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ご機嫌な王太子
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「ふむ、今の君は悪くない」
パトリシオは、ランタンに照らされて濡れひかる婚約者の、ふっくらした頬を見て唇を舐めた。
パトリシオとて、再三枢機卿に吹き込まれた神のお告げだとか、セシリアが騒ぎ立てている魔女だとかいう話を頭から信じているわけではない。
劇場の風だって、セシリアからお茶会の話を聞かされてから、そう言えばあの時も? と思ったに過ぎない。
グランデを拝する公爵家の令嬢を、本気で教会側に引き渡すつもりなど──まあ二、三日尋問させるのは面白そうだが──最初から無く、正直に言うとガッタガタに震えて助けを求めてくるところが見たかっただけである。それでこそ溜飲が下がるというもの。
パトリシオに屈服し、可愛らしくお願いさえしてくれば、すぐにでも恩を着せて助け出してやるつもりだった。
パトリシオには国王の決定を覆す勇気も無ければ、教会の指示に従う義理も無いのだから。
ただちょっと脅して、その澄ました鼻っ柱を折ってやりたかっただけ。
改めて見る婚約者はやはりとても美しいと、パトリシオはこの時嘆息した。
なんかこう、牢の中に捕らえられているのがいいな……。彼女の美しさは好きだ。
ただそれは、パトリシオが彼女を気に入らない理由の一つにもなり得たのだ。
なぜならジョセフィーナの濃い黄金の髪は、王冠のようで眩しすぎる。キラキラ色を変える瞳など、希少な宝石の輝きそのものだった。
それに対しパトリシオは、髪も瞳もただのダークブラウン。ジョセフィーナに隣に立たれるのは、みすぼらしく見られそうで嫌だったのだ。
今のジョセフィーナは、いつもはきちんと編み込んで高く結い上げている黄金の髪を乱し、頬や首筋にほつれ毛を落としている。
羨ましいと思っていた向日葵が咲いたようなアースアイにも翳りが出ているし、この地下牢ではオレンジ色を映したただのグレーにしか見えない。
その悲壮感溢れる姿に、パトリシオの股間が強ばった。これくらいしおらしければ、自分の隣に立つには丁度いいだろう。そう、王太子である自分より目立たなければ、美しいことは歓迎すべきなのだから。
ジョセフィーナが泣いて縋り付き、今までの態度を改めるなら……。その宝石の瞳を潤ませ懇願するなら、許してやろうではないか。むしろその瞳を、うっとり蕩けさせてみたくもあることだし。
「……ふむ」
父王の決めた鼻持ちならない婚約者も、こうやって閉じ込めてしまえばただの女だからな。
パトリシオは生唾を飲み込んだ。
「もう生意気な態度を取らないなら、これから来る教会の連中を、この私が追い返してやらんでもないぞ?」
今ここで服を脱げと命じたら、ジョセフィーナは脱いでくれるだろうか。ますます股間がいきり立ってきた。
「それに、妾として置いてやってもかまわん」
囁くように言ってから、鉄格子から手を伸ばそうとしたその時、上から女の声がした。
「殿下! アルマラス伯がお呼びですわ!」
セシリアの声だ。ビクッとなったパトリシオは、我に返る。ジョセフィーナから後ずさった。
「おのれ、魔女め! い、今私を誘惑しようとしたな?」
してませんわよ!? と目をむくジョセフィーナをねめつけると、王太子は衛兵らを連れてあたふたと階上に続く階段を駆け上がっていった。
パトリシオは、ランタンに照らされて濡れひかる婚約者の、ふっくらした頬を見て唇を舐めた。
パトリシオとて、再三枢機卿に吹き込まれた神のお告げだとか、セシリアが騒ぎ立てている魔女だとかいう話を頭から信じているわけではない。
劇場の風だって、セシリアからお茶会の話を聞かされてから、そう言えばあの時も? と思ったに過ぎない。
グランデを拝する公爵家の令嬢を、本気で教会側に引き渡すつもりなど──まあ二、三日尋問させるのは面白そうだが──最初から無く、正直に言うとガッタガタに震えて助けを求めてくるところが見たかっただけである。それでこそ溜飲が下がるというもの。
パトリシオに屈服し、可愛らしくお願いさえしてくれば、すぐにでも恩を着せて助け出してやるつもりだった。
パトリシオには国王の決定を覆す勇気も無ければ、教会の指示に従う義理も無いのだから。
ただちょっと脅して、その澄ました鼻っ柱を折ってやりたかっただけ。
改めて見る婚約者はやはりとても美しいと、パトリシオはこの時嘆息した。
なんかこう、牢の中に捕らえられているのがいいな……。彼女の美しさは好きだ。
ただそれは、パトリシオが彼女を気に入らない理由の一つにもなり得たのだ。
なぜならジョセフィーナの濃い黄金の髪は、王冠のようで眩しすぎる。キラキラ色を変える瞳など、希少な宝石の輝きそのものだった。
それに対しパトリシオは、髪も瞳もただのダークブラウン。ジョセフィーナに隣に立たれるのは、みすぼらしく見られそうで嫌だったのだ。
今のジョセフィーナは、いつもはきちんと編み込んで高く結い上げている黄金の髪を乱し、頬や首筋にほつれ毛を落としている。
羨ましいと思っていた向日葵が咲いたようなアースアイにも翳りが出ているし、この地下牢ではオレンジ色を映したただのグレーにしか見えない。
その悲壮感溢れる姿に、パトリシオの股間が強ばった。これくらいしおらしければ、自分の隣に立つには丁度いいだろう。そう、王太子である自分より目立たなければ、美しいことは歓迎すべきなのだから。
ジョセフィーナが泣いて縋り付き、今までの態度を改めるなら……。その宝石の瞳を潤ませ懇願するなら、許してやろうではないか。むしろその瞳を、うっとり蕩けさせてみたくもあることだし。
「……ふむ」
父王の決めた鼻持ちならない婚約者も、こうやって閉じ込めてしまえばただの女だからな。
パトリシオは生唾を飲み込んだ。
「もう生意気な態度を取らないなら、これから来る教会の連中を、この私が追い返してやらんでもないぞ?」
今ここで服を脱げと命じたら、ジョセフィーナは脱いでくれるだろうか。ますます股間がいきり立ってきた。
「それに、妾として置いてやってもかまわん」
囁くように言ってから、鉄格子から手を伸ばそうとしたその時、上から女の声がした。
「殿下! アルマラス伯がお呼びですわ!」
セシリアの声だ。ビクッとなったパトリシオは、我に返る。ジョセフィーナから後ずさった。
「おのれ、魔女め! い、今私を誘惑しようとしたな?」
してませんわよ!? と目をむくジョセフィーナをねめつけると、王太子は衛兵らを連れてあたふたと階上に続く階段を駆け上がっていった。
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