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再会編
気まずい再会
しおりを挟むわたくしは、ガチガチに緊張してマナーハウスの応接室に座っておりました。
どうしてこうなったのか分かりません。
うちにアンティーブ公爵家から結婚話が来るなんて……。でも、受けないという選択肢はございませんでした。
ベルトラン様がどうしてこの話を断らなかったのか。
考えてみました。
一、わたくしを覚えていないから。
いえ、あの屈辱は覚えているかもしれませんが、私の名前を忘れているとか……そうだと嬉しいのですが。
二、一言恨み言を言いたいから。
つまり、これから断られるのです。一目会ってから「結婚なんてするわけないだろ、このブス!」と罵られるとか。
三、復讐。
あの時は、わたくしのしたことを見逃してくれました。でも、荒れて遊び人になってしまったと噂のベルトラン様は、気づいたのかもしれない。
自分を変えたのが、あの時の逆レイパーモブ令嬢だってことに。
殺されるかもしれない。
いえ、あの方は高潔なお方。いくらヤリチンになったとしても、家門に傷がつくようなことはしないでしょう。
だとすると、敢えて結婚してわたくしをどこかに閉じ込め、虐待の限りを尽くすのではないか、そう思ったのです。
ゾッとなりました。
でも……。
わたくしは、そこから逃げてはいけないような気がしました。
それが、一人の完璧な男性に汚点を作ってしまった、わたくしの贖罪なのだと思ったからです。
その時、ビーバー革のトップハットを脱ぎながら、オリーブグリーンのモーニングコート姿のベルトラン様が、執事に案内されて入って来ました。
わたくしはそれを見て、これはダメだわ、と思いました。
ぜんぜんダメです。わたくしは、再び彼にメロメロになってしまったのです。
乗馬がてらフラッと寄ったような恰好ですが、なぜ彼が着るとこんなカッコいいのでしょう。
襟の高いシャツの上から、クラヴァットをぐるぐるに巻いて苦しそうに見えないのは、首が長いからですわ。
前身ごろの短いコートから伸びた、すらりと長い足。膝下のブリーチズにトップブーツ姿は、長い脚をさらに長く見せます。
あの戦争のあと、貴族は攻撃魔法と体力強化を義務付けられました。定期的に訓練に参加しなければならず、そのせいか学生時代よりガッチリ逞しくなっておられるのです。
もう本当に、ダメですわ。悶え死にます。
わたくしには、帽子の下から現れたゴージャスな黄金の髪が眩しくて、まともに見てられません。
歩く兵器。リーサルウェポンとは、彼のことなのですわね。
しかし、なぜか彼は応接間を見渡しています。
使用人たちと一緒に出迎えたわたくしに、コートと帽子を預けながら、まだキョロキョロしてらっしゃいます。
やがて、視線をわたくしに向けました。大変困惑した様子で。
「失礼、侍女殿。こちらの伯爵令嬢と約束があって──」
侍女と間違えられた!
いえね、お父様ったら相手方の「今すぐ行くから」という音声通信に、二つ返事でOKしてしまったのです。
お庭いじりをしていたわたくしは、着替える暇も無かったのですけれどね?
貴族の婚外子であるわたくし付きのレディースメイドの方が、むしろわたくしより色味も派手ですしね……分かってはいるのですけれど。
選択肢その一、そうですわね、覚えてない? え? 本当に覚えてないんですの?
「ミレイユ嬢は今どちらに?」
聞かれて、わたくしはおずおずと手を挙げました。
「あの、わたくしです」
ベルトラン様は、すっかり固まってしまいました。
「まさか」
ブルーグレーの瞳が、わたくしを上から下まで眺めます。
「君があの時、僕を強姦──」
「きゃああああきゃあああきゃあああああ!」
言わないでくださいましっ!
使用人の目もございますから! ベルトラン様はハッとなり、使用人たちに目配せしました。
「すまないが、こちらの当主には許可を得ている。今日は二人きりにしてほしいと」
人払いをしたベルトラン様が何を考えているのか、その表情からはまったく読み取れませんでした。
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