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第八章
テオフィルの奪い合い?
しおりを挟む小判鮫アレクシアは目が合った途端、キシャアアアと歯を剥いた。
「やんのかコノヤルオウルォウルォウ」
ゆるふわキャラは完全崩壊し、もはやチンピラみたいに。しかし──
「アレクシア、少し話をさせて」
と、テオフィルに窘められ、シュンとなる。
ギリギリ歯ぎしりしている吉田アレクシアの前で、テオフィルは私に跪いた。
「今までの非礼を詫びたい」
「え……いやいやいや、仕方ないわよ。私怪しかったし、大魔王だし……敵だし」
テオフィルは目尻を下げて微笑む。
「いや、俺はずっと姉を失った悲しみを、魔物を恨むことで紛らわせようとしていた」
ジークやメルヒと同じく、身内を孕まされたのだ。恨んで当然だと思う。
「不毛だった。君みたいに、根本的に変えるよう働きかけるべきだった」
「う……ん」
背後のアレクシアが俯くのが目に入った。本当なら、私が罪悪感を覚えるべきところなのだろうか。
いや、やっぱり責任は作者だろう。
彼の人生の設定はアレクシア──吉田エリザベスにより作られたのだから。
でも、そもそもベスが書かなきゃ生まれなかった人物なんだ。この世界、すべてが。
変な感じ。
この中で生きる私の五感全てが、この世界が本物だと告げている。神が物質化したと言っていたけど、そのせいだろうか。
ここは、私たちにとって唯一の現実。
おそらく吉田エリザベスも、アレクシアに入った今は同じだろう。神がほとんど介入しないなら、運命も私たち次第。
それに、私たちにはもうこの体しか無い。
偽物だろうが異世界だろうが、この世界で生きていくしかないのだ。
「共存が上手くいくよう、お互いがんばろう」
私たちは握手して、その場で別れようとした。
「え?」
アレクシアは私たちを見て驚愕している。
「それだけだっちゃか?」
私たちはキョトンと聖女を見つめ返した。
眼鏡などかけてないのに、アレクシアは眼鏡を直す動作をして、咳払いする。
「あなたたち、惹かれあってるっち……惹かれ合っているのではなくて?」
私はアレクシアの首根っこを掴んで、引きずり寄せる。
「いやいやいや、あれだけ牽制して今さら何言ってるんですか吉田さん!?」
「ベスだっ……アレクシアだっちゃ!」
アレクシアは、怪訝そうに私たちを見ているテオフィルに笑いかけてから、私にしか聞こえないよう小声でもごもご言い出した。
「小説を完璧なハッピーエンドにするには、やっぱり魔王と勇者の方が──」
「あ、そう? じゃあ告ってくる」
「待つだっちゃあぁぁぁぁ!」
涙と鼻水を一緒に出しながらすがりついてくる吉ベス。
「どっちなの!?」
「うううう、作家であるべきか、女であるべきか」
私はヘビ夫妻プロデュースの素敵なドレスに鼻水を付けられたくなくて、聖女を引き剥がした。
「ねえ、聞いて」
アレクシアの目線の高さに合わせて、私は屈んだ。……こいつチビだな。
「うおっ、大魔王おっぱいデカッ」
「そんなことは今どうでもいい!」
私はこっそりテオフィルに目をやる。彼はそれに気づき、ふわっと微笑みかけてきた。
「う~ん」
私はすっかり困り果てる。
「吉田さ──アレクシア。わたしもテオも、前に言った通り、お互い好き合ってる訳じゃないわ」
「ヒロインとヒーローは惹かれあうものだっちゃ!」
仰天するアレクシア。
「もうこの小説は現実なの。グーグラ神が言ってたでしょ?」
「確かに権利を売ったっちゃ。でも、だけど、基本はベスのやり直し小説のまんま──」
「なんだっけ? そもそもあなた、パンティーなんでしょ?」
「パンツァーだっちゃ」
私は、周囲が物珍しげにこちらを見ているのに気づいた。あんまり話し込んでるのは不自然だわね。何せ、聖女と魔王。水と油だ。
「最初から、ベスの思った通りになんて、動いてないじゃない」
私は呆然としている吉田アレクシアから離れ、歩き出した。後ろにヒラヒラ手を振りながら。
作者も、ましてや神々すらも関係ない。
私は、今までもこれからも、自分の意志でしか行動しない。
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