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本編
男の顔のアレク
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言い知れぬ恐怖に苛まれ、わたくしはあたふた起き上がろうとしました。
でも両手首を軋むほど強く掴んだアレクにのしかかられ、力で抵抗できません。そのまま顔の両側に手首を縫い留められ、身動き取れなくされてしまいました。
……ま、魔法でぶっとばしてよろしいのかしら。あ、でも術式がすぐに浮かびません。これでは戦地で役立たずですわ!
「お嬢様、取り消してください」
「はえ?」
「婚約破棄を取り消してください」
「婚約なら取り消しましたわ! アレクにホールのど真ん中で『ノエル、お前とは婚約破棄だ!』って言われて追放とか処刑エンドは耐えられませんもの、だから先にわたくしの方から──」
アレクは顔を伏せて息をつき、この人なにを言ってるんだ、と呟いています。
「意味不明なんですが。そうじゃなくてね、お嬢様。婚約破棄を取り消してください、って言ってるんです」
「ぇぇぇぇえ、だってアレク、わたくしと結婚したくな──んっんん」
唇を奪われ、わたくしは何もしゃべれなくなってしまいました。ああ、でも子供の頃のキスとはぜんぜん違いますわ。ベロって、入れるのが正解だったのですわね。
わたくしは温かい粘膜が擦り合わされる感触に気持ちよくなってしまって、夢中でアレクの舌を探しました。
自分のそれを絡めると、そのベルベットのような質感を堪能いたします。
お互いの呼吸が乱れ、恥ずかしい唾液の音が、わたくしの緊張していた体を解しました。
なんのお話だったかしら。なんだか分からなくなってしまいましたが、アレクになら、何をされてもいいですわ。
ところが、アレクは眉を顰め、唇を離してしまいました。
「あっ……いや、もっと」
思わず、舌を出して追いかけてしまうわたくしに、アレクがいぶかし気に言いました。
「おかしいな……お嬢様、初めてにしては上手くないですか?」
ベルトラン様とユベールさんのマネをしただけですけど、それをここで言ったらダメな気がします。身の危険を感じるのです。ですから、賢明にも黙っていました。
「あなたはね、俺のことが好きすぎるんですよ」
ランプの逆光で、そう言ったアレクの顔はよく見えませんが、わたくしはそれを聞いて眉を吊り上げていました。
まぁぁあっ、なんてうぬぼれているのかしら!
「ふざけないで、アレク! わたくしが平民ごときにメロメロになるわけないで──ひぃいいい」
薄い絹モスリンの生地を、開いた襟ぐりから裂かれました。この日のために、仕立てたのに!
ちょ、上半身全部破かないで! もがくわたくしをガン無視のアレクです。
「もし二人きりなら、今日のお嬢様を綺麗だって褒めたかったけど。なにこのドレス。胸元開きすぎ。生地も薄いし……。こんな格好で皆の前に出るなんて、許さないよ」
チョーカーに手を伸ばしたので、引きちぎられると思って悲鳴をあげました。
「いやっ、これわたくしの宝物なのですわ!」
アレクは一瞬目を見開いて、ああ、あの時の、と呟きます。
身を起こしたアレクの頬は、ほんのり赤く色づいているように見えました。ランプのせいかしら?
まいったな、と呟きながら、ちゃんと金具を押し、取り外してくれたのです。
「もっといいの買ってあげられたら良かった……」
苦笑いしたあと、真顔になったアレク。今度は乳房を押し上げていたブラ付きビスチェに手をかけました。
「今日は白の下着なんですね」
淡々とそう言いながら、アレクは手早くレースのビスチェのホックを外し、襟元から抜き取り、放り投げてしまったのです。
ヒヤッとした空気が、むき出しになった乳房を冷やし、肌が粟だちます。
わたくし、ほっそりしてますでしょ? でも、おっぱいは少し大きめですの。
目線を下げると、下着を取ったのに崩れない、こんもり主張した二つの山が、わたくし自身にも見えました。羞恥でいたたまれなくなってしまいます。
「ああ、すぐに乳首が立ってしまったじゃないですか。セントラルヒーティングはずっと作動してるはずなんだけど、寒い?」
暗い笑みを浮かべると、アレクはすっと手を伸ばしました。
でも両手首を軋むほど強く掴んだアレクにのしかかられ、力で抵抗できません。そのまま顔の両側に手首を縫い留められ、身動き取れなくされてしまいました。
……ま、魔法でぶっとばしてよろしいのかしら。あ、でも術式がすぐに浮かびません。これでは戦地で役立たずですわ!
