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第八章

セクハラ大魔王(作者? の都合で三人称)

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 大魔王に命じられ、アッサールは凍りついた。

「聞こえなかったの? 手を退けて」

 圧倒的な存在である大魔王の言葉だ。アッサールは言われた通りにするしかなかった。

 大魔王はベッドに腰掛けると、腿丈の薄い靴下に包まれた長い足を組んだ。なぜ腿丈と分かるかと言うと、スリットが腿までザックリ入っているからだ。

 ピンヒールのラメ入りの靴が、音を立てて片方落ちる。

 大魔王はチョイチョイとアッサールを指で招いた。

「履かせて」

 アッサールは一歩踏み出し、跪く。

 靴を拾って足先に履かせたが、顔を上げたら奥が見えそうなスリットに気を取られ、さらに腰からずり落ちそうな自分のズボンに気を取られ、ソワソワした。

「立ちなさい」

 アッサールは言う通りにした。ズルっと腰穿きになるズボンを押さえないよう必死だ。こんなだらしない格好で御前に立つなど、有り得ない。自分でも、表情が固くなっているのが分かる。

「やあね、私が貴方を取って食うとでも?」

 大魔王はツンと横を向き、髪をかきあげた。

 勘弁して欲しい、とアッサールは思った。匂い立つようなこの女性と、結界を張った密室で二人きりなんて、あの時のことを思い出してしまう。

 聖王の毒から正気に戻すために彼女を抱いた。だが、あの出来事は無かったことにしなければならない。

 大魔王は必要に迫られ、やむを得ず自分に抱かれたのだから。

 分かっているからこそ、アッサールは大魔王に暗示をかけて記憶を封印した。

 正直、あんな簡単にかかってくれるとは思わなかったが……。ちょっとくらい、覚えていてくれてないかな? なんて期待していた自分が恥ずかしいくらい、綺麗に忘れてくれていた。

 アッサールは大魔王を凝視した。

(二人きりだと、また彼女を自分のものにしたくなってしまう)

 身の程も弁えず、彼女をこの腕に抱き、甘い身体を貪り尽くし、それだけでは足りなくて、自分だけしか知らないところに閉じ込め、誰にも見せないようにしたくなる。

(危険なのだ、私といるのは)

 あの経験のせいで、三矢の一人である自分が、大魔王の尊厳を踏みにじる行為をしてしまいそうになる。

 気絶するほど、いや、もしかして、死ぬまで……抱き続けてしまうかもしれないと、アッサールはぞっとなった。

 彼女の方が強いから、そうはならないだろう。でも本当にそうか? 魔力の扱いは自分の方が上だ。そして大魔王は大事な部下に、あの膨大な力を叩きつけたりはしない。

 本来なら虫も殺せないような、優しい大魔王だと、アッサールにはよく分かっていた。

 ──だから、大魔王を亜空間に閉じ込めて、永遠に自分のモノにしてしまえば──

 アッサールは奥歯を噛み締めた。

 魔物の守護者になろうとしている彼女を、自分本位に扱ってしまう恐怖。

(なんとおぞましく、欲に塗れた男なのだ、私は)

「アッサール、警戒しないで」


 一方大魔王はというと、アッサールの固まった表情を見て、大きな勘違いをしていた。

 生真面目な部下のことだ。この状況、ものすごく不快なのだろう、そう思った。

 大魔王は自分がセクハラ大魔王であることを承知で、アッサールに迫っているのだ。神々との期限があるので、焦っていた。

「労いたいだけなの。害するわけじゃ……ないの」

 言葉が尻すぼまりになるのは、罪悪感のせいだった。

(いえ、害なのかしら。やっぱセクハラは害よね)

 大魔王の長いまつ毛が揺れ、伏せられる。

 しかしアッサールは、彼女の言葉に衝撃を受けていた。

(害するわけじゃないって、あたりまえじゃないか)

 逆なのだ、害になるのは自分の方なのに。アッサールは首を振る。

「ベルトを修復します」

 下がりかけたズボンに手をやる。

 もし間違えて、自分のおぞましい物が立ち上がったらどうするのだ。神にも等しいこの女性の前で……。

 女性、などと思っている時点で冒涜なのに。

「ベルトを引きちぎって、何の嫌がらせです?」

 自分の気持ちを隠すために、うんざりした声で言ってしまう。

 大魔王がビクッとなり、一瞬傷ついた光をその瞳に宿したことに、アッサールは気づいた。

(いったい、なんなのだ?)

