孤独な美少女剣士は暴君の刺客となる～私を孕ませようなんて百年早いわ！～

研究特区編

ロウコの懸念 １

　逃げて行く蛟たちを、ロウコは複雑な気持ちで見送った。

（六人は居たんだぞ）

　たった二年の修行で、厄の子は神剣遣いの名に恥じないほどの腕前に成長した。巫女の修行はしていたのだから、気を読む力は育っていたのだろう。

　だがまさか全ての体術が、幼少の頃から訓練してきた剣士たちに引けをとらないとは──。

（それどころか、超えてしまっている……）

　王宮出発前に、シショウとか言う若い神剣遣いに捕まり、しつこいくらい言われたことを思い出す。

「掟を破らない限り、リンファオを守ってください。初の任務でたった一人だなんて、きっと心細いに決まっている」

　ロウコは口の端をゆがめた。

　あの少年は確かに出来る剣士だ。このロウコの気配を──居場所を突き止めたのがその証。

　だがやはり、まだ若すぎる。相手の力量を測れていないのだから。

（厄の子を守れだと？　あの小娘を守る必要などどこにある？）

　ふと、背筋に寒いものを感じた。ロウコは、厄の子が掟を破ったら殺さなければならない。それが役目だ。

　問題は、いつその時がくるか、である。

　このままの速度で成長していけば、もしかしたら歴代の神剣遣い最強と自負するこの自分ですら御せ無い化け物になってしまうのかもしれない。

　それこそが厄の子の証ではないのか。

（おもしろい）

　ロウコの胸を期待がかすめる。

　自分より強い相手なんて知らない。そんな化け物と戦う機会など二度とないだろう。

　もし自分を超す剣士に成長するとしても、むしろ望むところだ。戦いの中で死ぬことが、戦士の憧れ。もちろん自分の目的を果たすまで、死ぬわけにはいかないが……。

　里長の顔がちらっと脳裏をかすめた。苦い物がこみ上げる。

　もし──。

（一族を脅かすならば、いっそ、今殺しておいた方がいいのではないか）

　ロウコは背中に交差させたふたふりの剣の柄を掴む。

　しかし、思い直したように柄から手を放した。

　自分も異端であることには変わりない。土蜘蛛の歴史が始まってから初めて、二つの神剣から選ばれた彼もまた、一族から警戒され、忌み嫌われてきたのだ。

　勝手な判断は下せない。

　だが彼は直感していた。

──あの女児は、いつか必ず災いを起こす。……一族を滅ぼすほどの災いを。