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ハロウィンの夜 9

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 カァッと顔が熱くなる。何って……ドッキングを……。

 挿入は上手くいかないけど、あなたとそういう関係になりたいのよ。情けなさで鼻がツンと痛くなる。ぎゅっと唇を噛んで涙を堪えた。

 汗びっしょりでこちらを凝視していたネイサン。彼が何か言おうと口を開きかけたその時、閃いた。

 そうだわ! ネイサンは大人だもの。私より分かっているはず。

「ネイサン、命令よ。私と性交なさい」

 ネイサンの息が、一瞬止まったかに見えた。

「……お嬢様、ご自分が何をおっしゃっているか分かっておられるのですか?」

 ぞくっとなる。

 ネイサンから、表情が抜け落ちたからだ。いつもと違う意味で読めない。怒りとも侮蔑とも焦燥とも取れた先程までの、感情むき出しのネイサンでは、なくなったのだ。

 口を引き結んでいるから、もちろん笑っている訳じゃないのは分かる。

 不安になるからやめて。揶揄するような笑みでいいから、笑って欲しい。

「お嬢様を、抱けと?」
「そ、そうよ、私とセ、セックスしなさい」

 はっきり言ったわよ! 命じてやったわ!

 ネイサンは少し間を空けてから問うてきた。

「お嬢様は、私が好きなのでございますか?」

 ぐっと言葉に詰まる。

 好きよ、当たり前じゃない。でも口が裂けても言えない。

 だって彼、主から好きになられたら、辞めちゃうのよ? それなら本末転倒だわ。

 私は、ネイサンの方から、を好きになってほしいの。

 私から離れられないくらい、メロメロになってほしいの。

、私のこと好きなの!」

 ゴリ押し。そうゴリ押しよ。刷り込むの。

 だって彼、魔法の薬を飲んでいるもん。占い婆のくれた惚れ薬をね。

 インチキ薬に頼りたくなるほど、切羽詰まっていた私。

 自覚なさい、このメイベルが好きだと! きっと私から離れられなく──。

「私が、お嬢様を?」

 鼻で笑われた。

 あの婆! ひどいじゃない、何も効いてない。むしろ軽蔑されてない?

 ふと、グレイシーさんを思い出した。ふぇっと嗚咽が漏れそうになる。

 そうだった、太刀打ち出来るはずがない。彼の好みは、ザ・フェロモンよ!

 私みたいなガキんちょ……無愛想で、嫌われものの、可愛くない主なんて、好きになるわけないじゃない。

 私は敗北感に脱力し、ついにネイサンの体の上から降りた。

「……ゴメンナサイ。悪ふざけが過ぎたわ」

 ネイサンは沈黙している。

 解いてあげよう。でも、許してくれるかな? ケツバットされない?

 解くのが怖くてじりっと後ずさると、ネイサンが片眉を上げた。

「……ほう、私めを放置して、逃げるんですか?」

 ビクッとなる。

 放置は、流石にもっと嫌われるわよね。ランス丸出しだし。でも、解放したら何されるか。

「大丈夫、私は使用人でございます」

 ニッコリ笑うネイサン。あ、いつものネイサンだわ。

「お仕置きはしませんから」

 本当に? 本当かしら? なんだか笑顔が怖いわ。

「釘バットで、お尻叩かない?」
「私はサイコパスですか?」

 ネイサンは理性的な人だ。大丈夫、わたし、主だし。

 おずおず近づいて、固く縛った結び目を解く。その作業をしている間、ネイサンはじっと私を見ている。

「シャンデリアの下だと、さらにスケスケですね」

 私の悪魔のコスプレのことだ。

「あ、大丈夫なの、水着なんですって」
「誰がおっしゃったのです?」
「セディが」

 まったく、とため息をつくネイサン。

「さ、これで全部解けた──わ!?」

 腕を掴まれた。ネイサンの表情は、あの飢えた野獣のそれに戻っていた。

「な──放して」

 私は怖くなって、彼から逃れようと腕を振り払う。しかし逆に引きずり寄せられてしまった。

「私は先程お嬢様に、お仕置きをしないと申しあげましたね」
「い、言ったわ、放してよ」

 ネイサンの口の端がきゅーっと吊り上がった。

 悪魔なんていないと思う。例えハロウィンだろうと、そんな伝説の生き物は、出てこないと思っていた。

「あれは、嘘です」

 きっぱり言ってロープを口にくわえ、空いてる方の手でその先を引っ張るネイサンは、まさに悪魔だった。
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