 しかし、自分が立ち、大魔王が前に座っているこの状況すら不敬に思えてならず、そちらに気が回らない。

 大魔王が手を伸ばした。せっかく引き上げたズボンを下着ごとずり下げる。

「だ、大魔王様!?」

 さすがに狼狽え一歩下がろうとした。

「悪ふざけは──」
「動かないで。あなた、命令に背くの?」

 威圧的な言葉に、ピタッと足が止まる。

「もっと近くに来なさい」

 仕方なく、また一歩前に出た。大魔王の言葉は絶対だ。

「もっと」

 脚が触れ合う。白くたおやかな手が伸びた。

 アッサールはその手を見て陶然となる。

(なんと美しい手なんだ)

 手一本だけでも自分のモノにできないだろうか?

 この綺麗な手のことを考えるだけで、アッサールの頭は沸騰してしまいそうだった。

 アッサールは、初めて卵から出てきた彼女を見た瞬間から、虜になっている。

 それなのに、その奇跡の白い手は、アッサールのアッサールをズボンの外に出したのだ!

「──っ!?」
「元気ないわね」
「おやめください!」

 思ったより強い口調になってしまった。

 ぷいっと大魔王は横を剥く。

「いやよ、大魔王の側近がこんなに元気がないなんて、恥ずかしいわ」

 この人何言ってんの!? いつも元気だったらただの変態じゃないか! アッサールはそう喚きたくなった。一体なんのつもりなのか。

「お戯れはおやめください」

 かすれた声は震えていた。おそらく、試されている。アッサールはそう思った。大魔王は、この醜い部下の、邪な気持ちに勘づいたに違いない。

 動かないでと言われた時から、アッサールは命令以外、本当に身動きしていなかった。内心でどれほど主人を辱めようと、表面は忠実。

 けっきょくアッサールには、大魔王を害することなど絶対にできないのだろう。お傍にいられなくなるくらいなら、己の気持ちなどいくらでも殺せると、アッサールは思っていた。

 ところがだ。

 大魔王がアッサールのアッサールJr.を眺め始めた途端──なんということだ!

 アッサールのアッサールJr.は徐々に勃ちあがり始めたではないか。

(見られているだけだぞ! これは大魔王の魔法か? なぶっているのか?)

 しかし大魔王から魔力を放出した気配など感じられない。

 つまりこれは、自分の修行が足りない結果なのだと、アッサールは絶望した。意思に反し、ムクムク勃ち上がる己の一部を恥じ、アッサールは苦悶に顔を歪めた。忠実な部下が聞いて呆れる!

「お見苦しいところを」

 だが、食い入るように──なぜだ!?──見ていた大魔王は、ツンと顎をあげてアッサールのJr.を見下す。

「私、動くなって言わなかったかしら?」

 無茶を言うなこのアマ! なんてチラリとも思わない。なぜなら、この大魔王という存在は魔物にとって至高の存在。そう、神に等しいのだ。だが無茶を言うな!

