【R１８】ハメられましたわ！～海賊船に逃げ込んだ男装令嬢は、生きて祖国に帰りたい～

異教国家の脅威

　ルナ教は、この大陸の西側に根付く古い宗教である。

　月こそ唯一の神であり、教義に反するものは教皇庁が月に代わって仕置する。

　対して、太陽神を崇めるソル教は大陸の東側で広がった。その信者の占める遊牧国家が、周辺国を破竹の勢いで統合し、大帝国となったのである。

　ソル帝国はやがて、じわじわと西側にも侵攻を始めた。

　ここレガリア王国はルナ教を国教としてはいる。だが、今の王太子が生まれた時に教会と一悶着あり、総本山である教皇庁とレガリア王家の関係も一時期冷えきっていた。

　どんな揉め事だったかは教会とレガリアの王家により封じ込められ、国王夫妻と四つの公爵家グランデの当主しか知らないという。

　現在は和解したとはいえ、政教の分離は進み、教皇庁とは一定の距離を保っているレガリア王国だ。だがルナ教会は依然として、王権を教皇の支配下に入れようと画策していた。

　その証拠に、ここのところ教皇庁からの使者である枢機卿が、王宮を頻繁に訪れるようになっていた。

　ソル帝国の戴冠式に、国王夫妻が招かれたことを聞きつけ、焦りを募らせたのだろう。国教であるルナ教から改宗し、自ら帝国との統合を望んだ国もあったからだ。

　レガリア王国のあるリア半島の東は、入江状の海アーデル海を挟みソル帝国の領土である。

　海軍の強いレガリアまで帝国の領土になれば、大陸の西側──教皇領や、ルナ教の国々を一気に攻め落とされる危険があった。

　そこで教皇庁は使者をレガリアの王宮へ派遣し、式典への欠席を促したのだ。

　レガリア王国とて、戦火の火蓋を切らぬよう必死である。既に大陸の半分を統一した大帝国と、狭い海を挟んで向かいあっているのだ。ある程度の忖度は致し方ないこと。

　事実、レガリアだけではない。西側の多くの国が今回の戴冠の儀に、貢物を携えた使節団を派遣している。彼らの侵攻を危惧してのことだ。

　いかに貿易で栄えた海洋国家とはいえ、相手は規模の違うソル帝国。今回の元首自らの訪問は、その脅威を無視できないからに他ならない。

　それでも教皇の使いは、再三ソル帝国からの招待を断らせようと、破門をチラつかせながら国王夫妻に迫ってきたという。