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学園編

ベルトラン様の卒業

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 わたくしは、自分で可能性をぶち壊したのでしょうか。

 だってベルトラン様は、意中の悪役令嬢とは卒業パーティーのパートナーにはなれなかったようなのです。

 つまりフリー。

 あんなことをしなければ、わたくしにだってチャンスがあったのかも……。

 なんて、馬鹿なミレイユね。

 たくさんの令嬢が申し込んだようですが、キラキラした皆さんですら、お断りされたのに。

 やはり、可能性なんてわたくしには最初からありませんでした。

 強硬手段に出るしか無かったのです。そうでしょ?




 ──ごめんなさい。



 もう、分かってます。バカでした。

 例え責任を感じてもらって結婚にこぎつけても、憎まれ続ける人生になってしまうのに。

 いえ……そんなことではないわね。

 わたくしは罪を犯しました。

 許し難い、卑怯者。

 自分勝手な理由で彼を傷つけ、汚し、犯罪に手を染めたのです。

 あるのは虚しさと申し訳なさと後悔だけ。

 どうかしてました。

 ベルトラン様が戦地に行ってしまう前にと……本当にバカでしたわ。

 謝って済むことではない。謝ったところで、そしてたとえ許してもらえたところで、自分の卑劣さは変わらない。


「パートナーに選ばれなくても、下級生は講堂で出待ちオッケーみたいですわ!」

 誰かが教えてくれましたが、出待ちなんてとんでもない。最後にひと目見たかったけれど……。

 ベルトラン様の目に触れないように、隠れていることしかできない。

 この薄汚い罪人を、彼の澄んだ視界に入れてはいけない。

 わたくしにできるのは、それだけ。



 そうしてベルトラン様は、卒業していったのです。

 幸い、本校の卒業生による研究成果のおかげで、防衛結界は補強され、戦争は短期終結しました。

 国内には国境付近も含め、平和が訪れたのです。


 わたくしは、ベルトラン様を見ることすらできなくなった寂しさにげっそり痩せ、しばらく抜け殻のようになっていました。

 でも月日が経つにつれ、わたくしの心にも平穏が訪れたのです。

 たぶん、自分の犯した罪の大きさを自覚することにより、結婚に対する焦りが無くなったせいでしょう。

 高潔な彼を傷つけたわたくしに、結婚する資格などない。

 ううん、違いますわ。正直に言いますわね。

 わたくしは、いつの間にかベルトラン様との結婚以外に興味が無くなっていたことに、気づいたのです。

 わたくしの精神が安定したからでしょうか。学年が上がるにつれ、痩せっぽっちだったわたくしの体には少しずつ肉がつき、女性らしい丸みを帯びていきました。

 憩いの森で愛を語ろうと、昔のわたくしのようにギラギラした男子生徒たちから誘われることも、度々ございました。

 さらに最終学年には、たくさんの卒パのパートナー依頼が来ました。

 でも、すべてお断りしました。

 その中には、確実に魔力後継者を作りたい高位貴族の令息もいましたのに……。

 ありがたいことですが、好きな人でないと意味をなさない。ベルトラン様の言うことが、そのままわたくしにブーメランとなって刺さったのです。

 好きでもない相手と密着し、身体をまさぐられ、管を挿入される。

 考えただけで、ぞっとするのです。

 わたくしは、あの時のことを愚行だと思っておりますが、好きな方と体を合わせるという、貴重な経験をいたしました。

 親に言われるがまま結婚した相手とでは経験できないような、素敵なセックスをしたのですものね。

 その経験は、呪縛となってわたくしを結婚から遠ざけたのです。

 後継者無し、結構。平民落ち、結構。

 家庭教師の職でも見つけて、どこかの領地でひっそり余生を過ごしましょう。


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