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研究特区編

幻惑

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 失敗すれば八つ裂きにされる。

 そう分かっているはずなのに、どうしても諦め切れなかった。

 かつて、ここまで意識を集中したことがあっただろうか。

 蛟のケンはそう思った。

 森と同化しすぎて、自分の身体が輪郭を失う恐怖。

 森の精に、体ごと乗っ取られるのではないかと勘ぐるほどだ。

 指先どころか、髪の毛の先まで全てを森の気に溶け込ませた。

(俺は森の空気。木々。草花)
 
 自分自身に暗示をかける。

(俺は自然そのもの。俺が見ている物は、草木が見ているのだ)

 感情など存在しない。

 夢の中、あるいは水の中を歩くような緩慢でじれったい動作を繰り返し、確実にそこに近づいていく。

 降りしきる雨すら、半分意識の飛んだ状態ではまったく気にならない。身体を通り抜けていくようだ。

 やがて、巨木の根に辿り着くと、うろを覗き込んだ。

 標的は奇跡的に居眠りしていた。

 ケンは手の平を向けた。

 まさにその瞬間、土蜘蛛の少女がハッと顔をあげた。

(かかった)

 ケンの掌の目は、少女のまなこをガッチリと捉え、引きずり込んだ。






 ここ数ヶ月で、シショウは変わった。里で男を磨いてきたらしい。

 リンファオは、強引に面をむしり取られた。突然熱烈な口づけをされて、戸惑う。

 柔和な表情はそこにない。

 目を血走らせて、貪るようにリンファオの口腔を舌で探る。

 ついに息がつきて、リンファオはシショウを突き飛ばした。

 ゲホゲホ咳き込みながら、涙目で愛しい少年を責めるように見た。

「いったいどうしたの? シショウじゃないみたい」
「今すぐ君がほしい、リンファオ」

 感情を必死で抑えているかのような低い声。それから、唖然としている小柄な少女を押し倒す。

「シ、シショウ」

 リンファオは怖くなってもがいた。

 シショウは止まらない。じれた様に胴着の合わせを開く。鎖帷子の中は、今日はサラシでしっかりと覆われている。

 構わずその膨らみを掴んだ。

「会いたかったんだ。他の巫女じゃ駄目だった。俺は君じゃないと……」

 リンファオはやっと力を抜いた。

 それほどまで、自分を求めてくれていたのだ。

 最初に感じた違和感も、シショウの性急な肉欲のせい。そう言えば、前もガツガツしてた。ここまでじゃなかったけど。

 それだけ、会えない期間がもどかしかったのだ。そう都合よく解釈し、リンファオの胸は熱い何かに満たされた。

 エドワードの言うことは外れた。

 シショウは他の女を抱いても、リンファオのことしか考えられなかったのだ。

「リンファオ?」

 シショウは、突然嗚咽しだした少女の顔を覗きこんだ。

「ごめん、不安だったの。シショウが戻って来ないんじゃないかって……」

 透明な涙が、透ける様にきめの細かい頬をするっと伝う。

 ケンは思わず見とれた。

 この土蜘蛛の少女を前にしていると、自分の目論見が恐ろしく不埒なことに思える。

 神を欺いているかのようだ。

(美の結晶だ)

 ごくりと生唾を飲み込んだ。

 神々しすぎて、性欲など沸かないと思っていた。

 ──逆だ。

 美しい、無垢なモノを汚す。この罪悪感がたまらない。

 シショウに化けたケンは、逸る気持ちを抑えて、スナップ式の鎖帷子をプチプチ外しだした。

 リンファオは、されるがままだ。

(いいぞ)

 相手が一番想う人間に姿を変えるのは、術の中では容易な方だ。

 人はすすんで良い夢を見たがる。

 ケンはリンファオを横に寝かすと、剥ぎ取るようにサラシを取りさった。

 見事な形の乳房が、はじけるように飛び出す。

(土蜘蛛の女は何もかも完璧なのか!)

 感激のあまり、固まってしまう。

 重力に逆らうように盛り上がったままの、まろやかな乳房。

 白い肌は寒さのせいか、かすかに粟立っている。

 根に囲まれた暗いうろの中で、その白さが目にしみた。土蜘蛛は、日焼けとは縁がないのか。

 無骨な指を伸ばして、硬く尖った突起を摘んだ。少女の腰がビクッと跳ね上がる。

「そんなに感じるのか?」

 ケンは思わず呟いていた。

 土蜘蛛の体質は常人と異なる。

 食物の摂取も人より少なく、排泄物もほとんどないと聞いたことがある。

 口から摂取するわずかな食料を、気力や体力、そして五感に還元しているのだ。

 したがって、感覚は人よりずっと鋭い。

(人の何倍も感じる)

