男装令嬢はチャラ艦長の巨根を欺きたい～欲情するなら金をくれ～

終章

神風艦隊出航

　戦列艦というものを初めて目にした時、人は皆同じ反応をするのではないだろうか、と私は思った。

　粛然とした面持ちで、無骨で優美な神風艦隊を見上げ、デタラメな敬礼をしてみる。

　途端、短艇が揺れ、海に落っこちそうになった。


「さて」

　私は他のパウダーモンキーたちと一緒に、舷側の縄梯子を登り始めた。

　少将に見つかったらフルボッコだろうけれど、五百人近くも乗組員がいれば、顔を合わす機会もそうそう無いだろう。

　引き返せない地点まで行ったら、少将に会いに行こう。

　怒られたらこの身体で黙らせてやる。

　おおよそ貴族の令嬢らしくもなことを考えていた時、

「れれ？　これって新しい『東風』じゃないの？」

　私は聞き覚えのある声に立ち止まった。

　振り返ると、他の火薬運びの少年を泣きそうな顔で問い詰めているクラリス・レンブランの姿を見つけてしまう。

「クラリスゥウ!?　あんた何やってんのよっ!?」

　麻のハンチング帽を深く被ったクラリスは、私の顔を見ると目を丸くした。

　そして犬のように喜んですっとんできた。

「やっだぁ、ラファエラったら考えることは同じね？」

　まさか男装して、レンブラン大佐の後を追ってくるなんて。

「あなたには無理だわっ。引き返せるうちに戻りなさいよっ」

　私がキョロキョロと辺りを見渡すと、既に水兵たちが甲板に集まってきている。

　艦長の着任挨拶があるはずだ。

　新しい艦長もいるはずだから、一隻ずつ五人で回るのではないだろうか。

「あら、私の方がよっぽど少年に見えるわよ。オッパイないもの」

　ふくれるクラリス。

　そういう問題じゃないの。

　相変わらずのクラリスの土壇場の度胸に呆れながらも、私は思わず吹き出していた。

　クラリスもクスクス笑っている。

　ほんっと、考えることが一緒なんだもの。

　私たちは抱き合って笑いながら、自分たちの愛おしい人が来るのを待った。

　けして浮気を心配しているわけではない。

　ただ傍にいたいのだ。

「怒られるかな？」

　クラリスがドキドキしながら私に囁く。

　私は青い空ともっと青い海を見つめた。

「怒られるでしょうね。だけど、それがなに？」

　いつだって、自分の生を最善のものにするために行動してきた。

「私たちにとって一番怖いのは、怒られることじゃない」

　彼らと会えなくなることだけ。

　口には出して言わなかったけれど、クラリスには分かったようだった。

「そうね……」

　鼓笛とともに一斉に並んだ水兵たちに倣う。

　もうすぐギグ小舟で艦長たちがやってくる。

　直立して出迎える兵士たち。


　彼らは生き残るだろうか。過酷な海の戦いに。

　そして私たちの夫である艦長たちは、無事に任務を遂行することができるのだろうか。

　見守る私とクラリスの前で、礼装用の軍服を着た艦長たちが次々に登ってきた。

　水兵たちがザッと額の前に手をかざした。

「総員敬礼ーっ！」





完




ご愛読ありがとうございました。



念のため登場人物を載せてみるね？
(ノ゜∇゜)ノ



ラファエラ・ド・メルディアチ……本編主人公
フランシス・ド・メルディアチ……ラファエラの兄
ルチア……ラファエラとフランシスの乳母兼教育係
ジェイク……馬丁。ラファエラの幼馴染
テレサ……侍女。ラファエラの幼馴染
アンジェロ……召使頭
メアリーベス……臨時の召使い。
アイリーン・オハラ……ラファエラの友人。
エドワルド・ザクセンウォール……ラファエラに求婚していた貴族
リッツ・マルソー……治安警備艦隊の艦長。少将。
アルフォンソ・ヴァンダーノ……治安警備艦隊の艦長。中将。
カイト・レンブラン……治安警備艦隊の艦長。大佐。
オスカー・ケルビン……リッツ・マルソーの副官。大佐。
クラリス・レンブラン……カイト・レンブランの妻。ラファエラの友人。
ローラ・ヴァンダーノ……アルフォンソ・ヴァンダーノの妻。
リヒャルト・ヴァンダーノ……ヴァンダーノ夫妻の養子。


これくらいだっけ？（汗）