34 / 66
本編
濡れ衣ですわ!
しおりを挟む
「あ、俺も見た。アレクの研究室から飛び出してきた」
「なんか、胸元に何か隠して、勝ち誇ったように笑いながら走っていったよね」
次々とクラスメイトたちに言われ、沈黙してしまいます。
すぐにどういう意味か分かり、わたくしは怒気を露わにして、彼らを睨みつけました。
「あなたたち、何が言いたいの?」
わたくしの視線を避けるように、みなさん俯きます。
「このブーシャルドン侯爵家のわたくしが、アレクの論文を盗んだとでも?」
アリスさんが彼らに代わり、眉を吊り上げて言い返してきました。
「だってノエル様、中等科でアレクの課題、破ったことあるのでしょう?」
ええ、ありますわ。だってアレクがかまってくれないから!
アリスさんが目を潤ませて、抗議してきました。
「それにアレクの卒研も、無理矢理やめさせようとしてたわ」
侯爵家は後見人ですもの! アレクの健康が第一──
……。
……あら?
わたくし、ちょっと立場が不味くないかしら? 前科ありだし。
こくりと唾を飲み込みました。その時、
「お嬢様、昨日、俺の研究室に来たんですか?」
と、アレクに静かに聞かれました。前髪の奥で、眼鏡が光っています。
「なんでそんなこと……。黙って入ったんですか?」
だって、チュッチュしたくなって……それに鍵が開いてたんだもの!
……いえ、悪いとは思ってるわ。
まさか女性を連れ込んでるとは、思わないじゃない? わたくしのこと大好きなアレクが。
でもアレク、あなたまでわたくしが論文を盗んだと思っているの? わたくしが、卒研をやめさせようとしたから?
ぐぐぐっと悲しみが込み上げてきましたが、残念でしたわね。
わたくし、人前で泣くような無様な真似は、いたしませ……めったにいたしませんのよ。
わたくし、腕組みをしてツンと顎を上げました。
「いいわ、皆さん。そんなに疑うなら、わたくし逃げも隠れもしませんわ!」
毅然と言い放ちます。
「わたくしの寮のお部屋や、わたくしの手荷物、ロッカー、そしてわたくしの身体をすみずみまでお探しなさい」
平民男子御一行様が、ざわつきはじめました。
「え……女子寮行っていいの?」
「ロッカーいい匂いしそう」
「身体検査とか……脱がせてからってこと?」
わたくしは、自分のレッスンバッグの中身を机の上にバサッとぶちまけました。
「さ、ごらんなさいっ!」
勉強道具と一緒に、使い捨ての木のフォークやら、食べ物の包装紙やらが飛び出しました。
「意外に雑──」
「令嬢なんだから、整理整頓しろよ」
う、うるさいですわよ!
「あれ? この包装紙って──」
モブ平民の一人が、包装紙を摘まみ上げました。
「これ、この前アレクが食べてた限定イチゴジャムカレー焼きそばパンの包装紙じゃないの?」
「こっちの飲み物のパックも、アレクしか飲まないくっそ不味いアボカド玉子シェイクじゃね?」
わたくし、しまった、とばかりにアレクを振り返りました。
アレクの研究室から出るゴミ箱、漁ったのがバレてしまいますわっ。
「まさか、このフォークやスプーンも──」
「た、たしかにアレクのですけれど、間接キスとか邪な気持ちはありませんわ、エコですわ! 洗ったらまた使えるじゃない!」
なんだか辺りがドン引いているのは、気のせいかしら。
わたくしが、アレクコレクションのお宝箱を持っていることがバレましたの?
確かに、前に借りた制服の上着はそのままパクッて、寝る時に匂いを嗅ぎながら眠りについていますけど、アレクにはちゃんと新しいブレザーを新調して返しましたわ!
それに、よくご覧になって? アレクの論文なんて入ってないでしょう!? とにかくまず身の潔白を証明しますわっ!
「さあ、身体検査でもなんでもなさいったら!」
わたくしが手を広げると、デレデレした顔で数人の男子生徒が近づいてきました。
両手を広げ、わしわしニギニギしているのはなぜかしら?
「あ、はい、ノエル様。では僕はスカートのポケットを失礼します」
「俺は上着の内ポケットを──」
「それでは拙者はハイソックスの中をお調べいたそう!」
ちょ、お待ちなさい。なんですの、そのいやらしい手つきと顔つき!?
そういう邪な気持ちなら──。わたくしが焦って前言撤回しようとした、その時です。
バンッと強く机の上を叩く音がしました。わたくしを含め、みんなビクッとなります。
「その必要はない!」
アレクのキッパリした声。
「アレク、でもわたくしの潔白を証明しなくては──」
「俺には時間が無いんだ、いい加減、面倒ごとを引き起こさないでください」
アレクはため息とともにそう言い残すと、身を翻して立ち去ってしまいました。
アリスさんがわたくしを振り返って、クスッと笑ってから、彼の後を追っていきます。
わたくしにはそれ以上、引き止める言葉はございませんでした。
「なんか、胸元に何か隠して、勝ち誇ったように笑いながら走っていったよね」
次々とクラスメイトたちに言われ、沈黙してしまいます。
すぐにどういう意味か分かり、わたくしは怒気を露わにして、彼らを睨みつけました。
「あなたたち、何が言いたいの?」
わたくしの視線を避けるように、みなさん俯きます。
「このブーシャルドン侯爵家のわたくしが、アレクの論文を盗んだとでも?」
アリスさんが彼らに代わり、眉を吊り上げて言い返してきました。
「だってノエル様、中等科でアレクの課題、破ったことあるのでしょう?」
ええ、ありますわ。だってアレクがかまってくれないから!
