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再会編
催眠
しおりを挟む翌朝まだ暗いうちに、わたくしは一人で手荷物を纏め、身支度を整えました。
ドレッサーの引き出しに隠しておいた、茶色の封筒を取り出します。
そして朝食の席に、それを持っていったのです。
酸味のあるフルーツがメインの朝食の後、ベルトラン様は食後のハーブティーだけになったテーブルに身を乗り出し、わたくしを凝視いたしました。
「さて、話はできるかい? 朝食はちゃんと食べられたようだね」
「はい」
「君はいま、身ごもっているんだね?」
わたくしは観念して目を閉じ、口を開きました。
「その前に、人払いをお願いできますか」
ベルトラン様は頷いて、使用人たちを下がらせました。
「もう一度聞くよ、君は僕の子を身ごもっているんだね?」
僕の子! わたくしは目を開きました。目尻からポロッと涙が零れます。
私が不貞を働いたとは、微塵も疑っていないのです。
ベルトラン様は夜は意地悪ですけれど、何一つ変わっていない。
学園時代の、みんなの王子様そのものです。
わたくしはポケットの切り込みから書類を出し、ベルトラン様の前に広げて出しました。
怪訝そうに目を落とす夫。それに目をやった途端、固まってしまいました。
「サインをお願いします」
「ミレイユ──!」
驚いて顔を上げたベルトラン様のブルーグレーの瞳と、わたくしの地味な茶色の瞳が絡み合いました。
「さあ、サインを」
わたくしのこの妙な能力は、いつの間にか力を増していたようです。
ベルトラン様クラスの魔力持ちにさえ、あっさり通じてしまいました。
フラッと立ち上がるベルトラン様。
窓辺のペン立てから万年筆を持ってくると、右手で書類に記入しようとします。
ところが、ベルトラン様の左手がそれを掴み、邪魔をするのです。
ベルトラン様の目には紗がかかっているのに、脂汗をびっしり浮かべ、わたくしの指示に逆らおうとしているのです。
なんて強い意志なのかしら。正義感がそうさせるんですわね。ベルトラン様は、避妊魔法を失敗したことに責任を感じている。
だから、わたくしを捨てるおつもりは無かったんだわ。
どこまでも、ベルトラン様ですわ。わたくしは苦笑いしました。
「ベルトラン様、サインをするのです」
やっと、ベルトラン様の腕が動きました。
わたくしは、ガタガタの文字を見ながら悲しげに言いました。
「あなたが本当に望む妻をもらうために、必要なことなの」
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