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ジョセフィーナ洗わレーナ

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 ジョセフィーナはきっぱり断った。

「宗教上、それはできないでゲス!」

 女だとばれたら砲蓋から海に捨てられるのは、残り湯ではなく自分である。

「……ふむ」

 考え込む船長の横で、水夫たちにより新しくバケツで運ばれ盥に張られる湯を見て、ジョセフィーナはうずうずした。

「でも体は洗いたいので、一人にしてもらえますでしょうげすか?」

 一週間以上入ってないのだ。この温泉大国レガリアの令嬢が! 過去最高に髪や体が汚れている気がした。

「あと、替えの服もあれば」

 女物の下着は無いだろうから、ノーパンで過ごすしかなさそうだけど……。

「戦利品に新しい服があったろう、持ってこい」

 船長がバケツを運んでくる水夫の一人に命じた。

「それから、俺は目隠しして洗ってやる。それならいいだろう」

 船長の声が、微妙に上ずっている気がするのは気のせいか。

「えっと……??」

 ジョセフィーナは今、男である。ナタリオが従僕に体を洗わせる感じだろうか。しかし本当は女なのだからして、異性に体を触らせることには抵抗があった。

「いやーそれはちょっと……」

「背中だけ! 背中だけでも! 洗いにくいだろ? いいか、真水は貴重だし、沸かして持ってくるのも大変なんだ。これを逃すともう、アジトまで身を清めることはできないんだぞ?」
「で、でも──」
「ほう、船長命令に逆らうのか」

 ジョセフィーナは綺麗な湯を焦がれるように見て、涙目になる。お願いだから一人で使わせてもらえないだろうか。

 この船長、ずいぶん食い下がる。新人を船長が洗うのは、掟か何かにある重要な儀式なのかもしれない。

 体は清めたい。だが皆と一緒に海水風呂なんて入れない。

 目隠しして、背中だけ……。いつも侍女に洗ってもらっていたから後ろは洗いにくいし、それくらいなら、女だとばれないのではないか。

 ジョセフィーナは迷った末、渋々頷いた。

 振り返ると、既に船長は眼帯の予備を取り出し、両方の目に装着していた。虫の複眼みたいな顔で水夫たちを振り返る。

「というわけで、おまえらはバケツを置いて出ていけ。伝声管で呼ぶまで来なくていい。着替えは扉の外に置いておくように」

 そう言って、呆れ顔の水夫らを追っ払った。

「さあ、入れ」

 盥を指し示す。ジョセフィーナは真っ白な石鹸を見て頷いた。

 サッシュベルトを抜き取ると、すとんとトラウザーズが落ちる。シャツのボタンを外し、するりと肩から脱いだ。

 その間、両目に眼帯をしている船長が食い入るように見ている。

 え? ……見えていないですわよね?

 ちょっと困惑した。

「あの、後ろを向いていただけませんでしょうがんすか?」
「大丈夫だ、真っ暗でなにも見えん」

 ジョセフィーナは念のため背を向け、強く巻いた布をほどいて外した。たわむように二つの塊がこぼれる。

 解放感。

 ジョセフィーナは感激してほっと息をついた。漁師の妻に巻いてもらったよりは緩く巻いていたが、やはり苦しかったのだ。

 白い肌に赤く布の跡が残っているのを見つけ、あやうく汗疹ができるところだったのだと焦る。

 わたくしの珠の肌が!

 なんとなくもじもじ体を隠しながら、湯の張られた盥に入った。

「あの、石鹸と浴用の布でげすわ」

 自分で石鹸を泡立て麻布にすりつけ、船長に渡してやった。

「背中だけ、お願いしますでやんす、船長」
「……ああ」

 布を手に、手探りで近づいてくる。膝を突くと、ジョセフィーナの体の位置を確認するために手を伸ばした。

 ピタリと背中に両手をつける。

「小さな背中だな」
「船長が大きいだけでがんす──あっ」

 突然、脇の下から手を回され、両方の乳房を掴まれた。

 女だとばれてしまう! 固まっていると、大きな手で膨らみを撫でまわしながら、困惑した声で船長は言った。

「随分太ってるな。こんなに腹に肉をつけていたら、身軽にマストなど登れないぞ」

 ばれてない! ジョセフィーナは胸をなでおろし、ほっと息をついた。

「大丈夫でやんす、船乗りにはならないので」

 なぜなら彼女はヴェントゥス家の娘。アジトとやらについたら、すぐに他の公爵家へ渡りをつけてもらうのだ。

 謝礼をたっぷり弾むからと言えば、力になってくれるだろう。そうだといいな。

「ひっっ」

 ぬるりと泡の付いた手で乳首をこすられた。こそばゆさで、ぞくっと鳥肌が立つ。

「でっかいイボが二つも」
「あっそこは洗わなくて大丈夫でがんす、背中だけで……んあっ」

 大きな手に掴まれ、指の間から飛び出た乳首が赤く充血している。それを見下ろしたジョセフィーナは、気恥ずかしさのあまり身をよじった。

「待ってくださいでやんす、ほんとに」

 ジョセフィーナの胸の先端は昔から敏感で、ちょっと間違えて擦れるだけでビクッとなってしまうのだ。そして、腰がむずむずする。

 船長の手首を掴んで必死に止めると、渋々といった体で両手が離れた。

「では、ちゃんと筋肉をつけるのだぞ」

 今度は髪の毛を洗い始めたので、ジョセフィーナはほっとした。

 まだ胸の先端がジンジンする。
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