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離婚(?)編

新年初えっち

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 白く輝く二つの球体。

 俺は妻の体に我を忘れそうになる。

 いつだって、孤児が三日ぶりに食い物にありつけたように貪り、食らい尽くしたくなるんだ。

 まあ、さすがに三日ぶりのノエルという食事より、三日寝てない睡眠欲には勝てないんだけど。

 結婚してからも、俺は仕事に追われた。

 魔法結界回路の補助システムは、メンテナンスをしながら改良していかなければならない。

 今のエネルギー消費のスピードだと採掘が追いつかないし、百年後には魔鉱石が枯渇してしまうのでは、という問題点も出てきている。

 ノエルさえ守ることができれば──俺とノエルの生きている間さえもてば、俺はそれで良かった。恒久の平和なんて、俺には関係ない。

 王位争いの内戦だって過去には起きているし、土台永遠に平和を守るなんて、無理な話なのだ。

 せめてノエルとその子供、その孫の時代くらいは、平和を享受できれば──。

 でも、俺の最弱な精子は、彼女を母親にしてやることも、孫に囲まれたばっちゃにしてやることもできないんだ。

「ノエルの未来を、孤独にするかもしれない」

 それでも彼女を諦めきれない自分に絶望しながら、俺は目の前のご馳走を貪り続けた。

「俺の精子は、子孫を残さず、ブーシャルドン侯爵家を断絶させる」

 せっかく入浴で綺麗にした体を、俺はまた薄汚い俺の唾液だらけにしてやる。自分の幸せしか考えていない己に嫌気がさす。

 イチゴの入浴剤なんてクソ喰らえ! ノエルの甘い匂いが消えてしまうくらいなら、俺の匂いに染めてやる。だって俺、クソだから。

 白い体をくねらせ、悶え狂うノエルを組み敷き、片足を担ぎあげた。

 クチュという音が足の間から響き、俺は彼女がとっくに準備できていることを知る。

 俺は醜い怒張を、肉の花びらの中心に埋め込んだ。

 不思議だ。この愛液塗れの食虫花は、俺の楔をギュルギュル飲み込み、搾り取ろうとするのだ。

「アレク、バカアレク」

 俺の首に手を回し、息を荒げながら、快楽の波に堪える妻。

「わたくし……んっ……そんなこと……あんっ……気にしたこと……きゅん……ありませんわ……はんっ」

 ドチュンッバスッドチュンッという卑猥な音の間に、ノエルはさらに卑猥な甘い声でそう言った。

「アレクさえいれば……あっあっ……わたくしより先に死なないでいてくれたら……あ゛あ゛ぁ゛ぁァァ……お願い」

 俺だって嫌だ、お嬢様がいない世界で生きていたくない、あっ、お嬢様って言っちゃった──

「アレク、愛してる、お願い、わたくしを捨てないで」

 この人は何を言っているんだ!? 捨てられるのは俺だ! 

 俺はガツガツ腰を振りながら、役立たずなアレク汁を高貴な薔薇の中に注ぎ込む。

 さあ、焼き尽くされてこい、俺のオタマジャクシたち。




 二人とも新年初のエッチのあと、ぐったりベッドに横たわった。

 ハァハァ言っているノエルの声を聞いているだけですぐに復活しそうになる、無駄に元気なアレクサンドルJr.が、もうすごい嫌だ。役立たずのくせに、なんなの。

「俺なんかでいいのかって……日を追うごとに不安になって」

 がむしゃらに宝を手に入れ、今度はその宝を不幸にする恐怖に怯えてしまった。

 青二才のアレクサンドルは、彼女を絶対に幸せにすると息巻いていた。

 でも大人になると、幸せが何か分からなくなる。

 俺にとっての幸せは、ノエルが幸せであることだと確信している。

 ノエルにとっての幸せは、なに?

「聞きなさい、このトンチキ」

 ノエルが体の向きを変え、うつ伏せになって俺の鼻を摘んだ。

「わたくしの幸せを、アレクごときが勝手に推測しないで」

 俺のせいで腫れ上がった唇が痛々しい。でも俺の右頬も彼女のせいで腫れ上がってるから、おあいこだね。

「だってノエル。あんたは、貴族の中の貴族、ザ・貴族って自負がすごいし──」
「アレクが貴族の要らない世界にするって、言ったんですわよ?」

 ノエルのアメジストの瞳がトロンとしてくる。まつ毛が長すぎて重いのかな? 僕にメロメロみたいな目だ。

「わたくし、幸せなの。アレクを手に入れて。わかる?」
「……うん」
「あなたがいれば、それでいいの。ずっと変わらない自信もあるわ」

 うん。ノエルは、思い込み激しいからね。

 俺はまたしても、それにつけ込むんだ。

「ノエルは俺の事、大好きだもんね」
「まっ! あなたが、わたくしを大好きなのでしょう!?」

 高飛車にそう言い放ってから、眉毛を下げ、ポツリと呟くノエル。

「だからもっと……お仕事を休んで、一緒にいてくださいな」

 ジョヤーの鐘はいつの間にか聞こえなくなっていた。





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