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本編

久々のアレク

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「うっううう、腰が、痛いですわ」

 わたくし、休憩室までヨタヨタ歩いていきました。

 無人ドリンクサーバーから、飲み物を頂こうと思ったの。

 ちなみにこの装置の中では、魔鉱石が各種ドリンクを忙しく冷やしたり、温めたりしてくれています。

 それにしても、トイレ掃除、張り切りすぎたようですわ。

 中腰がけっこうきますわね……。

 わたくしもお当番の時はいつも浄化魔法でしたから、少し反省いたしました。

 ど平民の皆様って、大変なのね。労ってあげなくては……。

 そんなことを思いながら休憩ブースに入ると、ベンチに腰掛けて飲み物を飲んでいたアレクと、ばったり出会ったのです。

 わたくし、久々のアレクに口から心臓が飛び出すかと思ってしまいましたわ。

 お掃除を頑張ったご褒美に、いいことがありました!

「ごきげんよう、アレク」

 わたくしは、トイレの臭いがしみついていないかしら、とソワソワしながらアレクから少し離れたところに座りました。

 もっと近くに行きたいけれど、汗臭いかもしれませんし……。

「どうも……。何か飲みます?」

 アレクは気だるげに立ち上がると、魔鉱石コインを入れ、無人サーバーのレバーに手をかけました。

「そうねぇ、アレクと同じものをお願いしますわ。……か、勘違いなさらないでね! この無人ドリンクサーバーで、庶民がどんなものを好むか、知っておこうと思っただけですから」

 わたくし、アレクと同じ物を飲みたいと思われないよう、すましてそう言いました。

「俺と同じのでいいんですか、お嬢様」

 躊躇ってから、アレクはレバーを引きました。

 トンと陶器のカップをティーテーブルに置かれ、覗き込むとブラックコーヒーみたいな色……。

 ムアッとすごい臭気がしました。

「マムシうなぎティーです」

 アレクったら、どんな味覚をしているのかしら。

 これだから庶民は!

 わたくし、ヒィヒィ言いながら涙目でそれを啜りました。アレクがそんなわたくしを見て、ふっと笑った気配がしました。

「一発で目が覚めるやつです。卒業までに研究が纏まらない国家研究員志望者には大人気なんだけど、お口に合いませんでした?」

 当たり前ですわ……でも、目がギンギンしてきましたわ。

 疲労を無理矢理回復させるエナジードリンク系かしら、とアレクの顔を見上げると、夕日に照らされた彼の顔を見て息を呑みました。

「アレク、ゲッソリしてますわ!」

 あの負けん気の強そうなアレクの目は落ちくぼんで、目の下の隈がますます濃くなっています。

 もうこれ、寝不足とか疲労と言うよりは、死相が出ていると言った方が早いですわ!

「アレク、すぐに寝てください! 死んでしまいますわ!」

 わたくしは焦ってアレクの袖を掴みました。

「卒研なんて、どうでもいいじゃないの!」

 アレクの方が百倍大事ですわ!

「どうでもいい?」

 アレクの眉がピクッと上がったのが、前髪の間から見えました。

 怒らせてしまったのは分かりますが、アレクの命の危機ですもの、言わせてもらいますわ!

「アレクがすごいのは、誰もが知ってますわ! 選定委員会だって、学内審査で中央研究所に推薦してくれます! もうがんばらないで大丈夫なはずですわ!」

 わたくし、ベンチの方に移動して座りました。ポンポンと腿を叩きます。

「さ、わたくしが見張っているわ。この膝枕でお眠りなさい」

 部屋に返したら、また寝ないで研究に没頭しそうですもの。

 アレクが何故か、石のように固まってしまいました。
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