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第一章 ヒロイン視点 悪役令嬢の断罪
12.神様の罰、それまでの罪
しおりを挟む神様の罰。
それは、己の心が己を苦しめるものだと、司祭様は言う。
それも、一つの対策かもしれない。
大人になって、取り返しのつかない過ちを犯すまで直さないであげるのも、いい仕返しなのかもしれない。
でもその間、その犠牲になる人たちはどうなるの。
その人が間違いに気づくその時まで、傷つきつづけるたくさんのひとたちのおもいはどうなるの。
また、黒いどろどろが少し盛り返した。
司祭様。違う。ちゃんと怒らないと、伝わらない時も、ある。
教義ができた太古の昔は、戦争も、暴力も、報復も、日常だった。簡単に人が死ぬ世界だった。だから、罪を償えといって人を殺したら、その殺した人がまた殺される、連鎖が起こる。
そんな時代には、画期的だったと思うよ。
でも、平和的に伝えられるなら。
嘘の噂を流したその罪を、明らかにしてもいいと思う。神様なんか待ってたら、次の犠牲者が出てしまう。
ぐるぐるぐる。黒い気持ちが盛り返してきた。
「リーナ、その傷は自分で治せますね?」
こくりと頷く。
まだ習っていない、最上級生しか使えない治癒魔法。しかも適性がなければできないそれは、私には簡単なことだ。
手を当てて少し集中する。すうっと傷は消えた。
「……うそ」
あ、教室を出ようとしていた女の子だ。
うん、君は多分中立だから、許す。
ロザリー以外には、なんだか寛大な気分なんだ。
「あ、魔法は習ってないのも一通り使えるよ。何か困ったら言ってね?」
振り返って、にっこりと微笑んでやった。ロザリーにも見えるように。
ぐぎぎぎ、と、手元でハンカチを引っ張っているロザリーは、先生の前で事を起こす気はないようだ。
また、ふう、と、司祭様がため息をついた。
「……リーナ、あなたは、もう専門校に行った方がいいかもしれません。
商学校や冒険者養成所、貴族が通う学校にも特別生として、あなたなら私が口利きはできますが……」
「お父さんが、この学校に行けと言ってたので。相談しないとわかりません」
「……わかりました。では、授業を始めます。それで、よいのですね?」
こくり。頷く。机のことは、まあ、なんだかどうでもよくなっていた。
司祭様の、もう知っている話をつらつらと聞きながら、窓辺をそっと見遣る。
ニムルスは、こちらを見て、にやっと笑った。
黒いどろどろは、あいつに蓋をされて抑えられているみたいだ。
カラムだけじゃない。どろどろが活躍できなかったのは、あいつのせいだ。
目があって、笑顔を向けられる。
はじめての、教室での私の味方。
それだけで、黒いものはすうっと奥にしまわれた。
悔しいけど、そのあとしばらく、出ては来なかった。
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