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再会編
不自然なベルトランスマイル
しおりを挟むショッピングは、デートみたいで楽しかったのです。
憧れの有名ブランドで何着もお洋服を作ってもらって、気分が高揚していました。
だからうっかり、皆の前で離婚なんて口走ってしまって……。
「冗談ですわ! オホホホ」
慌てて言うと、店内はドッカンドッカンわざとらしい爆笑に包まれました。
「やだ、奥様ったら、オホホホ」
「エスプリ効きまくりウケる~」
「襟はフリルを立てた昼用のスタイルにいたしましょうね!」
「いいですわね! こちらは以前、王女様が着たスタイルですし、夜でもおかしくないのですよ」
「乗馬服で来られるような、お転婆な姫様みたいですからね!」
みなさん、気を使わせてごめんなさい……。
なんとか誤魔化したけれど、離婚の二文字が常に頭にあるから口が滑ってしまったのね。
働く気はございます。
ただわたくしは、土壌や改良作物の研究をしてきたので、働くならそっち方面だと思いますわ。
店を出ると、わたくしに再び腕を貸すベルトラン様。
「疲れない? どこかで休もうか。ケーキの美味しいカフェがあるんだ」
やだ、本当にデートみたいですわ。でも、張り付いたような笑顔が怖い!
「君は、カフェでも働かせてくれって言うのかな?」
やっぱりこの笑顔は、不機嫌を隠すためのベルトランスマイルですわね!
動揺して躓き、転びそうになりました。
「おっと」
ベルトラン様がスマートに支えてくれます。
「どんくさいな、ミレイユは」
腰に手を回して誘導してくれました……。
ベルトラン様は、なんでこんな風に優しくしてくれるのかしら。
正直、復讐するなら──夜あんな意地悪をするなら、こういうのはやめて欲しいのですけどね。
一喜一憂してしまう自分が、嫌なのです。
オシャレなカフェに入ると、ミルクチョコレートのケーキを頼むベルトラン様。
「生クリームがたっぷり入っているんだ。僕は甘いものが苦手なんだけど、君を見ていると……きみの髪や瞳を見ていると、ついコレを食べたくなってしまう」
お砂糖もミルクも入ってないカフェのほろ苦さにあっていて、とても美味しいのだけど……。
「まったり濃厚で、君の唇みたいに蕩けそうになる」
そんな歯の浮くようなセリフを言われると、落ち着いて食べられませんわ!
「ベルトラン様、これも復讐でしたら──おっふ!」
「ついてる」
唇に手を伸ばされ、チョコを拭われました。
その指をペロッと舐め、クスッと笑ってみせるベルトラン様。なにこれ、拷問? 萌え死の刑ですの?
わたくしは赤くなって、恨みがましくベルトラン様をじっとり眺めます。
わたくしにとって、貴方の偽装結婚期間は、諦めるための期間なのです。
ますます好きになってはいけないのです!
なんて言ったら、気持ち悪がられるでしょうね。離婚の同意書は渡せずじまいで、彼からしたら安心できないでしょう。
ふと、カフェのガラス窓の向こうから、手を振っている女性に気づきました。
その方は乳母車をメイドに預け、店内に入ってまいりました。
ボンネットを脱ぐと、青く輝く銀の髪をシニヨンに結った美しい顔が現れました。
「ベルトラン様、お久しぶりですわ。はじめまして準公爵夫人」
スカートをつまみ、足を引いて屈んだのは、あ、あ、悪役令嬢! 違いました! 元悪役令嬢!
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