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第一章 ヒロイン視点 悪役令嬢の断罪
6.開戦
しおりを挟むひどい悪口は、聞こえるようにたくさん言われてきたけれど。
今まで、ほんとうに手を出されたことはなかった。
教室の入り口で、呆然と佇む。
くすくすくす、と、笑い声が聞こえてきた。
おしごとたいへんだもの、おべんきょうなんてつかれることさせちゃかわいそうよ。
そうね、よるのおしごとは、とてもつかれるものね。
うん、つかれているのだから、むりさせてはかわいそうよ。
くすくす、そうよ、かわいそうだわ。
まいにち、たいへんなのにね。
かわいそうだから、おうちでおやすみしていたほうが、いいんだよね。
そうだよ、よるにそなえて。
くすくす。くすくすくす。
ばかのささやきがきこえる。
座る場所が、ない。
もうすぐ、司祭様が来る時間だ。
「ねえ、私の机、知らない?」
語りかけてみた。返事がないことはわかっていた。
みんなが、私の周りを囲んで黙って見ている。
見せもんじゃねえよ。
どろどろどろ、黒い気持ちが渦になって、私は真っ黒になった。
うん、多分、中身をかぱっと開けることができるなら、真っ黒い塊が出てくるだろう。
さて、どうしようか。
もう帰ろうかな。ずっと店から出ないで過ごしたら、こんなどろどろには付き合わなくていい。
学校になんか来なかったら、私は、ずっとお店で幸せに過ごせる。みんないい人たちだ。
でも、なんだか逃げるみたいで、とても悔しい。
私は何もわるいことしてないのに。
大好きなお父さんとお母さんは、私にそんなことさせないのに。
うちのお客さんは、そんな、いやなことなんかしないのに。
座る場所が、ない。
なんでか、カラムの言葉を思い出した。
「違いねえ。お前は、強い。同じ年の子の中じゃ、きっとこの街で一番な。大丈夫だな」
そうだ。私は、この中で、一番、強いんだ。
だんだんだんと、荒い足音を立てて、教室の奥に歩いていく。
そう、空いてるじゃないか。ひとつ、席が。
だん、だん、と、段差を登る。
よいしょ。やっぱり、椅子がちょっと大きいな。うん、でも、ちゃんと座れる。
教壇は、二段程高い位置に据えられている。
その先生用の椅子に座ると、教室内がよぉく見えた。
うん、よく見えるねほんとに。見えるってことは見られてるってことなんだけど。
にやりと周りを見回すと、教室はしんと静まり返った。
ばかな奴らなんか怖くない。
弱いやつらなんか、怖くない。
私の黒いどろどろが、広がるといい。真っ黒い気持ちが、少しでも、移ればいい。
あつまらないと何もできないばかなやつらは、教壇に座る私を見て、しんと静まり返った。
さあ、来い。弱虫どもめ。
絶対に後悔、させてやる。
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