 そうか、分かったぞ。アッサールは閃いた。

 大魔王に見られている。そのことを忘れれば、きっとこんな破廉恥なことにならないに違いない。我がJr.も命令に背いて勃ち上がることはないに違いない。

 アッサールは腕を組んだ。

「そう言えば大魔王様、知能を持たない魔獣たちの統制は、どうなさるおつもりで?」

 御前であるぞ、跪けムスコよ。


 大魔王は目を剥いた。いきなり事務的になったアッサールの顔を絶句して見上げる。

 堂々とイチモツをさらけ出しながら、アッサールは仁王立ち状態だ。あそこも仁王勃ち状態なのに、平然としているではないか。

「奴隷市場は共に潰していくとして、理性の利かない獰猛な魔獣は、我々の島に集めた方が……くぁぁぁああああああああぁぁぁ!?」

 大魔王の細い手が、彼の仁王様を掴んだのだ。それだけじゃない、ゆっくり扱き出した。

「だ、大魔王さまっ!?」
「続けて?」

 クスッと笑いかける大魔王。

「な、なん箇所かっ……聖王に……ま……魔物の……きょ、拠点を返還させ、くはっ……思念を魔獣に……送って──!?」

 大魔王がJr.から手を放した。寂しく思いながらも、ホッとした瞬間、今度は大魔王が自らのドレスの胸元を押し広げたのだ!

「なっ……」

 たいして胸を覆っていない黒いスケスケ総レースのブラを、可愛い突起がおしあげている。

 この意味を成さない下着と、シルクのドレスだけで調印式に行ったのか!

 なんとバカなことを、あの会場にいた者全員殺さなければダメではないか!

 大魔王はスルッとブラの紐を下げた。

 真っ白な形のいいおっぱいが、プリンプリンと二つ飛び出す。

 艶やかに光る二つの珠玉に見とれ、言葉など出るはずもなかった。

「もっと、近づいて」

 大魔王は組んでいた脚を降ろし、横座りしてさらに部下を招いた。アッサールは逆らえず言う通りにしたが、しかし、大魔王の次の行動に肝を潰す。

 あろうことか大魔王は、ふたつの肉の塊の谷間に、すっかり固まっているアッサールのJr.を挟み込んだではないか。

 ふわんと温かいモノに包まれる感触。例えるなら、風船にお湯を入れて挟んだらこんな感じになるのではないか?

 ふわんふわんふわん──薄い皮に包まれた肉塊に、優しく押しつぶされる。天国なのか地獄なのか。一生懸命挟んでコリコリしてくれる大魔王。

 この人の言うマッサージは、性感マッサージのことなのか!

「き、気持ちよくない?」

 上目遣いで、頬を染めながら聞いてくる大魔王は、完全に悪魔だ。いや、魔王だけど。

 このままでは大魔王の顔に、濁った液体がドビュッシー、どころかプッチーニじゃないか!? そんな侮辱、自分にすら許せない! でも困ったことに、この美しい顔を汚したい、という逆の気持ちにもなっているのだ。

「うっ……ぁぁ……お願いします、おやめ下さい、でないと──くぅはあっ!?」

 巨乳でアッサールJr.を擦りしごきながら、大魔王は赤い唇を開き、その先端を口に含んだ。

「やめっ……」

 チュルチュルと吸われ、アッサールは追い詰められる。

「お願い……です、貴女を……くっ……汚したくない」

 ふっくらした唇が何度も亀頭を行き来し、刺激を与える。それから長い舌を絡めだした。唾液を塗りたくるように満遍なく。

「だめだっ!」

 もう既に我慢汁が出ている。アッサールは大魔王の細い肩を掴み、引き離した。

「出していいのよ」

 大魔王が小首を傾げる。

「ちょうだい?」

 アッサールは肩で息をつきながら、大魔王を睨む。

「私を殺す気ですか? はしたない」

 大魔王は泣きそうな顔になっている。

「アッサール、好きなの。抱いてほしいの」

 涙目で懇願され、やっとアッサールにもゆるゆると通じてきた。

「え?」
「何度も言わせないで。立場を利用して命令したくないの」

 悲しげに、瞼を伏せる。長いまつ毛が、影を落とした。

「体で誘惑だなんて、卑怯だって分かってるわ」

 今さら恥ずかしくなったのか、ブラとドレスをせっせとあげ、胸の膨らみを隠す。相当気まずいようで、もじもじしている。

「そうね、はしたないわね。まずは──」

 不安そうな表情で、大魔王は言った。

「私の恋人になってくれませんか? あ、断ってもいいのよ? でも試しに付き合ってみてはどうかしら? もしかしたら、貴方が思うより相性いいかも── 」
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