「お嬢様、取り消してください」
「はえ?」
「婚約破棄を取り消してください」
「婚約なら取り消しましたわ! アレクにホールのど真ん中で『ノエル、お前とは婚約破棄だ!』って言われて追放とか処刑エンドは耐えられませんもの、だから先にわたくしの方から──」
アレクは顔を伏せて息をつき、この人なにを言ってるんだ、と呟いています。
「意味不明なんですが。そうじゃなくてね、お嬢様。婚約破棄を取り消してください、って言ってるんです」
「ぇぇぇぇえ、だってアレク、わたくしと結婚したくな──んっんん」
唇を奪われ、わたくしは何もしゃべれなくなってしまいました。ああ、でも子供の頃のキスとはぜんぜん違いますわ。ベロって、入れるのが正解だったのですわね。
わたくしは温かい粘膜が擦り合わされる感触に気持ちよくなってしまって、夢中でアレクの舌を探しました。
自分のそれを絡めると、そのベルベットのような質感を堪能いたします。
お互いの呼吸が乱れ、恥ずかしい唾液の音が、わたくしの緊張していた体を解しました。
なんのお話だったかしら。なんだか分からなくなってしまいましたが、アレクになら、何をされてもいいですわ。
ところが、アレクは眉を顰め、唇を離してしまいました。
「あっ……いや、もっと」
思わず、舌を出して追いかけてしまうわたくしに、アレクがいぶかし気に言いました。
「おかしいな……お嬢様、初めてにしては上手くないですか?」
ベルトラン様とユベールさんのマネをしただけですけど、それをここで言ったらダメな気がします。身の危険を感じるのです。ですから、賢明にも黙っていました。
「あなたはね、俺のことが好きすぎるんですよ」
ランプの逆光で、そう言ったアレクの顔はよく見えませんが、わたくしはそれを聞いて眉を吊り上げていました。
まぁぁあっ、なんてうぬぼれているのかしら!
「ふざけないで、アレク! わたくしが平民ごときにメロメロになるわけないで──ひぃいいい」
薄い絹モスリンの生地を、開いた襟ぐりから裂かれました。この日のために、仕立てたのに!
ちょ、上半身全部破かないで! もがくわたくしをガン無視のアレクです。
「もし二人きりなら、今日のお嬢様を綺麗だって褒めたかったけど。なにこのドレス。胸元開きすぎ。生地も薄いし……。こんな格好で皆の前に出るなんて、許さないよ」
チョーカーに手を伸ばしたので、引きちぎられると思って悲鳴をあげました。
「いやっ、これわたくしの宝物なのですわ!」
アレクは一瞬目を見開いて、ああ、あの時の、と呟きます。
身を起こしたアレクの頬は、ほんのり赤く色づいているように見えました。ランプのせいかしら?
まいったな、と呟きながら、ちゃんと金具を押し、取り外してくれたのです。
「もっといいの買ってあげられたら良かった……」
苦笑いしたあと、真顔になったアレク。今度は乳房を押し上げていたブラ付きビスチェに手をかけました。
「今日は白の下着なんですね」
淡々とそう言いながら、アレクは手早くレースのビスチェのホックを外し、襟元から抜き取り、放り投げてしまったのです。
ヒヤッとした空気が、むき出しになった乳房を冷やし、肌が粟だちます。
わたくし、ほっそりしてますでしょ? でも、おっぱいは少し大きめですの。
目線を下げると、下着を取ったのに崩れない、こんもり主張した二つの山が、わたくし自身にも見えました。羞恥でいたたまれなくなってしまいます。
「ああ、すぐに乳首が立ってしまったじゃないですか。セントラルヒーティングはずっと作動してるはずなんだけど、寒い?」
暗い笑みを浮かべると、アレクはすっと手を伸ばしました。
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