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アリビア帝国編 Ⅱ
ケンだけに剣が怖いYO!
しおりを挟むリンファオは唇を噛んだ。ヘンリーと抱き合いたくて、寂しがっていた身体を弄ばれる。
抵抗できずに、喜んで受け入れてしまいそうな自分が怖かった。それほど、家族を失って淋しかった。人肌が恋しかった。
ケンはそんなリンファオの変化にも気づかず、細い足首を掴み上げると大きく開かせる。
無骨な指が、柔らかく薄い恥毛の奥に差し込まれた。
思ったより濡れていて、ケンは目を見開く。
さらに濡れた襞をかき分けると、愛液が溢れきて、シーツを濡らした。
トロトロの秘所に長い指を抜き差ししながら、悦に入るケン。これほど濡らすなら、気持ちいいに違いない。
しかし気配を感じてふと顔をあげると、リンファオは声を殺してむせび泣いているではないか。ポロポロ、しくしくと。
ケンは一瞬怯んだ。
「……そんなに嫌か」
「おまえを殺したい」
小さな弱々しい声が応える。
ケンはせせ笑い、彼女の頬に顔を近づけ、ベロリと涙を舐めあげる。
(どうせ嫌われているなら、とことん嫌われてやるさ)
内心苦々しく思いながらも、かまわず自分の分身を彼女の股間にあてがった。ググッと亀頭を沈みこませる。
「ん……はうっ」
可愛らしい少女の息遣いケンの血が沸騰する。しかも、ツルリと簡単に飲み込まれたので、そのまま根本まで埋め込んだ。
相変わらず、最高の締め付け具合だ。まるで刀身と、鞘のようにピッタリと収まる。
ケンは、絡み付きとろけるような感覚に、思わずうめいた。
だが官能の喘ぎをあげたのは、リンファオもだった。自分の中が満たされ、幸福な気分になったのだ。
ヘンリーに抱きしめられ、中に入ってこられた時のことを思い出す。彼は限りなく優しく、そしてエドワードは荒々しく、リンファオを抱いてくれた。
ゆっくり動き出したケンの背中に、リンファオはそっと腕を回した。驚く彼に言う。
「突いて。術が解けたら殺してやる。だけど今はお願い、激しく何度も突いて」
ケンは物騒な言葉に苦笑しながら、自分も突きまくりたい衝動に駆られていた。
もう一度、リンファオの頬に流れる涙をペロリと嘗めとると、それを実行することにした。
少女の身体がバラバラに壊れるんじゃないかというほど、高速で腰を動かす。
その振動は、白く円やかな双丘をプルンプルンと揺らした。ケンは堪らず谷間に顔を埋め、屹立する突起を愛でながら、さらに激しく腰をしならせる。
パチュンパチュンと肉のぶつかる淫猥な音が、室内に響き渡った。
リンファオは、その淫猥な音にさえ陶然となった。自分に対する嫌悪をその一時だけ敢えて無視し──艶っぽい悲鳴をあげ、何度も絶頂を迎えた。
脇にローデリヒの遺体が転がっているが、二人ともそんなことはまったく気にしなかった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「さ、ずらかるぞ」
ことが済むと、ケンは死んでいるローデリヒを見てそう言った。
「賭博王が、カードの時間になっても現れなかったら怪しまれる。ローデリヒの博打好きは誰もが知ってる」
ケンは、リンファオに手早く衣服を着せた。しかし、スカートにくくりつけてあった剣は外してからだ。
「こいつで刺されたくない」
そしてリンファオを自分のマントで包みこむと、さりげなく部屋を出た。
既にほろ酔いの貴族たちの間を悠々と通り抜け、使用人用の裏口から外に出る。
リンファオは自分で歩くことができず、仕方なくケンにしがみついていた。
屋敷から離れ、裏通りの路地に入ると、ケンはものすごい勢いで走った。
やがて、レーヌ河から引いた水路上の小さな鎖橋まで来ると、歩調を緩める。そこからゆっくり土手に下りた。
水路に何艇かゴンドラが係留してある。
リンファオを乗せ自分もそれに乗ると、漕ぎ手に金を渡した。
もやい綱をほどかれたゴンドラが、水流にそって動き出し、狭く暗い水路をどんどん流れていく。
漕ぎ手は船尾で鼻唄を歌いながら、軽く櫓を動かしている。酔っぱらいの船頭らしい。
ケンはほっと息をついた。
「俺はしばらく身を隠す。俺と来るか? 殺すチャンスがあるかもしれないぜ」
ケンは、ぐったりしたリンファオにそう言った。
情事の名残で肌は上気し、筆舌し難い美しさをまとっている。
その艶めかしさに、ケンは生唾を飲み込んだ。
「本当に変わってないな。土蜘蛛の女が狙われるわけだ」
「さらった本人が何を言う」
リンファオは弱々しく吐き捨てた。身体はずっとしびれている。しかも淫猥なしびれ。可能なら、もっと抱かれていたかった。
クラーシュの民の術は恐ろしい。気功に勝るとも劣らない。