 そう考えた途端、もう我慢できなくなった。

 少女の両手首を掴み挙げると、舌で首筋から半裸の上半身全てを舐め始めた。

「いやっ、シショウ」

 リンファオは身をよじって、その感触から逃れようとした。

 研ぎ澄まされた敏感な肌に這いまわる舌が、リンファオを狂おしいばかりに攻め立てる。

 唾液でテラテラ光るほど執拗に舐め続けると、悶える美少女のしなやかな体はほんのりピンクに色づき出す。

 幼さの残る鼻にかかった声が、可愛らしい唇から漏れ出す。そのあえぎ声は、甘く切ない吐息とともに、ケンの耳に忍び込み、彼から冷静さを奪う。

 ケンは、彼女の両手をひとまとめにして片手で掴むと、その下穿きを剥ぎ取った。

 神聖不可侵の美を、これからもっと汚す。この俺が。

「次は下半身だ」

 やけに黒く、長い舌を出してケンは笑った。

 違和感があったが、リンファオの頭は焼ききれそうで気づかなかった。

 あえぎすぎて息切れする少女の足を肩に担ぎ上げると、秘所に顔を近づけた。

 ざらりとした長い舌が、きつくしまった穴に射し込まれる。

 リンファオは一際高い悲鳴をあげた。

 その声は、雨音の大きくなった森の中に吸い込まれる。

 ケンの舌は、乙女の穴を蹂躙し、さんざんいたぶった。ガクガクと動く腰を押さえつけ、蜜壺を掻き回し──やがて、その前歯が秘芯を捉える。

 リンファオが身体を硬直させた。

 優しく噛んだつもりだったのに、細い腰が大きく跳ね上がった。

 敏感すぎる。

 苦笑し、顔を上げて少女の様子を見たケンは、その陶酔しきって乱れた表情にぶつかる。

 我を忘れた。

「自分で足首をもって開け。俺に見せろ」

 シショウは、こんな言い方はしない。

 リンファオのはるかかなたの理性がそう囁いたが、快楽の渦に思考が飲み込まれ、どうでもよくなった。

 リンファオは言われたとおりに足を開いた。ケンが圧し掛かる。

 シショウは、こんなに大柄じゃない。

 しかしその警告も、挿入された瞬間消えて無くなった。

「あっ……あっ……あぁぁ」

 声すらまともに出なかった。

 リンファオは気持ちよさのあまり、ケンの頭を掻き抱いていた。

 圧迫感はあったけれど、前と違って最初からもう痛くない。

「あ……う、動いてシショウ」

 ケンは、他の男の名前を呼ばれたことにムッとなった。

「ケンだ、呼んでみろ」そう言いそうになって、賢明にも口を閉じた。

 一瞬で正気に戻り、ぶわっと冷や汗が吹き出る。

(あっぶねぇ)

 カマキリみたいに殺されるところだった。

 この娘は生きた凶器だ。それを絶対忘れてはいけない。

 それに目的は別にある。

 トロトロに溶けそうなほど濡れているのに、そのくせきつく絡み取るような少女の肉壁の心地よさに、やるべきことすら忘れそうになる。

 ケンは頭を振って少し動いた。少女の顔が歓喜に輝く。

 ケンは意志の力でそれを止めた。

 リンファオは目を見開いた。どうして? と問いかけてくる大きな紫水晶の美しい瞳。

 これほど行為を中断するのが難しいことは、過去に無かった。

「続けて欲しいか?」

 リンファオはコクコクと頷いた。ケンは、再び掌を少女の目の前にかざした。

「なら、俺の全てに従え。そして受け入れろ」

 リンファオの瞳に膜がかかった。

 ぼんやりと目を見開き、ゆっくりと頷く。

 次の瞬間、ケンは高速で腰を動かし始めた。

 リンファオは随喜の涙を浮かべ、彼を受け入れる。

 ケンは自分の分身の先に術をこめて、少女に穿ち続けた。何度も何度も。

 肉を打ち付ける音と、柔かな幼い声だけが、うろの中に響く。

 二人の体はほてり、溶けてしまいそうだった。

 ふと、結合した部分から流れ込んでくる、異なる力に、リンファオは目を見開いた。正常な頭の片隅が、拒否感を表す。

 しかしケンは、一瞬、わずかに抵抗しようと動いた腕を掴みあげ、快楽で我を忘れるまで腰を動かし続けた。

 リンファオは、明らかに何かおかしいと感じながらも、その快感に逆らえない。

 やがて迎えた絶頂。リンファオの思考は真っ白にそまり、何もかも、どうでもよくなった。

 同時に意識が焼ききれ、リンファオはそのまま気を失った。

(勝った)

 ケンはそれに気づき、やっと己を解き放った。

──術は成功した。

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