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本編

水を差すアリスさん

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 と、いい感じに締めようとしたんですのよ?

 なのにアリスさんたら、口を挟んできました。

 パチパチパチと拍手しながら、無邪気な瞳を瞬かせます。

「うわ~、すご~い、感動しました。世襲貴族様って、税金泥棒のごく潰しだと思ってました。ちゃんと役に立つのね」

 可愛い顔して、なんかめっちゃ毒がありませんこと!?

 わたくしはイラッとしてアリスさんを睨みつけます。

 アレクをものにしたからって、いい気になっちゃって!

 言っておきますけど、わたくしの方がアリスさんより百倍、いえ、千倍、ノー! 百万倍アレクのことを大事に思っているのですからね! 

 まあ……一方通行だと重いだけなのでしょうけど。

 アリスさんはどんぐり眼で首を傾げます。

「あら、もちろん男性方はちゃんとお仕事をしていると思ってますわ。でもねぇ、貴族の令嬢ってなんの役に立つのかなーなんて、わたしずっと思っててぇ……」

 一応、ベルトラン様たち貴族令息には、気を遣っているようだわ。

 まあ、このクラスは貴族の令嬢はわたくししかいませんからね、別に構いませんけれど?

 彼らを侮辱する言葉は許せませんが、わたくしに対する侮辱はわたくしが飲み込めばいいことですもの。

 はっきり言って、平民の戯言など、痛くもかゆくもございませんし。

 なんかこう、小鳥が囀ってるわぁ~みたいな?

 ふんっ、このノエル様があなたごときの嫌味で凹むと思っているのかしら?

「よいですか、アリスさん。あなたも国家研究員を目指すなら──」
「もういいで~す。最初はそれで貴族のお嫁さんになれるかしら、って思ったけれど」

 勝ち誇ったような顔でわたくしを見るアリスさん。

 嫌だわ、これ以上聞きたくないわ。

 そうなのです。どう贔屓目に見ても、優越感たっぷり、マウントを取っているように見えてしまうの。

「私、アレクにパートナーをお願いすることにしたの」

 貴族としてあまり感情を出さないよう、わたくしはポーカーフェイスを磨いてきましたわ。それが上品とされていますから。

 唇が引きつらないよう気を付けながら──内心歯が砕けるほど歯ぎしりしたかったのですが──余裕たっぷりに見返してやりました。

「あら、そうですの? わたくし、卒パのことなど忘れていましたわ」

 どうってことありませんわ。どうせ、わたくしとアレクがパートナーとなったところで、その先の未来は約束できませんもの。

 だって、わたくしが生きて帰ってくる保証はありませんし……。

 あら? やだわ、わたくしったら。弱気になっているのかしら。

 ……やっぱり前線はちょっぴり怖いわね。

 激戦地だって聞きますからね。

 ベルトラン様のお父様は、癒しの能力者の尽力空しく車椅子生活のようですし、もちろんわたくしのお父様の左腕も戻ってはこないでしょう。

 まあ、お父様は前向きな方だから、右手じゃなくてラッキーだった、とか言いそうですけど。

 ふん、激戦地! 上等ですわ! それがなんだというのかしら。このわたくしは侯爵家の娘です。貴族の義務を全うするのに、悦びしか感じませんわ。

 下品な言い方をすると、びびってんじゃねえぞ、と自分に何度も言い聞かせましたし、もう大丈夫なのですわ。

 そりゃあ……心残りが無いと言えば、嘘になりますけど。アレクと後継者を作るのは、長年の夢でしたからね。

 でも、アレクは……暗示を解いて癒し魔法を派手に使えるようになったわたくしを、嫌いになるでしょう。

 ええ、認めますわよ! 今まで以上に、わたくしのこと嫌いになるはずですわ。

 ただ、言わせてもらいますとね、わたくし数年間はアレクを独り占めしました。

 ベッドにもぐりこんで、たくさんチューを奪いましたわ。

 これって子供の頃、たっぷりご褒美をもらいすぎたのだと思うの。

 しかもわたくし、アレクの気持ちに気づくのが遅かったんですもの。

 勉強する環境さえあれば、アレクは必ず国家研究員になれるのに──そして、今後もどんどん素晴らしい魔鉱石利用のシステムを開発することでしょう。

 投資家が殺到します!

 わたくしと結婚するメリットが無い。そう気づくのに遅れたことが、とても悔やまれます。

 アレクは、律儀なのです。

 ブーシャルドン侯爵家に対する恩があるので、わたくしとの婚約解消をなかなか言い出せなかったのだわ。

 結果を出してしまえば、後見だなんてむしろ迷惑だったでしょうに……。

 本当になんというか、この思い込みの激しさ。申し訳なかったと言わざるを得ません。

 さんざん困らせてしまいましたものね。

 わたくし、ちゃんと認めますわ。

 アレクにわたくしは必要無いのだと。

 お手紙で、先に両親には伝えてあります。

 あとはわたくしが、アレクを自由にするだけなのです。

 
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