「だが、体つきは変わった。少女のしなやかさから、完全に女になっていた」
リンファオはそう言われて、ドキッとなった。ケンが彼女の様子に気づき、目を細めた。
「子が居るのか?」
「……」
「もしかして、俺の子か?」
リンファオは投げやりに頷いた。
「夫もいるよ。シャオリーの父親になってくれた。私は結婚したんだ。そのせいで、皇帝に弱身を握られて、このザマだ」
「おまえがニコロスの懐刀だったわけか。一族にバレたら殺されるな」
ケンは深刻な顔で呟いた。土蜘蛛は、刺客稼業を忌むべきものとし、絶対に依頼を受けない。ある意味それは、他の異能者たちの仕事を確保した。
蛟もクラーシュも、土蜘蛛が暗殺業界に参入したら廃業だろう。
「俺の子の名はシャオリーと言うのか。女か?」
ちょっとがっかりしたように言われて、リンファオはムッとなる。
「おまえの子じゃない。ヘンリーと……エドワードと私の子だ。連れて行こうとするなら、全力で戦うぞ」
「だって、どうせ術がきれたら俺を殺すんだろ?」
一生懸命歯を剥いてくる身動きできないリンファオに、ケンが苦笑する。
少女はうなだれた。
「そう思ったが、やはり出来ない。おまえはシャオリーの実の父親だもの。殺したくない。だから黙って私の前から姿を消して」
「ふん」
ケンは不満そうだった。
「まあ、娘ならクラーシュの村に連れて帰るわけにはいかない。あそこも血が能力を伝えるからな。しかも女が不足していて、狙われがちだ。俺の娘が男どもの嬢王蜂にされるのは我慢ならん」
リンファオは、自分が蛟の嬢王蜂にされそうだったことを思いだし、ぞっとした。
「しばらく預けておこう。おまえがニコロスの刺客をやってる限りは、安全なのだろうからな」
ケンはそう言うと、愛おしそうにリンファオの髪をなでた。
「気をつけろよ」
そしてハンカチを取り出すと、短剣で自分の腕を薄く傷つける。血が滴り落ち、ハンカチを濡らした。
「洗脳した猛禽が使えるなら、俺の匂いを覚えさせろ。どうしても困ったときは……」
ケンはためらってから言った。
「俺を呼べ。何があってもおまえとシャオリーは助ける」
語尾が震え、リンファオははっとなった。
あまりに切なそうだったので、ケンの顔をまじまじと見てしまった。
この男は、もしかして本気で、自分のことを好いているのかもしれない。
「ねえ、どうやってあの男から逃れたの? ロウコと戦ったんでしょう? あいつが二度も同じ術にかかる男とは思えないんだ」
「おまえはかかったじゃないか」
「油断してたんだっ」
リンファオが唸る。身体が自由に動けたらぶん殴ってやりたい。
「それにその顔。あの蛟の入れ墨は、落書きだったの?」
「おまえだって治せるだろ? 治癒能力があるのは土蜘蛛だけじゃない」
ケンは自分の能力のことをあまり語りたがらなかった。
クラーシュの民は、土蜘蛛と同じように閉鎖的な民族で、謎が多いのだ。
「あの北の民は、おまえみたいにフラフラしているのを許すのか?」
「ひとつだけ忠告してやる」
ケンは困って強引に話を変えた。
「え?」
「『謎の男』が異能者を集めているようだ」
「え、なに?」
リンファオが混乱する。
「『土蜘蛛の里』を落とすのに協力すれば、土蜘蛛の女を好きにしていいそうだ」
「馬鹿なっ、なんなのそれ!? どういうこと? それに、なんでおまえが知っているの? クラーシュの民にも依頼があったの?」
「舌がよく動くようになってきたようだ。術が切れかかってる」
ケンはそう言うと、リンファオから離れた。
もう襲いかかって殺すつもりはない、ケンに、そう言おうと思った。だから待って、行かないで。もっとその『謎の男』の話を聞かせてほしい。
しかし、違うゴンドラ乗り場を通りかかった時に、彼はひらりと陸に飛び移り、そのまま闇の中に消えていった。
リンファオのゴンドラには、神剣が残されていた。
それを見て、ため息をつき、そのまま船底に横たわる。
思わず引き止めそうになった。
異能者を集める『謎の男』の存在。そんなこと、今のリンファオにはどうでもよかったのだ。
里などもう知らない。それどころじゃない。
それより、自分を知る人間に会えたのが嬉しかったのかもしれない。それが、過去に自分をどんな目に合わせたかさえ、大目に見るほどに。
リンファオは苦笑し、鉛のように重い腕を持ち上げ、ポイッと血にまみれたハンカチを川に捨てた。
寂しいなんて感情は無い。きっと、気のせい。
今のリンファオは誰でもない。ただのニコロスの駒なのだから。
見上げると、落ちてきそうな星空が、孤独な土蜘蛛の少女を見下ろしていた。
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