ。まだわからないけれど、直接本人に会える日を、なんとか探してみますからね。みんな安心してちょうだい」


とりあえず、それで今日の会議はおしまいになった。

エリサさんは、そのあとちゃっかりしっかり、お店を開店させていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

【完結】公爵令嬢は王太子殿下との婚約解消を望む

むとうみつき
恋愛
「お父様、どうかアラン王太子殿下との婚約を解消してください」 ローゼリアは、公爵である父にそう告げる。 「わたくしは王太子殿下に全く信頼されなくなってしまったのです」 その頃王太子のアランは、婚約者である公爵令嬢ローゼリアの悪事の証拠を見つけるため調査を始めた…。 初めての作品です。 どうぞよろしくお願いします。 本編12話、番外編3話、全15話で完結します。 カクヨムにも投稿しています。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

転生したら攻略対象者の母親(王妃)でした

黒木寿々
恋愛
我儘な公爵令嬢リザベル・フォリス、7歳。弟が産まれたことで前世の記憶を思い出したけど、この世界って前世でハマっていた乙女ゲームの世界!?私の未来って物凄く性悪な王妃様じゃん! しかもゲーム本編が始まる時点ですでに亡くなってるし・・・。 ゲームの中ではことごとく酷いことをしていたみたいだけど、私はそんなことしない! 清く正しい心で、未来の息子(攻略対象者)を愛でまくるぞ!!! *R15は保険です。小説家になろう様でも掲載しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約破棄は踊り続ける

お好み焼き
恋愛
聖女が現れたことによりルベデルカ公爵令嬢はルーベルバッハ王太子殿下との婚約を白紙にされた。だがその半年後、ルーベルバッハが訪れてきてこう言った。 「聖女は王太子妃じゃなく神の花嫁となる道を選んだよ。頼むから結婚しておくれよ」

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

二度目の人生は、幸せに

ダンデライオン
恋愛
婚約者を奪われた公爵令嬢は、相手の男爵令嬢を毒殺しようとする。 だが、それは失敗に終わり婚約を解消された。 罪を犯した公爵令嬢は、小さな屋敷で監禁される。 風邪を拗らせて、あっさりと亡くなった公爵令嬢は、二度目の人生で幸せになれるのか? ※なろうさんでも公開中です。 無断転載禁止です。 番外編を追加しました!読者様への御礼番外編です。 暇つぶしにでもどうぞ!登録作品から見れます!

処理中です...