眠り姫

虹月

文字の大きさ
上 下
7 / 21
第1章

第四話 ひらりひらり

しおりを挟む




 愛らしい薄桃の花を咲かせた木々の隙間から、ほろほろこぼれる穏やかな日差しを浴びながら、ひらりひらり目の前を揺蕩う花びらをそっと掌に載せて眺める。辺りは静けさに包まれて、俺の他に人の気配はない。あるのは、春の訪れた暖かい春風だけだ。
 人が居ないことをいいことに、俺は窮屈な首元のループタイを取り払って喉元のボタンを外した。解放されて涼しくなった喉を春風が撫で、目を細める。
 暖かな陽気に春の誘われて、ふらふらと校門をくぐるとすぐ傍にちょうどいい噴水があった。

 噴水を囲む石壁に座ると、瞼が自然と重くなっていく。

「――すこしぐらい、いいかな」

 ぽつりと呟いた言葉は、優しく吹き抜けた春風と共に溶けて消えた。





「――っ、大丈夫ですか?」
「…――?」

 腕を強く引っ張られた感覚と一緒に、意識が引き上げられて俺はうっすらと重たい瞼を開けた。誰だろう。覚醒仕切らない頭では、相手の顔はぼんやりとしていて輪郭が捉えられない。
 ああ、でも確か家を出る前に千景ちかげが迎えを寄越すから、絶対・・にそこから動くなと言っていた気がする。…あれ、でもなんで千景は俺がどこに居くかも分からないのに場所が分かったんだ。ふふ、千景は不思議だ。
 
「……ちかげ」

 きっと、迎えに来てくれたのは千景だ。千景は俺が迷子の時、必ず俺を見つけ出してくれる。
 安心感ととろりと微睡む意識に思考はぼんやりと薄れ、そのまま俺は千景に凭れ掛かるようにして再び瞼を閉じた。
 千景は俺を抱えると歩き出す。歩く度に身体は揺れ、その振動が心地よく揺り籠のようだった。
 そして俺は、生まれ育って初めて、校舎に足を踏み入れた。


 そう言えば、瞼が閉じる前に見えたローズグレーの髪。
 あの髪色の持ち主は一体誰だったんだろう。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無自覚美少年のチート劇~ぼくってそんなにスゴいんですか??~

白ねこ
BL
ぼくはクラスメイトにも、先生にも、親にも嫌われていて、暴言や暴力は当たり前、ご飯もろくに与えられない日々を過ごしていた。 そんなぼくは気づいたら神さま(仮)の部屋にいて、呆気なく死んでしまったことを告げられる。そして、どういうわけかその神さま(仮)から異世界転生をしないかと提案をされて―――!? 前世は嫌われもの。今世は愛されもの。 自己評価が低すぎる無自覚チート美少年、爆誕!!! **************** というようなものを書こうと思っています。 初めて書くので誤字脱字はもちろんのこと、文章構成ミスや設定崩壊など、至らぬ点がありすぎると思いますがその都度指摘していただけると幸いです。 暇なときにちょっと書く程度の不定期更新となりますので、更新速度は物凄く遅いと思います。予めご了承ください。 なんの予告もなしに突然連載休止になってしまうかもしれません。 この物語はBL作品となっておりますので、そういうことが苦手な方は本作はおすすめいたしません。 R15は保険です。

気にしないで。邪魔はしないから

村人F
BL
健気な可愛い男の子のお話 , , , , 王道学園であんなことやこんなことが!? 王道転校生がみんなから愛される物語〈ストーリー〉 まぁ僕には関係ないんだけどね。 嫌われて いじめられて 必要ない存在な僕 会長 すきです。 ごめんなさい 好きでいるだけだから 許してください お願いします。 アルファポリスで書くのめっちゃ緊張します!!!(え) うぉぉぉぉぉ!!(このようにテンションくそ高作者が送るシリアスストーリー💞)

主人公は俺狙い?!

suzu
BL
生まれた時から前世の記憶が朧げにある公爵令息、アイオライト=オブシディアン。 容姿は美麗、頭脳も完璧、気遣いもできる、ただ人への態度が冷たい冷血なイメージだったため彼は「細雪な貴公子」そう呼ばれた。氷のように硬いイメージはないが水のように優しいイメージもない。 だが、アイオライトはそんなイメージとは反対に単純で鈍かったり焦ってきつい言葉を言ってしまう。 朧げであるがために時間が経つと記憶はほとんど無くなっていた。 15歳になると学園に通うのがこの世界の義務。 学園で「インカローズ」を見た時、主人公(?!)と直感で感じた。 彼は、白銀の髪に淡いピンク色の瞳を持つ愛らしい容姿をしており、BLゲームとかの主人公みたいだと、そう考える他なかった。 そして自分も攻略対象や悪役なのではないかと考えた。地位も高いし、色々凄いところがあるし、見た目も黒髪と青紫の瞳を持っていて整っているし、 面倒事、それもBL(多分)とか無理!! そう考え近づかないようにしていた。 そんなアイオライトだったがインカローズや絶対攻略対象だろっ、という人と嫌でも鉢合わせしてしまう。 ハプニングだらけの学園生活! BL作品中の可愛い主人公×ハチャメチャ悪役令息 ※文章うるさいです ※背後注意

嫌われものの僕について…

相沢京
BL
平穏な学校生活を送っていたはずなのに、ある日突然全てが壊れていった。何が原因なのかわからなくて気がつけば存在しない扱いになっていた。 だか、ある日事態は急変する 主人公が暗いです

悪役令嬢に転生したが弟が可愛すぎた!

ルカ
BL
悪役令嬢に転生したが男だった! ヒロインそっちのけで物語が進みゲームにはいなかった弟まで登場(弟は可愛い) 僕はいったいどうなるのー!

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが

松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。 ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。 あの日までは。 気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。 (無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!) その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。 元日本人女性の異世界生活は如何に? ※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。 5月23日から毎日、昼12時更新します。

お迎えから世界は変わった

不知火
BL
「お迎えに上がりました」 その一言から180度変わった僕の世界。 こんなに幸せでいいのだろうか ※誤字脱字等あると思いますがその時は指摘をお願い致します🙇‍♂️ タグでこれぴったりだよ!ってのがあったら教えて頂きたいです!

処理中です...