アリスさんが目を潤ませて、抗議してきました。
「それにアレクの卒研も、無理矢理やめさせようとしてたわ」
侯爵家は後見人ですもの! アレクの健康が第一──
……。
……あら?
わたくし、ちょっと立場が不味くないかしら? 前科ありだし。
こくりと唾を飲み込みました。その時、
「お嬢様、昨日、俺の研究室に来たんですか?」
と、アレクに静かに聞かれました。前髪の奥で、眼鏡が光っています。
「なんでそんなこと……。黙って入ったんですか?」
だって、チュッチュしたくなって……それに鍵が開いてたんだもの!
……いえ、悪いとは思ってるわ。
まさか女性を連れ込んでるとは、思わないじゃない? わたくしのこと大好きなアレクが。
でもアレク、あなたまでわたくしが論文を盗んだと思っているの? わたくしが、卒研をやめさせようとしたから?
ぐぐぐっと悲しみが込み上げてきましたが、残念でしたわね。
わたくし、人前で泣くような無様な真似は、いたしませ……めったにいたしませんのよ。
わたくし、腕組みをしてツンと顎を上げました。
「いいわ、皆さん。そんなに疑うなら、わたくし逃げも隠れもしませんわ!」
毅然と言い放ちます。
「わたくしの寮のお部屋や、わたくしの手荷物、ロッカー、そしてわたくしの身体をすみずみまでお探しなさい」
平民男子御一行様が、ざわつきはじめました。
「え……女子寮行っていいの?」
「ロッカーいい匂いしそう」
「身体検査とか……脱がせてからってこと?」
わたくしは、自分のレッスンバッグの中身を机の上にバサッとぶちまけました。
「さ、ごらんなさいっ!」
勉強道具と一緒に、使い捨ての木のフォークやら、食べ物の包装紙やらが飛び出しました。
「意外に雑──」
「令嬢なんだから、整理整頓しろよ」
う、うるさいですわよ!
「あれ? この包装紙って──」
モブ平民の一人が、包装紙を摘まみ上げました。
「これ、この前アレクが食べてた限定イチゴジャムカレー焼きそばパンの包装紙じゃないの?」
「こっちの飲み物のパックも、アレクしか飲まないくっそ不味いアボカド玉子シェイクじゃね?」
わたくし、しまった、とばかりにアレクを振り返りました。
アレクの研究室から出るゴミ箱、漁ったのがバレてしまいますわっ。
「まさか、このフォークやスプーンも──」
「た、たしかにアレクのですけれど、間接キスとか邪な気持ちはありませんわ、エコですわ! 洗ったらまた使えるじゃない!」
なんだか辺りがドン引いているのは、気のせいかしら。
わたくしが、アレクコレクションのお宝箱を持っていることがバレましたの?
確かに、前に借りた制服の上着はそのままパクッて、寝る時に匂いを嗅ぎながら眠りについていますけど、アレクにはちゃんと新しいブレザーを新調して返しましたわ!
それに、よくご覧になって? アレクの論文なんて入ってないでしょう!? とにかくまず身の潔白を証明しますわっ!
「さあ、身体検査でもなんでもなさいったら!」
わたくしが手を広げると、デレデレした顔で数人の男子生徒が近づいてきました。
両手を広げ、わしわしニギニギしているのはなぜかしら?
「あ、はい、ノエル様。では僕はスカートのポケットを失礼します」
「俺は上着の内ポケットを──」
「それでは拙者はハイソックスの中をお調べいたそう!」
ちょ、お待ちなさい。なんですの、そのいやらしい手つきと顔つき!?
そういう邪な気持ちなら──。わたくしが焦って前言撤回しようとした、その時です。
バンッと強く机の上を叩く音がしました。わたくしを含め、みんなビクッとなります。
「その必要はない!」
アレクのキッパリした声。
「アレク、でもわたくしの潔白を証明しなくては──」
「俺には時間が無いんだ、いい加減、面倒ごとを引き起こさないでください」
アレクはため息とともにそう言い残すと、身を翻して立ち去ってしまいました。
アリスさんがわたくしを振り返って、クスッと笑ってから、彼の後を追っていきます。
わたくしにはそれ以上、引き止める言葉はございませんでした。
1
お気に入りに追加
612
あなたにおすすめの小説
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。
悪役令嬢は攻略対象者を早く卒業させたい
砂山一座
恋愛
公爵令嬢イザベラは学園の風紀委員として君臨している。
風紀委員の隠された役割とは、生徒の共通の敵として立ちふさがること。
イザベラの敵は男爵令嬢、王子、宰相の息子、騎士に、魔術師。
一人で立ち向かうには荷が重いと国から貸し出された魔族とともに、悪役令嬢を務めあげる。
強欲悪役令嬢ストーリー(笑)
二万字くらいで六話完結。完結まで毎日更新です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる