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第三章 わんわん君の断罪は遅れてやってくる

7.剣術の授業

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「おい、犬。おまえ、飼い主のとこで尻尾振って働いてるんだって?」


ざりっと、安物の靴底が地面を擦る。
教会の南側の広場でかまえを取りながら、俺を挑発してきた奴。鍛冶屋の三番目の子供、ザムだ。

家業を継ぐのは上の兄ちゃんがいるから、外で仕事を探さないといけない。
冒険者か、兵士か。運良くどこかで見習いになれたらいいけど、こいつや俺みたいな力自慢は、たいていどちらかになる。

つまりは、俺のライバルだ。

これまで、こんなこと言って来なかったのに。なんだよ。

「うるせえ!俺は犬じゃねえ!!」


ぶん、と、上段から木の剣を振り下ろす。
ザムは、剣の腹でそれを受け止める。が、どさっと地面にしりもちをつく。

あれ?こいつとは、力はおんなじくらいなのに。


「ぐっ……なんだよ!リーナのこと殴ったくせに、今更手伝いなんかしやがって!気に入られてぇんだろ!やっぱ犬だ!わんわん言ってみろ!!」


ザムの顔がちょっと赤くなった。悔しいのか?

「うるせえよ!おれは、おれは、わるいことはちゃんと謝るんだ!街を守る兵士になるんだから!!」


ふっ、と、ザムは口の片方を吊り上げて起き上がり、俺を睨む。
ぶん、と、剣を横腹に凪いでくる。俺は難なく受け止めた。
あれ?手応えが、違う。


「何言ってんだよ!もう半年も前のことじゃねえか!ご主人様に近づきたいだけなんだろ!?この色ボケが!兵士になんかなれるか!!」


がんがんがん、ザムは真っ赤になって何回も打ち込んでくる。
でも、あれ?勝ったり負けたりしてた相手なのに、なんか、軽く流せるぞ?

ていうか、なんでそんなにリーナにこだわんの?
お前も、ひそひそ悪口言ってたじゃねえか。


「……なぁ、お前もリーナのこと、いんらんだとかいんばいおんな?とか、よくわかんねぇけど色々言ってたと思うんだけど……なんでそんなにこだわるんだ?」


がん!ザムの蓮撃が、止まる。
切り結んだままの体勢で、じっとザムの黒い目を、見てみた。ゆらゆら、揺れている。

「……それは!ロザリーがついた嘘だったじゃんか!店に行ったらほんとにふつうだったんだよ!
あんな、か、かわいいんだから、尻尾振ってんだろお前!?気にいらねぇんだよ!!ふぬけってやつだ!おまえは、ふぬけ、だ!」


ぐぬ、と、口を引き結んでまた、ザムは剣を俺に振るう。
顔は、真っ赤だ。なんかちょっと涙目だ。いつも互角なのに、一撃も入んないからなのか、それとも。


「……おまえ、リーナのこと、好きなのか?」


ザムはついに耳まで真っ赤になった。
闇雲に剣を振ってくる。そんなんじゃ当たんねぇよ。


はあ。体、痛ぇんだけど。
しょうがねぇから、一撃でのしてやった。

今度、話、聞いてやろう。
うん、そうしよう。


周りのやつらが、手を止めてこっちを睨んでるのは、気のせいだ。うん。気のせいだ。
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