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第1章
第四話 ひらりひらり
しおりを挟む愛らしい薄桃の花を咲かせた木々の隙間から、ほろほろこぼれる穏やかな日差しを浴びながら、ひらりひらり目の前を揺蕩う花びらをそっと掌に載せて眺める。辺りは静けさに包まれて、俺の他に人の気配はない。あるのは、春の訪れた暖かい春風だけだ。
人が居ないことをいいことに、俺は窮屈な首元のループタイを取り払って喉元のボタンを外した。解放されて涼しくなった喉を春風が撫で、目を細める。
暖かな陽気に春の誘われて、ふらふらと校門をくぐるとすぐ傍にちょうどいい噴水があった。
噴水を囲む石壁に座ると、瞼が自然と重くなっていく。
「――すこしぐらい、いいかな」
ぽつりと呟いた言葉は、優しく吹き抜けた春風と共に溶けて消えた。
「――っ、大丈夫ですか?」
「…――?」
腕を強く引っ張られた感覚と一緒に、意識が引き上げられて俺はうっすらと重たい瞼を開けた。誰だろう。覚醒仕切らない頭では、相手の顔はぼんやりとしていて輪郭が捉えられない。
ああ、でも確か家を出る前に千景が迎えを寄越すから、絶対にそこから動くなと言っていた気がする。…あれ、でもなんで千景は俺がどこに居くかも分からないのに場所が分かったんだ。ふふ、千景は不思議だ。
「……ちかげ」
きっと、迎えに来てくれたのは千景だ。千景は俺が迷子の時、必ず俺を見つけ出してくれる。
安心感ととろりと微睡む意識に思考はぼんやりと薄れ、そのまま俺は千景に凭れ掛かるようにして再び瞼を閉じた。
千景は俺を抱えると歩き出す。歩く度に身体は揺れ、その振動が心地よく揺り籠のようだった。
そして俺は、生まれ育って初めて、校舎に足を踏み入れた。
そう言えば、瞼が閉じる前に見えたローズグレーの髪。
あの髪色の持ち主は一体誰だったんだろう。
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